義妹ママ VS 後輩ママ②
雛姫と明石涼子は俺を挟んでしばらく凶悪な笑みを浮かべたまま睨み合っていた。
そして明石涼子が先攻後攻のどちらを選ぶかという話を切り出すと、双方が先行を主張した。
「では、平和的にじゃんけんで」と明石涼子が提案して、
「ええ、それでいきましょう」と雛姫がそれに応じた。
「「じゃんけん、ぽん!」」
雛姫がグー。明石涼子がパーをだしていた。
雛姫は握りしめた震える右手を見つめながら既に勝負が決したかのように悔しがった。
明石涼子は、ざっとこんなものね、という風に開いた右手を左右に振りながら勝ち誇った表情をしていた。
そして早速、試合開始の前に二人は最終的なルールの確認をはじめた。
「一応、カラオケルームなので監視カメラがあそこに付いているの分かる?」
明石涼子はそう言ってテレビ台の上を指さした。確かにテレビ台の上に黒い半球の形をした物体が置かれている。どうやらあれが監視カメラらしい。
「あれに映るとやっかいだから、プレイ中ではない人はテーブルに座って影になること」
「うん、分かった」と雛姫はテーブルの向かい側に移動して影になった。
影役はテーブルに直接座ることになるが、これなら俺たちの姿は映らないだろう。カラオケルームに監視カメラがある事を知らずに恥ずかしい目に会った人の話は聞いたことがあるのでこれは重要な事だ。
「あと、授乳プレイはそうね。生おっぱいは禁止。服の上からならセーフでどう?」
そう明石涼子が提案した。
おそらく前回、俺が授乳プレイのせいで逃げ出したからその確認をしているのだろう。
「……分かった。それで良いよ」
少し雛姫も迷ったようだが、その案に同意した。
生でなければOKとしたのは、雛姫がおっぱい勝負では自分の方が有利だと分かっているからだろう。明石涼子よりもおっぱいは雛姫の方が大きいのだ。だから授乳プレイの完全な禁止は雛姫の有利にはならないと判断したに違いない。
「そう、私は前回同様に生おっぱい有でも別に構わないのだけれど」
明石涼子はとんでもない発言で雛姫を挑発した。
それを耳にして俺はサァっと青ざめた。ななな、何を言うんですか!
「それはさせません…… って、何。まさか涼子さん。前回お兄ちゃんと……」
「さぁ、それはどうかしらね」と明石涼子はニヤニヤ笑いながら答えを濁した。
雛姫が「お兄ちゃんっ」と凄まじい目をして俺の方を見たので、俺は慌てて首を左右に振る。
「やってない、やってない。本当にやってないから!」
未遂です、とは流石に言わない。でもやってないのは事実だ。
雛姫は必死で否定する俺を胡乱な瞳で見つめていたが、溜息をつくと明石涼子に言った。
「とにかく生おっぱい禁止! 服越しならOK。それでいきましょう」
「分かったわ。他に何かある?」
「各自の持ち時間は?」と雛姫が聞くと、
「そうね、20分でどうかしら」と明石涼子が答えた。
「20分…… 分かった。そうしましょう」
「それではさっそく私から始めましょうか」
ルールの確認はこれで終わったみたいだった。
さっそく明石涼子は俺と向き合うように身体を動かすと、俺の目を見てこう言った。
「さて、兄妹でバブバブしちゃうイケナイ先輩を私が今から真っ当にしてあげますね」
彼女は誘うような眼差しで俺の頬を優しく撫でると自分の膝をポンポンと叩いた。明石涼子は本当に自分が産んだ赤ちゃんに話しかけるみたいに優しい表情をしていた。
「はい、後輩ママでちゅよ~。先輩赤ちゃんは膝枕しまちょうね~」
明石涼子は『先輩を今から真っ当にしてあげますね』と言った口で、その五秒後に『先輩赤ちゃんは膝枕しまちょうね~』と壮絶に辻褄の合わないことを言っていた。
なんという矛盾。矛盾……
それは最高の矛VS最硬の盾をぶつけたらどうなるかという故事成語だ。
『子の矛を以て、子の盾を陥さばいかん』ってやつだ。あっ、これイカンやつだ。
ここに至ってようやく俺は今から何をされるのか具体的に理解できてきた。つまり俺は今ここで雛姫の前で明石涼子にバブバブしなくちゃいけなくて、しかもその後に明石涼子の前で雛姫にバブバブしなくてはいけないということらしい。
なんという生き恥。なんという羞恥プレイ。
目の前の二人は俺の人間としての尊厳を一体どう思っているというのか?!基本的人権の尊重は一体どこに行った、憲法改正論ってそういう内容ではなかったはずだ。
二人の女性を相手にして赤ちゃんプレイを交互にさせようとは。全く、こんなバカなこと成人男性たる俺がするはずがないではないか……
「ボクちゃん、ナデナデしてあげちゅからね~」
「はい、ママ~」
即堕ちだった。
後輩ママンに頭を撫でられた瞬間、俺はママンの膝の上へと堕ちていた。
どうしてでちょう、ナデナデされたらていこうできなくなりまちた。
ママのおひざ、きもちいぃでしゅ~
「よしよし~ いい子でちゅね~」
母性溢れる表情で明石涼子は俺の頭を優しく撫でた。
うっとりと気持ちよさそうに撫でられている俺の姿を雛姫が恨めしそうに見ている。
ああ、お兄ちゃんを見ないで!こんな恥ずかしいお兄ちゃんの姿を見ないでぇぇぇ。
「うう~、恥ずかちぃでちゅ~~~~っ」
俺は素直に今の気持ちを言葉にした。
ちゃんとルールに従って赤ちゃん言葉で話すあたり俺は成人男性としてもう駄目かもしれない。かもしれないというか、駄目だろ。駄目人間だろ。
だが、恥ずかしいのに何故か気持ち良いのだ。
あろうことか雛姫に見られているかと思うと、今までよりもずっと気持ち良かった。
雛姫が見ているのに、何故かもっと無様を晒したい気持ちになってくるのだ。
マゾの自覚はなかったが、どうやら俺はいけない何かに目覚めてしまったようだった。
「大丈夫でちゅよ~。赤ちゃんだから何も恥ずかちいことはありまちぇんよ~」
明石涼子は俺の上半身を抱き起こして自分の額を俺の額に当てた。
いつもよりもずっと優しい瞳に見つめられた俺は、心が自由になっていくのを感じた。
女の子の温もりって不思議だ。心が安らいで何も考えられなくなる。
「はい、私の可愛い赤ちゃん。ガラガラでちゅよ~」
明石涼子はいつの間にか用意していたガラガラを俺の前にかざして振った。
ガラガラというか…… それはマラカスだった。
歌を盛り上げるために設置されたマラカスをガラガラの代用品として使用する高等テクニック。雛姫はそれを見て、コイツ……できる、みたいな顔をしていた。その雛姫の視線を感じとった明石涼子はニヤッと笑みを浮かべた。
「そ~れ、ガラガラ~。ガラガラ~。楽ちぃでちゅね~」
「ん~~、きゃっ、きゃっ、楽ちぃでちゅ~~~~~~」
プレイだと分かっているのに、何故だかマラカス……ではなく、ガラガラがシャンシャンと音を奏でるのが妙に楽しかった。俺は完全に赤ちゃんになりきって手足をバタバタさせて喜びを表現した。シャンシャンというリズムに合わせて手足をバタバタさせると、なんだか自分が解放されていくような気持ちになる。なにこれ、楽しすぎる。
「手足をバタバタできて立派でちゅね。ほらいい子いい子~。ご褒美でちゅよ~」
明石涼子はあろうことか、ご褒美と言って俺の唇にキスをした。
それは不意打ちだった。あまりにも自然で、あまりにも唐突なキスだった。
俺もそうとう吃驚したが、それ以上に吃驚している人物がいた。雛姫である。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
雛姫は完熟したトマトのように顔を真っ赤にして激怒していた。
殺気立って今にも飛び掛かってきそうな殺気立った目つきをしている。
だが、確かにおっぱい禁止とはいったがキス禁止とは言っていない。
歯を食いしばりながら割って入りたい衝動を雛姫が必死に我慢しているのが分かった。
「チュッ、チュッ、チュッ、チュッ~~~~~~~」
とはいえ更に額、両頬、唇の順番に連続でキスをしているのを目の当たりにした雛姫は流石に我慢の限界を迎えたらしい。身を乗り出すようにしてテーブルを両手で叩いた。
「キスも禁止ッ!絶対、キスも禁止です!」と大声で叫んだ。
「親子水入らずのスキンシップに部外者が入ってこないでもらえます?」
一方、間近で怒鳴られたにもかかわらず明石涼子はクールなものだった。
今はターンではない妹ママンを部外者扱いして自分の時間だと主張した。
「後出しジャンケンは卑怯ですよ。赤ちゃんもそう思いまちゅよね~」
「ば、ばぶっ?!」
赤ちゃんモードになっていた俺は急にそう言われて驚いてしまった。
思わず、赤ちゃん言葉で対応した俺に雛姫は激昂した。
「お兄ちゃん!」
雛姫の叫び声で正気に戻った俺は、素に戻って、
「は、はい。じゃ、じゃあキスは禁止で」と言った。
「はぁ、赤ちゃんがそう言うなら仕方ないですね。でも、雛姫ちゃんも守ってね。キスは禁止ですから」
「ず、ずるい……」
少し涙目になりながら雛姫はそう呟いた。
明石涼子だけ俺にキスして、自分は駄目だというのが不公平だと感じたのだろう。
どうやらこの件に関しては明石涼子の方が一枚上手だったようだ。
「では続きといきましょう。あ、今のやりとりの時間分の5分は延長しておいてね」
「3分もなかったでしょう? 3分で」
「5分」
「3分で」
「5分」
「3分!」
「5分で」
「んっ、もう。4分」
「オッケー」
雛姫が妥協して明石涼子がそれに乗った。
明石涼子、したたかすぎだろ…… と俺は結構、引いていた。
これ、ママというよりオカンだろ。大阪のおばちゃんレベルの値引き戦だっただろ。
同じ陸上部で一緒に汗を流してきたが、こういう一面があったとは今まで知ることはなかった。女性というのはどうやら色々な顔を持っているらしい。明石涼子と付き合う男性は間違いなく尻に敷かれるだろうと俺は思った。
「では、おじゃま虫さんが入ったけれど続きをしまちょうね~」
そう言って人差し指を俺の口元へ近づけた。
あれだ、例のおしゃぶりだ。最初は戸惑ったが、二度目ともなれば何を要求されているのかすぐ分かった。そのため俺は躊躇うことなくその指にしゃぶりついてしまった。
その躊躇いのなさに「何、今のどういう事?」と雛姫が呟いて、それを耳ざとく聞いていた明石涼子はわざわざ俺に向かってこう言った。
「わぁ、よくできまちたね~。前よりもずっとお上手でちゅよ~」
俺に向かっていった言葉だが、その実、雛姫に向けた言葉だ。
ふと、雛姫の方へと目をやると、雛姫の顔が犯罪者のソレになっていた。
俺、これが終わったら生きて帰れるのだろうか?
正直かなり不安になってくる。
そんな心配をしつつ明石涼子の指をチュパチュパとしゃぶっているのだから、俺もずいぶんと業が深い。だって、コレ、美味しいんだもん。
女の子の指を舐めるって変態っぽいかもしれないけれど、妙に楽しいのだ。
男のようにゴツゴツしていない滑らかな手。肌はすべすべで一本一本がとても細い。指は清潔にしており、石鹸の香りが仄かにする。日常を送るうえで色々なことをしている女の子の指を舐める、という行為には倒錯した喜びが存在するのだ。
「よくできまちたね。じゃあ、次はご褒美のおっぱいですよ~」
明石涼子はそう言うと、俺の口に服越しとはいえおっぱいを押し付けてきた。
彼女は紺色のセーターを着ていたが、その上からでもダイレクトに胸のやわらかさが伝わってくる。だが、しばらく顔をおっぱいに埋めていると俺はとんでもないことに気が付いてしまった。
やわらかい…… ってか、やわらかすぎる……
セーターの下に着ているはずのブラジャーの感触がないのだ。
まさかコイツ。ドリンクバーに行ったついでにお手洗いで……
なんと、この試合が始まる前から準備は粛々と進められていたのだった。
つまり明石涼子は自分だけブラジャーを脱いでおいた上で、試合開始前のルール確認で『生おっぱい禁止、服越しならOK』のルールを提案したわけだ。なんという抜け目のなさ。
「はい、お口あ~んしてね~」
俺は雛姫に動揺を悟られないように細心の注意を払いながら、明石涼子の命令に従った。柔らかいだけでない。口の中に少し硬くてコリッとした感触がした。ヤバい、ヤバすぎる。これはマズイ。
素直におっぱいに顔を埋めた俺を明石涼子は狂気の母性とも言うべきなんとも恐ろしい目つきで眺めていた。こ、怖い。怖すぎる……
「おぎゃぁぁぁぁぁ、おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そこで俺は泣くという手段に出た。
それは泣いて口を開くことでノーブラ授乳地獄から逃れる妙手だった。
「あらあら、どうしたのかな? いい子だから泣き止んでね~」
明石涼子は俺の上半身を優しく抱きしめながら、頭をナデナデとした。
柔らかな胸の中で頭を撫でられるとさすがに俺も暴れる気力が奪われる。しばらく、俺は明石涼子にされるがまま撫でられていた……
「タイムアップです!」
一刀両断といった感じで時間切れを告げる雛姫の不機嫌な声が部屋に響いた。
「時間切れなので、お兄ちゃんから離れて下さい!」
雛姫の警告を無視して数回俺の頭をナデナデしてから、ようやく明石涼子は俺をハグから解放した。まるで時間いっぱいになっても回答を続ける受験生のような往生際の悪さだった。
「どう、先輩。楽しかったでしょう?」
楽しかったのと怖かったのが半々というのが正直なところだった。
だが、それでも十分に癒されたのは間違いなかった。
女性に優しく抱かれれば無条件に心が落ち着くのは男性ならば当然の反応なのだ。
俺は素直に首を縦に振って、明石涼子の言葉を肯定した。
「ふふっ、次は雛姫ちゃんの番よ。そんな人を殺しそうな目つきのまま先輩を癒すことができるのかしら?」
挑発的な口調で明石涼子は言った。
どうやら、ここでも高度な心理戦が行われているようだった。雛姫の怒りを煽ることで彼女から母性を奪い取る。明石涼子はそういう罠を仕掛けていた。
「できるわっ。だって、私はあなたよりお兄ちゃんを愛してるもん!」
堂々と雛姫はそう宣言すると、俺に向かって優しい笑みを浮かべた。
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