うちの猫がネトゲ廃人なんだがどうしたらいい?
ハコヤマナシ
僕とハルとモモの物語
第1話 ガチで猫の奴隷なんだが?
「だあ! 天才美少女ヒーラーのあたしと組んで、負けるとかありえないんですけど!! 地雷よ、あいつら全員地雷だわ!!」
「なあモモ、もう膝の上からどいてくんない? ていうか、これログアウトしていいのかな?」
「いいわけないでしょ。この空気で、無言でPT抜けたりしたら、めんどくさくなるでしょ。『お疲れ様でした。バフとヒールのバランスが上手くとれなくて、済みませんでした。負けちゃったけど、すごく楽しかったです。また遊んで下さい』って打って」
「地雷に?」
「地雷に」
僕はモモの飼い主だ。自宅から大学に通っている。春生まれのモモが3歳になったばかりの夏休みを満喫しているはずだった。あまり回想してるとシンガプーラのモモに引っかかれるので両親のことはまた後で話させてほしい。
僕はモモに言われた通りにPTへ話しかけた。
『いえ、モモさんのせいじゃないっす』
『そうだね。この前倒せたから、油断したね』
『崩れると立て直しにくいし、火力火力バフヒーラー構成だから、モモさんの負担大きすぎるよ』
PTメンバーは、自称天才ヒーラーのモモに優しくしてくれる。ていうか、ハンドルも「モモ」のまま、キャラも女性だから、装備とかアイテムとか貢いでくれる人もいるよね。猫なのに……。
モモは、パンデモニウム・ファンタジー・クエスト18という中堅MMORPGにハマっている。人間ならボトラーどころかオムツァーレベルの廃人だ。「寝る」「食べる」「トイレ」「ゲーム」だけで生きてる。最近は生きてるのかどうかも怪しいけれど、モモは生き生きしている。
確かにゲームの操作は、素人目にも上手い。四足でコントローラーを抱えて、器用に操作している。ただ、チャットは定型文しか入力できないから、僕が「座椅子」兼、口述チャットマシーンとして虐げられている。
「ねえ」
「んー」
「昨日のヴァージョンアップで、Lv上限解放が来たじゃない? クエストは分かる?」
「わかるけど、そういうの自分でやりなよ」
「あのねえ、猫は寝るものなの。ニンゲンはあまり寝なくても平気でしょ。私は1日16時間は寝たいの!!!」
「まあ、最近10時間くらいの睡眠だから寝不足ではあるよね」
「あたしは、『退屈』とは言ったけど、『無料版の期間がまだ残ってるけど?』ってきっかけ作ったのは誰だったかしら」
「僕です」
「じゃ、クエスト・Lv上げ・金策お願いね」
「え、増えてない? あと、モモが寝てる時に、ネカマするの無理だよ?」
「ログインしてるか分からなくするステルスモード使えば?」
「いや、そろそろレポートがー」
また寝落ちしやがった。寝苦しそうだから、モモが抱きしめて温かくなったコントローラーをとってやり、モモお気に入りのこの部屋の特等席へ抱えていき、起こさないようにそっとクッションの上に寝かせた。
そう、両親の話をしてなかった。父方の祖父の介護があって、普段は伯父さん夫婦がやってくれているんだけど、夏休みを工夫して時間を作り、父さんと母さんは伯父さんちで祖父の介護をしている。介護疲れの伯父さん夫婦に休んでもらうためだ。
両親の前では「モモちゃんいいこです!」ってしてるくせに、僕の前だとこの有り様なんだよね。もう慣れたけど、お前なんで喋れるの?
パンデモニウム・ファンタジー・クエスト18の攻略情報をサイトで確認しながら、僕は地道に金策をする。ゲーム内の武器防具を作るスキルがあるんだけど、生産系のキャラで作ってゲーム内の市場に出して稼ぐの、僕が変に得意なものだから、モモの装備が日に日に充実するんだよね。レベル上げも、猫としては睡眠不足だと訴えるモモの代わりに僕が睡眠時間削って廃人プレイさせられているし。あ、Lv上限解放クエストも忘れずにやった。じゃないと、おしおきされるからね。
この夏に、僕は、恋をしたり、学んだり、友達と遊んだりと、パンデモニウム・ファンタジー・クエスト18以外に時間を使い・経験すべきなんだよねえ。
猫大好きって意味で、猫の奴隷の自覚はあったけど、さすがにこれはナイワー。
モモに言われた作業を一通り済ませて、ログアウトして、モモの方を見ると、熟睡しながら気持ちよさそうにストレッチしてた。なにその超いいお顔。
スマホは部屋の隅で充電してる。ハルからの通知を、僕はまだ知らない。
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