第8話 8月20日 夏休み

吹奏楽部の夏休みも大会や演奏会があり忙しかった。午前中はずっと吹奏楽部の練習で、それが終わるとやっと新聞部に合流できた。


吹奏楽部では、僕は秋月と同じサックスで同じパートだ。サックスは人数が多く移動も出来るが、ヒナちゃんのコントラバスは楽器も大きく、パートも1人。吹奏楽部の活動のうち、全体合奏を除くとヒナちゃんはいつも音楽室前の廊下の端で1人で練習をしていた。


4月に僕に秋月の事で声をかけてきた1年女子3人は、そのうちの一人が同じサックスを担当している。

6月過ぎの話。その一年生から相談事をされた。

「横野先輩が連絡先を教えてくれないんです」

何度も直接お願いをしたり、連絡先を書いた手紙を渡しているそうだが、一向に連絡先を教える気配もなく、手紙の返事すらないそうだ。

約5カ月を一緒に過ごし、秋月について分かったこと。秋月は、思っていることが表情に出てすぐ伝わる反面、決して口には出さず、いつも苦笑いでその場をしのぐ癖がある。

この時も、僕が連絡をしない理由を問い詰めた時、苦笑いをし、困った顔をした。

それだけで、充分な答えだった。




吹奏楽部での行事が終わり、一息つけるようになった8月末。ヒナちゃんは吹奏楽部を休んだ。学校祭の打ち合わせである。


 ヒナちゃんが生徒会をやる理由について聞いたことがある。

 この学校の入試枠の中に【生徒会枠】というものがあるそうだ。人数は不定期で、生徒会枠で入学した生徒は自動的に入学当初から生徒会役員となる。中学時代からの生徒会活動で評価されるものらしく、この学校から一番近い中学で生徒会長をしていたヒナちゃんは生徒会枠での入学だった。一年からずっと生徒会と吹奏楽部と新聞部を掛け持ちしているそうだ。

 新聞部のみんなは、ヒナちゃんと仲良くなった当初から、忙しく雑務をこなすヒナちゃんの姿を常に見ていたという訳である。



昼からのいつものPC室。

今日は久しぶりに柊也も合流し、みんなでヒナちゃんの帰りを待つ。

2時過ぎ。静かに教室のドアが開く。

「やぁ!申し訳ないが、今年の学祭はねぇ、オープニングの運営の補助になりましたよ!!」


3年生が中心で企画運営する学祭で、足りない部署の補助をするのも、今では新聞部の役目なんだそうだ。なんだって断れない性格のヒナちゃんである。そこは、一番の友人でもある新聞部が一肌脱ごう、というところか。

しかし、今回は「2人だけ補助が欲しい」とのことで、ヒナちゃんと森岡が出ることになった。

来週からは学祭の準備が始まる。

1日目が体育祭。2日目が文化祭。3日目が一般開放と夜に後夜祭となる、一大イベントだ。新聞部としては、3日間取材に走り回ることになるそうで、夏樹が「覚悟しとけよ」と笑っていた。



後日談。

 昼ごはん後、みんなでうとうとしながらヒナちゃんの帰りを待ってる間。森岡さんと夏樹に見つからないように柊也と秋月がPC室のパソコンの画面を勝手に触ってドッキリを仕掛けていた。多分、目当ては夏樹だったんだと思う。二人が気づく前に、眠気まなこの森岡さんがマウスに触って画面が切り替わった瞬間、画面いっぱいの家庭内害虫の写真が表示され、PC室に響き渡るほどの悲鳴が轟いた。寝起きの機嫌が悪い夏樹にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。


 何気ない、こんな時間がすごく楽しかった。




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