雑草転生
元音ヴェル
第1話プロローグ
ある日、仕事帰りにコンビニへ寄って、雑誌を立ち読みしていたら、車が突っ込んできた。
俺は読むのに夢中でまったく気付かず、その車とガラス、本棚と一緒に後ろへぶっ飛び、真後ろの商品とかガラス片と一緒に、車の下敷きとなったようだ。
ようだ、と言うのも、推測だったりする。
何せ思い出せる記憶を順番に辿ると、最後に大丈夫かと叫ぶ男の声が聞こえるだけで、何もない闇しか見えなかった。
痛みも感じなかったし、そこで記憶は途切れている。
さて、薄々分かっていたのだが、今俺がいる場所は病院ではない。
かといって、死後の世界とか神様の作った空間とか、でもない。だって真っ暗だし、誰もいないようだし。
明かりを着けようと、手を伸ばそうとしたが、体が動かない。勿論、見えないし何も聞こえないので、体の感覚から察するに、かなりの重症というか、重体なのだろう。指一本動かない。
ここの温度は寒い、もとい冷たい。が、喉は渇いていないし、動かないのだからどうしようもない。
そう言えば、空腹感もない。と言う事は、喉の渇きや空腹を感じるような、生理的欲求や条件反射を受け付ける余裕すらないのか?
死に行く間際に、意識が覚醒しただけ?
いや、死んでるのなら、痛みを感じないのだから、空腹やらの欲求とかが不要となっている、はず。痛みのない世界は幸福なのだから、死後の世界は幸せな世界、という哲学がある。
市民は幸せなのです! 死んでるからね!
敵も味方もない。両方沈めてしまえば皆が助かる。
そう、敵を救いたければ、一度ぶっ殺すしかないのだ。
そんな思考をする時間的余裕はあるものの、相変わらず真っ暗闇のまま。体すらピクリともしないし、何も聞こえない。自分の呼吸音も……ん?
死んでるなら、ゴーストなんだから眠いもクソもないか。当然、尿意もない。
ネットの海、もとい、三途の川が流れる世界は広大だ。まぁ、電脳世界やあの世って、見えない点では一緒だし。
いや、生きているのか? 冷たさを感じる事があるなら、少なくとも周りは寒い場所なのだろう。感覚がないのなら、色々と垂れ流しなのだろうか。
痛みがあると言う事は、生きている事で、それは死んでからでは味わえない、贅沢な事だし?
死んだら痛いなんて言えないから。
これは経験談だけど、死ぬ直前になっても、走馬灯が見れない人は見れない。昔首吊りに失敗したとはいえ、窒息からの気絶まではいったし。
そうそう、首吊りといっても二種類ある。絞首刑のような高低差を利用した場合、自身の重みで骨がズレて酸欠で死ぬ。痛みなんて首から下は感じない。気道は唾液とかで詰まるので、絞首刑の執行直後はかろうじて生きているのが現状。
とはいえ、呼吸出来ないし、血流も最悪なので、長くても五分くらいしか生きていられないだろう。死体を回収している間に、死刑囚は御臨終する。
よく、首吊ったら骨が折れる痛みで死ぬとか言うけど、人間は死ぬと分かっている状態だと、例え心臓を刺されても、しばらくは生きていたりするし。刃物で滅多刺しの死体は、コレが理由でもある。だから、必ずしも強い殺意があったとかではないのだ。
切腹での介錯もそう。腹を斬ってすぐに死ねるはずもなく、苦しませる位なら、首をはねて解放してやるのが人情というもの。
もう一つは、真綿で首を絞めるように、高低差がほとんど無い場合での首吊り。背伸びしても足が着かないギリギリの高さで首吊ってしまうと、やがて窒息する。
ただ、体は意思とは関係なく暴れ、もがく最中にロープを外したり、ちぎれたりして落下するんだ。
地面との高さが二十センチ程度でも、落下する時は足が垂れ下がっているので、受け身すらとれずに捻挫したり、手足の爪が割れたりする。
で、首には摩擦で出来た擦り傷のようなモノが出来る。酷いと喉仏辺りに穴が空き、呼吸や発音が難しくなる。まぁ、単純に考えてみれば当然の事ではあるけど、やってみるまでどうなるかは分からない。
だって、首吊ったらどうなるとかが、インターネットにあるけど、必ずしもそうなるとは限らないし。
失敗した後が一番面倒くさかったりもしたなぁ。
リストカットより、高い確率で死ねると思ったんだけど、結果は悪運強く、生き残ってしまった。
まぁ、会社に親しい同僚が居なかったから、最初だけビックリされたけど、普段から真面目に働いていたので、冗談みたいな言い訳も信用された。
あ、死のうとした理由は、親と色々あったから。アイツ等の目の前に、息子の死体を見せつける計画も頓挫。親からは心配すらされなかったね。
親を殺すか、自分が死ぬかの二択で、後者を選んだ俺ってマジ優しいよね。殺したら刑務所暮らし、そんなのはムリ。だったら、親の面倒すらみないで死んだ方が、復讐に十分なる。今までの時間と金が吹っ飛ぶんだし。
あー、本当にムカつく両親だったぜ。思い出すだけでヘドが出る。今頃は受け取った死亡保険で、のうのうと暮らしているんだろうなぁ。
で、そんな嫌な記憶も思い返していると、結構な時間が経つ。
けれども、温度以外は何も感じない。人の気配や虫の気配もしない。
む、なんか温かい、いや、暖かい?
頭の方は暖かいが、それ以外は冷たい。
この暖かさは、陽射しのような感じが近いな。段々と熱が広がり、ぬるい温度から熱い温度に感じるようになった。
とか思っていたら、水と空気が欲しくなってきたな。心なしか、周りが乾燥しているような気がするし、なんだか、足の爪先が伸びているような。
爪を切らずに、ちょっと伸ばしたままだったからか? いや、そんな事はどうでもいい。動けないのだから。
動けないが、髭や爪は伸びる。髪をはじめ、体毛は生える。どうでもいい毛ほど、邪魔になるし。剃ろうが抜こうが、すぐに生える。まぁ、髪は生えなくなるけど。
脱毛手術をしても、性懲りもなく生える場合だってある。髪はウィッグで誤魔化すか、坊主頭にでもするしかないが……。
ふー、いい加減に現実を見よう。目は見えないけど、自分の現状は分かってきた。
俺、植物状態ではなく、ガチの植物。
それもなんと、種からのスタート。
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