第29話 6/29(水)

春野さんは早番

俺は休み

早番の退社時刻近くに店の通用口近くで待ち伏せするみたいに春野さんが出てくるのを待って、「お尋ねしたいことがあります」と近くのドトールに一緒に来てもらった

単刀直入に先輩と手を繋いで歩いているところを見たことを伝えた

春野さんがあまり楽しそうに見えなかったことも

「キミに――年下の、まだ学生の男の子に聞かせるような話じゃないんだけど」そう前置きして

「見られちゃったんなら愚痴聞いてもらおうかな、あの人のことも知っているみたいだし、口は堅いみたいだし」と春野さんは話し始めた


新卒で入社した会社であった出来事

結果、半年もせずに辞めざるをえなかったこと

地元に戻ってきて、偶然再会した高校時代の同級生がとても堅実な人生を歩んでいるみたいでまぶしかったこと

こういう穏やかなのもありかなと思って付き合い始めたこと

でもやっぱり違うって思い始めてた時に、店長代理の、彼とは違う種類の真面目さに気がついたこと


俺は「どんな結論でも春野さんの人生ですから口を出す権利はありませんけど、あの先輩は悪い人じゃないし、どっちかっていうとむしろいい人だけど、春野さんには合わない気がします」としか言えなかった


「店長代理とのこと応援してます」とは言えなかったし、言いたくもなかった

俺は心の狭い人間だと思った

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