第6夜

 明らかに、後ろから誰かがついて来てる。

 それを感じたのは、駅から5分ほど歩いた後だった。

 周りは少し静かになって、人通りも少なくなって、いつも帰宅時に緊張する道だ。

 私以外の足音がする。

 もちろん、今まで自分が歩いてる後ろを誰かが歩いてることが一度も無かったなんてことはなく、何度かドキッとしたことはあったけれど、それでも今日ほどハッキリとソレだと感じることはなかった。

 歩調を早めても、それに合わせて相手も早く歩き、少しゆっくり歩いたところでやはり相手もその歩調に合わせてくるのだ。


 とにかく何とかして家までいかないと。

 いや、でもそれだと家を特定されてしまう。

 どうすればいい?

 どうすれば逃げられる?

 焦りが、じわりじわりと膨らんでいく。


 少しずつだが、近づいてきている感じがした。

 仕方ない。

 私は意を決して、家に向かう道を全速力で走りだした。


 あの角を曲がれば


 あのマンションを過ぎれば


 私はとにかく、走った。




 最期の角を曲がった時、


 私は息をのんだ



 暗がりに、男が立っていた。


「〇〇□□さんだね?」


 私に手帳を見せて名前を訪ねてきた男は、スーツを着ていた。

 後ろから走ってきていた誰かも姿を見せ、同じようにスーツを着た男だと分かった。

「▽▽くんの親御さんから、捜索願が出ていてね。少しお話を聞かせてもらえるかな?」


 早く帰らなければ。

 彼が待っているのに。


 一昨日は右足。

 昨日は左足。

 今日は右手を料理する約束なのだから。

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