咲希 夢のメッセージ
気がつくと見覚えがある場所にいた。
でも見たことがある気がするだけでどこなのかは分からない。
倉庫のような建物の前で、赤髪の女と2人で立っている。女は私のことを気にする様子もなく本を読んでいる。
倉庫の近くには工場のような建物もあるが、例のごとく寂れていて使われている様子はない。
また夢か、と呆れるように思う。
ガラガラと重たい音が荒廃した土地に響く、倉庫の扉が開き、白衣を着た男が出てくる。白衣の男は私の前まで来て話しかけてくる。
「次は前回の戦闘地の調査に行ってくるよ、できるだけ早めに戻るからよろしく」
戦闘地?調査?なんのことかは分からないが、当然のように私は答える。
「了解、気をつけてね」
白衣の男は一瞬悩んだ顔をして、少しおどけた様子でまた口を開く。
「君もだったか、そうだな…うん、君はここに来ない方がいいよ、うん」
そう言われてどきりとする、根拠こそないが間違いなくこの男は"私"に言っている。
あれこれ考えているとまた自然に口が開く。
「じゃあ私からも、手焼くと思うけどがんばってね」
何をよ、聞こうとするがやはり声が出ない。そのまま意識が薄れ、現実に引き戻される。
「ちょっと、ねぇってば、大丈夫?」
意識が戻ると、母が必死に呼びかけている。いきなり倒れて寝てしまったのだから、無理もない。
「うん、大丈夫」
「ちょっと貧血気味なだけだから」
「そ、そう…」
相変わらず脳裏に焼き付いている光景、もう普通の夢じゃないことはなんとなく分かった。
それに、早くこのもやもやを消し去りたい。
男の顔、寂れた風景、もう心は決まった。
「ちょっと部屋で寝てくるね」
「うん、先生に電話しとくから、おやすみ」
「ありがとう」
母親に嘘をつくのは気が引けた、だけど私の中の"何か"が夢で見たどこかに行くことを求めている。
少し急ぎ足で部屋に戻る。
自分の部屋を見て落ち着いたせいかすっかり忘れていたことを思い出す。
あの手紙はどうなった?
右手を見るとしっかりと握られている。
おまけに開封跡も塞がって、中身も戻っていた。得体の知れない何かの力を感じる。
眠っている間も握っていたのだろうか?
自分の意識しないところで何かの力が働いているのを感じるのは足を竦ませる。
一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、私はいつもと変わらない。
その言葉を自分の中で唱えながら、静かに窓から足を踏み出した。
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