第11夜
お風呂に入ってて、頭洗ってる時に後ろが気になる事ってあるでしょ?
アレと同じ感じなんだけど、私どうも最近、部屋でパソコン触ってる時に後ろが気になっちゃってさ。でも、振り返っても特に何かあるわけじゃないのよね。
え? 気にし過ぎだって?
私もそう思うんだけどさぁ。でもたまに、振り返ること自体が怖い時があってさ。
そんな時はもう、振り返れずにしばらく金縛りにあったみたいになっちゃってさ。
もういやな汗がすっごい出て、大変なのよ。
その後? 金縛りが解けると、自然と後ろ見ても大丈夫な気がして振り返れるんだけど、やっぱりその時は何もないんだよね。
なんでだろうね。
え? テレビ電話? ああ、パソコンでWebカメラつけてマイクで話すアレね。
それを使って話をするって?
ああ、なるほど! それだと私がヤバいって思ったときに、そっちには私の後ろ側が見えるって事か!
さっすがぁ。じゃあさ、今夜早速やってみよっか!
私たちはその後、定時まで仕事をして、お互いに帰宅するまでなんてことはない内容のやり取りをトークアプリで送りあって、夜を迎える…。
私は、東京。
あの子は、博多。
それぞれの部屋を見せるのは、今日が初めてだった。
人の家を見るのは楽しみだけど、自分の部屋を見せるのは少し気が引けた。
そうだ、帰ったら掃除しないと。
◆
繋がってる? こっちはOKだよ。見えてる? 私にはあんたの顔がちゃんと見えてるよ!
まぁ深夜だし、お互いイヤホンマイクだけどね。
カメラの角度、これでいい? ちょっと右? OK。え? そっちは左だって?
ああ、そか。そっちから向かって右ね。分かりにくいなぁもう。
これで後ろもバッチリ映ってる訳ね。んじゃ、あとはいつも通りかな?
あそうだ。
ついでだからそっちの後ろも見えるようにしとく? だって私ばっかじゃ不公平じゃん? 何が不公平なのかって? わかんない。あはは!
ま、せっかくだし良いじゃん。カメラ、もうちょい右…ああ、こっちから向かって右側ね。に向けてくれる? うん。バッチリ。
てか、あんたんとこって何? 和室なの? イメージと違うー。あははは!
…え? 何言ってるのって…え?
いやいや、どう見ても完全に和室じゃん。
和室はそっちでしょって、私のところはどう見てもフローリングだし洋室だよ?
ちょっと、何言ってるの…
会話とも言えなかったけれど、そこで会話は一方的に切られることになった。
回線が切れたわけではない。
映像が途切れたわけでもない。
会話が切れたのは…
あの子が叫び声をあげたからだ。
イヤァァァァ!!!
初めて聞く、本気の叫び声だった。
私は怖くなって、イヤホンマイクを外してしまった。
画面には、こちらを観ながら恐怖の表情で叫び声をあげるあの子の顔が、映ってる。
その顔が、その目が、怖かった。
そして…
ゴギッ
鈍い音が、外したイヤホンマイクから、かすかに聞こえた。
あの子の首が、すごい勢いで変な角度に折れた。
そのまま、私を見ている。
そして、口が動いた。
なんで…
そう言ってるように見えた。
私は、気を失った…。
◆◆
朝起きると、映像はもう切れていた。
恐る恐る通話した記録を確認しようとしたけれど、それはどこにも見当たらなかった。
トークアプリを見る。
昨晩、テレビ電話をする前までにやり取りした内容が確認できた。
そして、一番下に追加されてる文章を見て、私は固まった。
〇〇は退出しました。
アプリの中から、あの子のアカウントは消えていた。
電話をしてみたけれど、つながらなかった。
その日以来、あの子と連絡を取ることは、出来なくなった。
そして。
部屋に居て、後ろが気になることが、その日から無くなった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます