第4夜

 仕事も終わって、疲れた体を引きずって帰宅してる途中。

 地下鉄に降りる階段の前で、サラリーマンらしき男が突っ立っていた。

 とても邪魔な場所に居るのだが、みんな器用に避けて階段に吸い込まれていく。

 自分はと言うと、ちょっと気になってしまって通り過ぎる時にチラッと横目で男を見やった。


 それが良くなかった。


「あなた、いま見たよね?」


 あー、面倒な人だったかぁ。

 自分のそんな思いが顔に出たのか、男はむすっとした顔で続けた。

「失礼な人だね、君は」

 すみません、とりあえず謝る。

「心の無い謝罪なんて求めてないんだよ」


 やっぱり厄介な奴だった。


「僕ぁ仏だよ?」

 …は?

「仏は敬うもんでしょ?」


 これは本格的にヤバい奴だった。

 まいったなぁ…


「まいったなぁ、って思ってるでしょ?」

 うぐ…

「図星かい?」

 そう言って、男はクスクスと笑う。

 もういい。面倒だ。どうにでもなれ!

 仏だって言うなら、証拠見せてくれよ。

 強い口調で言い放つ。

「証拠?」

 ほらみろ、困った顔してる。

「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ?」

 なん…だと?


 そして男は、俺に背を向けた。


 背中の右肩から左腰にかけて、骨が見えるくらいの傷と、大量の虫たちが蠢いていた。


 確かに、仏さんだわ…


 気が遠くなる中、男がこっちを向いてニヤッと笑ったのが見えた…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る