第11夜

お風呂に入ってて、頭洗ってる時に後ろが気になる事ってあるでしょ?

アレと同じ感じなんだけど、私どうも最近、部屋でパソコン触ってる時に後ろが気になっちゃってさ。でも、振り返っても特に何かあるわけじゃないのよね。


え? 気にし過ぎだって?


私もそう思うんだけどさぁ。でもたまに、振り返ること自体が怖い時があってさ。

そんな時はもう、振り返れずにしばらく金縛りにあったみたいになっちゃってさ。

もういやな汗がすっごい出て、大変なのよ。


その後? 金縛りが解けると、自然と後ろ見ても大丈夫な気がして振り返れるんだけど、やっぱりその時は何もないんだよね。

なんでだろうね。


え? テレビ電話? ああ、パソコンでWebカメラつけてマイクで話すアレね。

それを使って話をするって?

ああ、なるほど! それだと私がヤバいって思ったときに、そっちには私の後ろ側が見えるって事か!

さっすがぁ。じゃあさ、今夜早速やってみよっか!



 私たちはその後、定時まで仕事をして、お互いに帰宅するまでなんてことはない内容のやり取りをトークアプリで送りあって、夜を迎える…。

 私は、東京。

 あの子は、博多。

 それぞれの部屋を見せるのは、今日が初めてだった。

 人の家を見るのは楽しみだけど、自分の部屋を見せるのは少し気が引けた。

 そうだ、帰ったら掃除しないと。





繋がってる? こっちはOKだよ。見えてる? 私にはあんたの顔がちゃんと見えてるよ!

まぁ深夜だし、お互いイヤホンマイクだけどね。


カメラの角度、これでいい? ちょっと右? OK。え? そっちは左だって?

ああ、そか。そっちから向かって右ね。分かりにくいなぁもう。

これで後ろもバッチリ映ってる訳ね。んじゃ、あとはいつも通りかな?


あそうだ。


ついでだからそっちの後ろも見えるようにしとく? だって私ばっかじゃ不公平じゃん? 何が不公平なのかって? わかんない。あはは!

ま、せっかくだし良いじゃん。カメラ、もうちょい右…ああ、こっちから向かって右側ね。に向けてくれる? うん。バッチリ。


てか、あんたんとこって何? 和室なの? イメージと違うー。あははは!


…え? 何言ってるのって…え?

いやいや、どう見ても完全に和室じゃん。

和室はそっちでしょって、私のところはどう見てもフローリングだし洋室だよ?


ちょっと、何言ってるの…



 会話とも言えなかったけれど、そこで会話は一方的に切られることになった。

 回線が切れたわけではない。

 映像が途切れたわけでもない。


 会話が切れたのは…

 あの子が叫び声をあげたからだ。



 イヤァァァァ!!!



 初めて聞く、本気の叫び声だった。

 私は怖くなって、イヤホンマイクを外してしまった。

 画面には、こちらを観ながら恐怖の表情で叫び声をあげるあの子の顔が、映ってる。


 その顔が、その目が、怖かった。


 そして…


 ゴギッ


 鈍い音が、外したイヤホンマイクから、かすかに聞こえた。



 あの子の首が、すごい勢いで変な角度に折れた。



 そのまま、私を見ている。



 そして、口が動いた。



 なんで…



 そう言ってるように見えた。




 私は、気を失った…。



◆◆



 朝起きると、映像はもう切れていた。

 恐る恐る通話した記録を確認しようとしたけれど、それはどこにも見当たらなかった。

 トークアプリを見る。

 昨晩、テレビ電話をする前までにやり取りした内容が確認できた。

 そして、一番下に追加されてる文章を見て、私は固まった。


 〇〇は退出しました。


 アプリの中から、あの子のアカウントは消えていた。

 電話をしてみたけれど、つながらなかった。

 その日以来、あの子と連絡を取ることは、出来なくなった。


 そして。


 部屋に居て、後ろが気になることが、その日から無くなった…。

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