第54話 奇跡 2
(どうしたらいいんだよ……どうしたらいいんだよ! 死んでいくことがわかっても、助けられないんじゃこんな力、意味ないだろ!)
どのくらいフロアにあるソファでぼーっとしていたのだろうか……。いつの間にか、隣にいた母さんはいなくなっていた。
(こんなことしてる場合じゃないんだ……せめて、ゆかりちゃんのそばにいないと……)
僕は、泣き腫らした顔を洗うために、トイレの洗面所に行った。
洗面台の鏡には、赤い目をした情けない顔の僕が映っている。
水を勢いよく出し、顔を何度も洗った。
(ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!)
自分自身を叱るかのように、叩きながら乱暴に洗った
。
(助けたい! 助けたい! 僕は、ゆかりちゃんを助けたいんだ!)
ビシャビシャになりながら顔を洗い終えると、再び自分の情けない顔を見ようと鑑を見た。
「えっ……!?」
鑑には、見慣れないものが映っていた。
いや、見慣れているものだけど、僕の頭の上に限定すれば、見慣れないものだった。
円筒状のロウソクが、薄いブルーの炎を揺らめかせながら乗っかっている。それも、金色に光り輝いている!
「ロウソクだ……僕のロウソクが見える……」
恐る恐る自分の頭の上にあるロウソクに手を持っていくと、触れることができた。
「ロウソクの感触がある……ホントに僕のロウソクなんだ!」
僕は、鑑に映るロウソクをまじまじと見た。
形は普通のロウソクと同じ。炎は、驚いてるせいか真っ黄色の炎。それよりも、金色のロウソクは、眩しいくらいに光っていた。
(なんで急に、自分のロウソクが見えるようになったんだ……?)
放心したように鑑の中のロウソクを見つめていると、
「晶! 晶ぁ!」
フロアから、大声で呼ぶお母さんの声が聞こえた。
すぐに洗面所から出た。
「お母さん、どうしたの!?」
「ゆかりちゃんの容態が!」
その言葉を聞いて、僕は血相を変えてICUに駆けつけた。
「ゆかりちゃん…………ゆかりちゃん!」
見ると、医師の1人が心臓マッサージをやっていて、もう1人の医師がゆかりちゃんに注射を打つところだった。
慌ただしく看護師が動き回り、医師が必死に心臓マッサージを続けていた。
しばらくすると、患者の状態をモニタリングする機械を見ていた医師が、首を横に振った。
それを確認した医師が心臓マッサージを止め、胸ポケットからペンライトを取り出してゆかりちゃんの瞳孔を調べた。
医師は、時計をチラリと見て、
「0時23分、ご臨終です……」
と、深々と頭を下げて言った。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
悲痛な声を上げて飛びつくゆかりちゃんのお母さん。
おじいさんもおばあさんも涙を流し、ゆかりちゃんの名前を呼んでいる。
(ご臨終……嘘だ……嘘だ……嘘だ! まだ、ゆかりちゃんは、亡くなってなんかいない!!! 現に、まだ炎はついてるじゃないか!!!)
「まだ、死んじゃいないよ!!!」
僕の大声でみんなが驚いてビクリと体を震わす。
僕は、急にあることが頭をよぎった。
昔、中学の同級生が、高校生2人からケンカをふっかけられてボコボコにされているところに遭遇した。僕は、高校生2人の頭の上のロウソクをひったくり、2人を気絶させることで救うことができた。
その後、ひったくったロウソクが、どっちがどっちのかがわからなくなって、間違えて付け替えてしまったことがあった。心配で陰から見てたら、ロウソクはちゃんと定着し、気絶した2人は意識を取り戻し、何事もなかったように立ち去っていった。
(もし、僕のロウソクと交換できたら、一時的にもゆかりちゃんの命が長らえるんじゃ……)
僕は、ゆかりちゃんに駆け寄り、ゆかりちゃんの頭の上のへし折れたロウソクをつかんだ! そして、僕の頭の上のロウソクと素早く交換した!
僕の意識は、そこまでだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます