二人の遭遇

 レストランの支払いを終えて外に出ると、雛姫は「ごちそうさま、お兄ちゃん」と言って腕を組んできた。柔らかな双丘の感触が腕に当たって、俺は少々落ち着かない気分になる。雛姫が血の繋がった妹なら何とも思わないのだろうが、血が繋がっていない妹との距離感は未だに掴みづらい。


 ただ雛姫に対する複雑な想いというのは、血の繋がっていない妹だから、という単純な理由から来ているものではないだろう。おそらく、雛姫が俺の思い出の中の母さんとどことなく似ていることと無関係ではない。

 頬を俺の二の腕にくっ付けて歩く雛姫を見つめながらそんな事を思う。




 雛姫と家族になったのは六年前だ。

 つまり、俺の父親である赤坂竜司と雛姫の母親である美奈子さんが再婚したのが六年前ということになる。再婚を機に美奈子さんは父の姓を名乗って赤坂美奈子になったが、雛姫は美奈子さんと一緒に赤坂の姓へと変更することを拒んだ。


 戸籍上の変更手続きが面倒だったから、というわけではない。

 雛姫からはっきりと聞いたわけではないが、交通事故で亡くなった父親の姓を雛姫が捨てるのを嫌がったというのが本当のところだろう。

 だから雛姫は今も生まれた時とかわらず逢妻雛姫と名乗っている。


 親父と義母さんは再婚同士でありながらお互い伴侶に先立たれているため離婚経験がない。二人とも心から愛していた人を失い、愛していた人を失った同士でくっついたわけだ。似通った境遇の二人が似通った境遇の異性を好きになった、ということだろう。

 俺が美奈子さんに抱く感情は実のところかなり複雑だ。

 この心情の複雑さに関しては俺が雛姫に抱いている感情よりも更に複雑かもしれない。


 親父が母さんのことを忘れて美奈子さんと再婚したのが気に入らない、といった子供じみた感情は俺にはない。俺は親父たちの再婚を反対したことはないし、むしろ親父にとって美奈子さんのような素敵な人と出会えたことはとても良い事だと、基本的には、そう思っている。あれほど素敵な女性は絶対に幸せになるべきだし、夫である俺の親父には美奈子さんを幸せにする義務があると思っている。


 ただ、俺にはどうしても親父が母さんのことを忘れられなくて美奈子さんと再婚したことが分かってしまう。


 だって、あまりにも美奈子さんは俺の母に似すぎている。

 それに関しては俺の勘違いである可能性は少ない。美奈子さんの顔はそれなりに母さんに似ている。母さんと美奈子さんを並ばせて、姉妹だと言われたら疑う人はそういないだろう。


 しかし、それだけなら親父の好みの傾向が偏っているだけだと納得できるかもしれない。だが、話し方と声質に関してはそっくり、というレベルを超えている。記憶の中の母の声とほぼ同一だ。目を瞑って美奈子さんの声を聞いていると、母さんの声だと錯覚してしまうほどだ。そのうえ物腰や雰囲気まで似ているせいで、美奈子さんと話していると時折母さんが生き返ったような感覚に陥ってしまう。


 俺はたまに死んだはずの母さんは実際には死んでいなくて、記憶と姿を変えられたまま美奈子さんという人物として今まで生きてきたのではないか? なんて阿呆なことを妄想することがある。馬鹿な妄想をしているものだと理解はしているのだが、妄想は止められないから妄想なのだ。


 おそらく俺の親父も同じような感覚を美奈子さんに抱いているはずだ。気のせいではないだろう。俺もあの人の息子だから分かることがある。表面的には違っているように見えても、俺はその根底にある考え方や性格の本質が親父に似ていることを自覚している。


 そのうえで俺は『親父は未だに母さんを愛していて美奈子さんの自身のことを本当は愛していないのではないだろうか?』という疑念を抱かずにはいられないのだ。


 もちろん、それは親父と美奈子さんの問題であって、俺の問題ではない。更に付け加えるなら、それは俺の取り越し苦労である可能性の方が高い。実は俺もそこら辺までちゃんと分かってはいるのだ。


 愛というのは単純なものではない。

 たとえ亡くなった妻の面影を美奈子さんの中に見出していたとしても、親父が美奈子さんという個人を愛していないかと言えばそうではないだろう。今もなお親父が母さんを愛していたとしても、美奈子さんを愛していないとは言えない。


 だが愛というのは、はいそうですか、と割り切れるものでもないのだ。


 俺はこのことを考え出すと自分が何をしたいのかよく分からなくなる。考えたところで俺がどうこうできる問題ではないのだし、別に何かして現状を変えてやろうという意思すらないのだ。今の状況に満足していないわけでもないのだから。


 しかしそんな無益なことを考えずにいられないのは、その問題は俺が抱えている雛姫に対する問題と関わっているからだろう。なぜなら、俺は愛らしい雛姫のその先に母さんの面影をやはり思い出さずにはいられないからだ。


 雛姫には四年前に好きだと告白されて、俺は返事を保留している。

 その時、俺はこんな風に答えたはずだ。


「雛姫の事は好きだよ。女の子として、とても魅力的だと思う。でも付き合うかどうかは別問題だ。雛姫の問題じゃない。俺の問題だ。雛姫とは義理とはいえ兄妹だから、というのもあるにはあるけれど、本質はそこじゃないんだ。だから返事は保留させてくれないか?

 雛姫がちゃんと大人になって、まだ俺の事が好きだったらその時にもう一度告白して欲しい。きっとその時には俺の方にも気持ちの整理はついていると思うから」


 保留した理由は色々ある。

 雛姫の顔に母さんの面影が重なる、というのは理由の一つではあるが一番の理由ではない。最大の理由はその頃、二つ上の彼女と別れたばかりだったからだ。


 中学の時に放送委員で一緒だった二つ上の先輩がその人だ。付き合うようになったのは彼女が中学を卒業して一年後。俺が中学二年生で、彼女が高校一年生。偶然、街の本屋で立ち読みをしていたら彼女が声をかけてきて喫茶店に誘われたのだ。その時に俺は気安い感じで「俺、実は先輩の事好きだったんですよ」と伝えた。


 別に、今更付き合えるとは思っていなかった。ただ今伝えておかなければ、一生俺の気持ちが伝わることがないような気がして、なんとなく口にしただけだった。でも先輩から返ってきたのは意外な言葉だった。


「じゃあ、付き合ってみる? 赤坂君のことは私も悪くないと思っていたんだよね」


 彼女と付き合って三年ほど関係は続いたが、破局はあっけなかった。高校を卒業してそのまま地元企業に就職した彼女から、ある日メールが届いたのだ。


『会社の先輩の事が好きになりました。もう会えません。ごめんなさい』


 という、とても短いメッセージだった。

 終わりというのは思いのほかあっけなかった。そんな風に事実だけを告げられた後、メールを数回やり取りして、どうにもならなくてそれで終わりだった。巨大な竜巻によって一瞬で全てが巻き上げられて何も残らない土地に一人だけ残された気分だった。


 初めての失恋が十代の少年に与えるダメージは絶大だ。

 誰もがそうやって傷ついて成長していくのだ、という月並みな慰めは当の本人にはあまり意味をなさない。初めてだから傷つき慣れていなくて、立ち直るにも相当な時間がかかる。


 今ごろ彼女が見知らぬ他の男に触れられているのだ、なんてことを想像すると所かまわずに叫びだしたい気分になった。自分以外の男の唇が彼女にキスしているのだ、などと考え出すと目に映る全ての物を破壊したい衝動に駆られたりもした。挙句の果てには、世界で一番不幸な人間は俺なのではないか? そんな馬鹿な勘違いさえもしだした。

 若者というのは得てしてそういうものだ。




 雛姫に告白されたのはその失恋から三週間ほど経った頃だ。

 俺はまだ気持ちの整理もできず、鬱屈とした感情を抱えたまま毎日をどうにか生き延びていた。そんな状態で彼女の気持ちを受け入れるなど不可能だった。


 若い女の子というのは環境が変われば案外と目移りしやすいものなのかと失望していた俺は、雛姫ももしかしたらそうなのではないだろうかと怖くもあった。

 だから俺は雛姫の告白を保留した。


 ちゃんとした答えを出すためには時間が必要だったのだ。

 それはきっと俺にとっても、雛姫にとっても。




 あれから四年経った。

 こうして雛姫と腕を組んで並んで歩いていると二人の関係性も変わりつつあることを自覚する。距離感が恋人のそれとあまり変わらない。にへらっと嬉しそうな表情で俺の二の腕に頬を引っ付ける雛姫は凄く可愛くて、あの頃よりもずっと雛姫のことを好きになっている自分を発見する。


 先日の一件があるまでは雛姫がここまで俺に密着してくることはなかった。俺もそろそろ覚悟を決めなくてはならないのかもしれない。そんな風に思いながら雛姫の方に目をやった。


 額からすっと伸びた眉と少したれ気味でおっとりとした瞳がとても美奈子さんに似ている。初めて会った時はまだ子供っぽさの強いあどけない印象の顔だったけれど、いつの間にか大人っぽい色気が交ざりはじめている。薄っすらとお化粧もしているだろう。


 ふっくらした唇には薄紅色のリップクリームが塗られて、頬には仄かに赤みのチークが入っている。眉は自然に整えられており、瞳の周りには薄くアイシャドウが塗られて雛姫の大きな瞳をより印象付けていた。


 可愛いは作られる、なんて言葉をたまに耳にするが最初から可愛い雛姫がさらに可愛くなるなんて反則だと思う。子供っぽさと大人っぽさが混在した容姿はだんだんと大人の側へと傾きだして以前よりもずっと美奈子さんに似てきた。


 そんな彼女を天馬荘へと連れ込んで俺はまたあんなことをしようとしている。二人の関係性はこうして徐々に決定的なものへと変化しようとしている。回路が俺たちをそういう方向へと導こうとしている。


 回路の指向性に対して当事者が抗うことは難しい。

 依存性の薬物を止めることが難しいように、心の欲求に根付いた回路に逆らうのは困難なのだ。俺は雛姫に依存しはじめている。雛姫もおそらくそうだろう。


「な、なぁ雛姫。遅くなったら美奈子さんが心配しないか?」


「大丈夫。今日はお兄ちゃんに会うって言ってあるし、いざとなればお兄ちゃんのところに泊まるって連絡しておくから平気だよ」


 雛姫は自分の言葉に何一つ疑問も抱かずにそう口にした。

 たしかに美奈子さんならそれで納得するだろう。美奈子さんの俺に対する信頼が逆に怖い。別に雛姫とエッチなことをするつもりはないから大丈夫かもしれないが、アレはある意味エッチよりもいかがわしい気がしないでもない。


 どうしたものか…… そんな風に思っているうちに天馬荘に到着してしまった。


 天馬荘のエントランスに近づくと人感センサーによってパッと明かりが点灯した。入口はカードキーになっており、カードをかざすと鍵が開くオートロック式になっている。


 「ちょっと、雛姫いいかな?」


 財布の中のカードキーを取り出すため俺はそう言って雛姫に目配せをした。財布を取るのに邪魔になると気が付いた雛姫は右腕から離れるとかわりに俺の背後に回って腰にしがみ付いた。どうやら授乳を求める猫の赤ちゃんみたいに俺から離れる気がないらしい。


 そんな雛姫を可愛く思いながら俺は財布の中からカードキーを取り出そうとした。しかし、すぐにカードキーを取り出す必要はなくなった。なぜなら、丁度そのタイミングでエントランスドアが開いて中から人が出てきたからだ。


「あれ、先輩。今、お帰り、ですか?」


 それは明石涼子だった。

 彼女の言葉からは怪訝そうな気配が読み取れた。しかも妙に表情が険しい。まるで履歴書に五年以上の空白期間を見つけた面接官みたいな顔つきだ。俺はその顔を見てマズイことになる予感を覚えた。


 明石涼子のその表情の理由は明らかだった。俺の背中に引っ付くように雛姫がいたからだ。雛姫は俺の腰に両手を回して引っ付いた姿勢だ。どうみても普通の関係には見えない。


 よほど運が悪くなければ明石涼子と出くわすことはないだろうと高を括っていたのだが、どうやらそれが間違いだったらしい。同じ天馬荘に住んでいるのだ。それは逆に考えれば、運が悪ければ出くわすことがあるということ。そしてどうやら俺はよほど運が悪いらしかった。


「ねぇ、先輩。この子は?」


 その何気ない言葉には明らかに怒りの感情が含まれていた。

 私と先週あんなことをしておいて、もう別の子に手を出しているの?という不満が言外に込められている。彼女の剣幕に気圧された俺が何を言おうか迷っていると、俺よりも先に雛姫が口を開いた。


「こんばんは、私はお兄ちゃんの妹です。兄がいつもお世話になってます」


「妹…… そう妹なのね」

 冷たい口調で明石涼子はそう呟いた。


「うん。そう。この子は妹の雛姫だよ」と俺は彼女の呟きにそう重ねた。


「ねぇ、先輩」


 にっこりとした後輩の笑顔に俺は嫌な予感を感じた。

 親愛のこもった笑顔ではない。サディステックな笑顔だ。獲物を追い詰めた牝ライオンの獰猛な笑みだ。


「えっと、何かな……」


「私、その子の声、聞き覚えがあるんだけど……」


 瞬間、雛姫が青ざめて救いを求めるように俺の方を見た。アレを聞かれた相手であると雛姫も理解したらしい。だが、理解するタイミングがまずかった。雛姫の過剰な反応は明石涼子を確信に至らせたようだ。


「多分、気のせいじゃないかな?」


 俺は無駄だと半ば諦めつつも目を逸らして恍けてみた。

 だが、しらじらしい俺の言葉で納得してくれるほど明石涼子は甘くはない。


「ねぇ、その子。本当は妹じゃなくて癒し屋さんなんでしょ? どうして私じゃなくてまたその癒し屋なの? あの日、先輩は私に愛してるって言ったよね?」


 明石涼子はあろうことかプレイ中の戯言をあたかも俺の本心だったかのようにそう言った。確かに俺は愛しているとは言った。そう言ったが、あれは赤ちゃんプレイの一環だ。決して俺の本心というわけではない。

 もちろん、明石涼子もそれは分かってはいるのだろう。だが分かったうえで雛姫に対して牽制しているのだ。彼女の言葉に嘘が交ざっていない分だけ性質が悪い。その効果は抜群だった。


「……どういうこと?」


 次は雛姫が怪訝な表情をする番だった。

 雛姫は俺から一歩離れて首を傾げると問い詰めるような口調で言った。


「ねぇ、お兄ちゃん。愛してるって言ったってどういうこと。それに癒し屋さんって、何?」


「い、いやぁ。そ、それは後で説明するよ……」


「説明、今、して!」と低い声で雛姫は言った。


 言えるわけがないではないか。

『実はあれから明石涼子とも赤ちゃんプレイをして、その時に言った言葉です』とでも言えと? 雛姫の膝枕でバブバブした後に、明石涼子の膝枕でバブバブした浮気性な赤ちゃんなのです。そんな阿呆なことを雛姫に言えと?


 俺が言葉に詰まっていると雛姫は矛先を明石涼子へと変えた。


「失礼ですが、あなたはお兄ちゃんの何なんですか?」


「私? 私は、赤坂先輩の大学の後輩で明石涼子といいます。でもただの後輩ってわけではないかな。赤坂先輩にあなたがしたことと同じようなことをしたもの」


「同じようなこと?」


「つまり、膝枕をしてあげてバブバブ~とか?」


 その言葉を聞いて雛姫がたじろいだ。

 かぁぁぁぁっ、と赤面させながら「ななななっ」と全身を戦慄かせると雛姫は全力で俺のお尻を抓った。そして耳元で壊滅的な地響きのような声色で言った。


「お兄ちゃん? ねぇ、これどういうこと?」


 まるでトカレフをこめかみに当てられた気分だった。

「勘弁してください。あれから色々あったんです」と俺は敬語で雛姫に謝った。


 俺があまりにも情けなくてに呆れ果てたのかもしれない。

 雛姫は、はぁ、と溜息をつくと怒りの矛先を明石涼子へと向けた。


「私のお兄ちゃんに変なことをしないで下さい」


 明石涼子は雛姫の怒りを無視して、しばらく考えるように顎に手を当てて黙っていた。そして、俺の方に視線をやると世界を氷漬けにするような口調で言った。


「ねぇ、先輩。この子が癒し屋さんっていう方が噓なんでしょ。この子、本当にあなたの妹なんじゃないの?」


 更なる追い打ちが俺を襲った。泣きっ面に蜂だった。

 だが、もうこの状況ではどうしようもない。誤魔化しようもない。

 俺は観念して首を縦に振った。


「義理の妹です。血は繋がってないけれど妹で間違いないです」


 後輩相手に俺は敬語で認めた。雛姫が妹であると認知した。


「な、なんてこと。あなたたち兄妹であんなことしてたの!」


 明石涼子は自分の年収の低さに驚くネット広告の女性みたいなポーズとると、大声で驚いてみせた。うわっ…… この兄妹、ヤバすぎ……?


 や、止めてもらえます? 一応ここ公道なんですけど。

 その言い方だと第三者が聞いたら近親相姦っぽく聞こえちゃうんですけど!

 五十歩百歩かもしれないけれど、当人からすればその五十歩が重大なんですよっ!


 俺は心の中でそう叫んだ。


「ち、血はつながってないからセーフですっ!」


 そしてすぐに、俺の言いたかったことを雛姫が真っ赤な顔で代弁してくれた。


 でも、アレだ。

 俺が言うのもなんだが、赤ちゃんプレイの時点でアウトだぞ……

 しかもソレ、第三者が聞いていたら誤解に拍車がかかる台詞だぞ……


「せ、先輩…… あなたという人は。分かりました、少し妹さんをお借りします。ちょっと二人でお話させてください」


 明石涼子はそう言うと雛姫の手首を掴んで有無を言わさずに連れていくと、近くの十字路を左に曲がった。しばらくすると何か二人の話声が聞こえてきたが、距離があるので何を話しているのかは分からない。時折、雛姫の驚いたような声や興奮したような声が聞こえてくるのがとても心臓に悪い。しかし、激しく言い争ったり喧嘩をしたりしているわけではなさそうだ。あくまで穏便に話し合っているようだった。


 これほど辛い待ち時間は初めてだった。

 裁判官に判決を言い渡される直前の被告人は、きっとこういう気持ちになるのだろう。俺は手元のスマホで時間をつぶす気にもなれず、ただ地面を見つめていた。

 時折、視界がグニャっと歪み現実感を失った。悪夢に迷い込んだみたいだった。


 だいたい五分くらい経っただろうか。

 どうやら話し合いが終わったらしく二人並んで天馬荘へと戻ってきた。


「私と雛姫ちゃんで決闘することになりました」

 戻ってくるなり明石涼子は俺に向かってそう言った。


 一体何の話だ。どこからそんな言葉が出てきた?

 決闘という不穏な響きに嫌な予感をひしひしと感じた。たしか日本では決闘罪というのがあって、決闘は禁止されていたはずだ。とはいえ、まさか命を賭けるような馬鹿な真似はさすがにするまい。

 一体これから何をするつもりなのだろう? そう思っていると雛姫が言った。


「さぁ、お兄ちゃんと私と涼子さんの三人でカラオケに行くよ!」



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