第6話

 俺たちは王都を中心街よりも治安の悪そうな町から遠回りして中心にそびえたつ城に向かっている。

 

 案の定、中心街には俺たちの特徴についてかかれたビラが配られていた。けれど写真はなくて少し安心した。まぁバキリアがいることだけはとてつもなく致命的だが。



「アンタはバッグを置いて真っすぐ王都に向かえばよかったんじゃないの? それなら早く行けたわよ」


「それだと鎖か何かにつながれて終わりだ。俺はお前みたいに攻撃の手段はないから意味がないんだよ」


「いや、何で見つかる前提? 正面突破なんて誰が言ったのよ」


「あの大きさならすぐに見つかるに決まってる。陽動と隠密の2つに分かれるぐらいがちょうどいいんだよ」


「まぁ悪くない考えだけど」



 別に前の世界で俺は金を盗んでいたわけじゃない。それがサボり方の基本だと教わっただけだ。目の前に夢中になりやすいから後ろの存在を忘れてしまう。それだけのことだ。


 王都とはいえさすがに一番端には兵士の姿はなかった。とはいえひょっとすれば賞金に目を光らせるやつがいないとも限らない。俺たちは足早に城へ訪れた。



「……妙ね」


「何がだ?」


「いつもより兵士が少ない気がする。警備の仕方を変えたのか、それとも......」


「考えても仕方ない。行くぞ」


「ハァ!? 行くぞって......このままで?」


「心配するな。俺は兵士の装備を盗んでシミルを救ってくる。お前は......うるさくなったと思ったら助けに来てくれ」


「なにそのふざけた作戦! ハァ。やっぱりただの傍観者ね。何も考えてない」


「しょうがないだろ、こういうの初めてなんだよ」



 彼女も仕方がなさそうに納得してくれた。とはいえ簡単に兵士の装備を盗めるとは思えな......


 盗めた。まさか倉庫にいくつも予備を持っているとはな。これじゃあ誰が侵入しても気が付かないんじゃないか? まぁ、それが自信の裏にある隙として、ありがたくいただくとしよう。


 とはいえ重い。よく戦えたとあの兵士たちを褒めてやりたい。それ以上にあの火だるまになっていた奴が走れた原理が理解できない。誰か教えてほしいくらいだ。


 前が見えにくいが顔を出すわけにもいかない。とりあえず捕らわれの場所って言えばたいてい地下とかにいたりするもんだけど......



「おいそこのお前!」


「は、はっ!」


「貴様新兵だな。玉座へと急げ。ただいまより耳長族で噂されていた禁書の刑が決まる。それを見逃すことは許されん」



 禁書? なぜそう呼んだのかはわからないが、彼の耳長族の言葉だけで身内の俺には理解ができた。



「はっ! 了解であります!」


「行け!」



 ありがとよおっさん! 状況がわかったとはいえ、問題が山積みだな。兵士たちが全員集合! ってことはそれだけシミルを警戒していることになる。


まさか脱走を図ろうとして失敗したのか? いや、シミルなら脱出できなくも......能力によっては捕まってしまうか。となると今は最悪を迎えているわけか。


 俺はおぼつかない足で磔にされているシミルを見つけた。彼女は抵抗の動きを見せることなく、ここの王と顔を合わせていた。体や膝のあざを見たとき、俺は自分を抑えられなくなりかけた。


 さっきのおっさんが俺の姿を確認すると、彼らは説明を始めた。



「陛下。ここに磔にされし子供が、以前より噂されし氷の禁書に書かれている人物と判明いたしました。本来であればこの者は悪魔親密罪により禁固刑にあたいいたしますが、いかがなさいますか?」



 王様はもさもさとひげを生やした、ただの爺だ。そんな奴がシミルのことを大切にするはずもない。俺なら考えるであろう、かき氷食い放題という考えもきっとないだろう。



「こんな少女が呪いを背負っているとは、かわいそうじゃのう。まだ儂の孫とそこまで年も変わらんじゃろに......じゃがわしも恐れがある。この場は彼女の命を捧げることで......」



 これ以上爺の言葉は聞きたくなかった。俺は下半身の鎧を捨て、王に剣を構えた。



「なんじゃ貴様は?」



 言葉が落ち着いている。だが、俺が優勢にあるのは変わりないはずだ。焦る必要はない。



「お前たちが探しているお尋ね者さ。王が殺されたくない奴は剣を捨てろ。もし1人でもいるようなら俺はこいつを殺す」



 兵士たちはそれにすぐに従った。よし、それでいい。さすがにこの100を越える人数だと、シミルでもどうにもできないだろうからな。後は......



「王手を取ればどうにかなると錯覚したか?」



 身体中がこいつに警戒を訴えた。年をとってもなお、実力は健在ってことなのか? それともただの脅しか?


 剣が消えた。ウソだろ?


 その瞬間、全員が剣に向かって走りだした。俺もその枠に入っていた。アイツの能力、面倒そうだ。


 俺が剣を取りシミルを解放した瞬間、兵士たちは身体を震わせていた。


 シミルが怒っているから警戒が恐怖に変わったのか? けれど、彼女は力のない笑顔を浮かべていた。


 おかしい。俺たちを見ていない?



「誰だ報告を怠ったやつは!」


「総員戦闘展開! 2人は無視し目の前の敵に集中せよ!」


「はっ!」



 俺たちが後ろを向いた時、そこには音の咆哮を放つ赤い龍の姿があった。ウソだろ? なんでこんなときに! まさか......あいつのせいじゃないだろうな?


 なんにしてもこのチャンスを逃さないわけにはいかない。俺たちは階段に向かって走......


 イケメンの男が5本の剣を背中に背負い俺に剣を突き付ける。まさか王の命令に背くやつがいるとはな。



「いいのかあのドラゴンの相手をしなくて?」


「この人数ではあれ1体なら問題ない。それに我々にとっては彼女を見失うことの方が実のところ大きな損失なのだ」



 なるほど、冷静に天秤で測ってシミルを選んだみたいだな。確かに悪くない判断だといえるだろうな。きっとあの爺もこんな部下に大喜びだろうな。


彼の剣が浮かび上がった。これがこいつの能力か。まったく困ったもんだな。ひょっとしたら一番苦手かもしれない。



「シミル、動けるか?」


「一発だけなら手段があります......」


「十分だ。顔面ぎりぎりまで近づくから、そこを狙えよ」


「はい」


「自らの手をみすみすバラすとは、ずいぶん余裕だな。腹が立つ」


「そこまで言うならお前の実力を見せてみろよ。俺の判断はお前を弱いと思っているみたいだからよ」



 怒りを得た相手の攻撃は予測できない。けれど油断と驕りが生まれる。自分は絶対に負けない、と視野が狭くなる。だからわざと怒らせる。どの道一撃でもくらったら怒らないやつはいないからな。



「舞剣!」



 剣たちが踊るように俺たちに襲い掛かる。が、やっぱりこの能力は強くない。量は多いが、結局パワーが少ない。上半身だけ鎧の俺にとっては余裕な状況......


 足に剣が突き刺さった瞬間、俺の足を隠すように剣たちは俺の下半身を狙った。


 できることならこいつを褒めてやりたいところだが、残念だ。



「これで終わりだっ!」


「なぬっ。くっ」


「氷凛・銃弾ガンブレッド!」



 彼女の氷弾が剣を弾き彼の頭を貫いた。俺の足は剣まみれになっていた。落ちる様子はない。どういうことだ? まさか同化しているのか?


 俺は自分の両足を裁ち、剣たちを解放する。


 危なかった。一生このままかと思った。シミルは薄い呼吸に映った。眠っているのか。俺は階段を駆け下り城門を訪れた。龍とは真逆の方向。ここまでくればさすがに敵も......

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