第42話 秘密

「つい先日、あたしは家族旅行で軽井沢に行ったんだ。いつもなら親戚がいる田舎に行くんだけど、あたしが受験勉強もあるし、親戚一同が集まっててうるさい田舎には行きたくないって言ったらさ、パパが『それじゃあ、避暑地の軽井沢にでも行ってみるか? 受験勉強ばかりじゃなく、気分転換もたまには必要だろう』ってことになったの。実際旅行に行ってみたら、予約したホテルも軽井沢では有名なホテルでさ、それも泊まった部屋がホテルの最上階! 見晴らしはメチャいいし、室内は豪華で広いし、食事は今まで食べたことないコース料理で美味しかったー! ベッドもふっかふかで超熟睡! 2泊3日の短い旅行だったけど最高だったよ……」


「三輪が家族旅行を満喫したのはわかったよ。で、相談って何なんだよ?」


 三輪先輩が家族旅行の話しを延々と続けるようだったので、大川部長が言葉をはさんだ。


「あ、ごめんごめん。――そう! そのホテルでさ、後からチェックインしてきた人を見たらビックリしたのなんのって! 朝霧だったんだよ、それも一緒にいたのが金井先生! 思わずロビーの柱に隠れちゃったよ。いやぁ、見ちゃいけないものを見ちゃったって感じ?」


 僕は、気づかない振りをしたけど、ゆかりちゃんだけでなく大川部長も少し青ざめた顔をしていた。それも、頭の上のロウソクを真っ赤に燃え上がらせながら……。


「最初、軽井沢で朝霧の絵の個展でも開いていて、金井先生はその付き添いなのかなぁって思ったんだけどさ、次の日の朝、ホテルのレストランで2人一緒に仲良く朝食を取ってたから、『あ、これは確定だわ!』って。前々から2人が付き合ってるんじゃないかって噂にはなってたけど、やっぱり噂は本当だったんだって確信したね。――なんか告げ口しているみたいで嫌なんだけどさ、これってあたしが言わなくてもいつかはバレる感じがしたんだよね。だから、大川の口からさうまく言ってもらえたらって思って相談に来たんだけどね……」


 相談内容が内容だけに、大川部長の顔は厳しい表情を見せている。それとは対照的に、三輪先輩は、胸の内を吐き出したせいか、スッキリした顔つきになっている。


「三輪、僕が朝霧君に言っても無駄だと思う……。僕だけじゃない、以前からの知り合いの青山さんも、朝霧君を説き伏せることなんて無理だと思う。逆に伝えたとしても、朝霧君は意固地になって開き直るだけだよ。他の朝霧君の身近な人に伝えたとしても、問題が明るみになったら、朝霧君は相当な被害を受けると思う。金井のヤツがどうなろうが関係ないけど、彼女には色々なスポンサーもついてるし、手掛けている仕事も多いみたいだからね。もしかしたら、大学推薦の話しもなくなることになるかもしれない……仕事の契約によっては賠償金が発生するかもしれない……。そのことを考えたら、僕にはどうしようもないよ……」


 大川部長は、肩をがっくり落として言った。


「そっか……そうだよね。まぁ、ことが公にならなければいいんだから、あたしはもうこのことは忘れることにするよ。あなたたちも今聞いた話しは忘れてね」


 そう言って、三輪先輩は美術室から出ていった。


「とんでもない話しを聞かされちゃいましたね……」


 僕は思わずため息が出てしまった。


 隣のゆかりちゃんを見ると、まだ怒りの炎を燃やし続けている。


「大川部長、千里先輩のために本当に何もできないのでしょうか……」


「じゃあ青山さんは、どうしたらいいと思う? 直接、朝霧君に言ってみる? さっきも言ったけど絶対に聞く耳を持たないと思うよ。もう1人の当事者である金井のヤツに言う? あいつは、のらりくらりとうまいこと言い逃れをするかもしれないし、もしかしたら身に危険を察知して朝霧君を捨てて距離を置くかもしれないけど、そのせいで朝霧君から恨まれて青山さんと朝霧君との関係は壊滅的な状態になるよ。それでもいい? 弱虫って思われるかもしれないけど、自分にはそんな勇気はないよ……」


 ゆかりちゃんの人を射るような視線にたじろぎながらも、大川部長が反論した。

 その後も朝霧先輩のことで話し合ったけど、結局結論はでなかった。


 そんなモヤモヤした気分を持ったまま、あっという間に夏休みが終わってしまった。

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