2.男達の気だるい茶会

「はいはい、ダンナなら、今留守だよ」

 シャーは、叩かれる扉を開けてそう声をかけた。扉を開くと、外から入ってくる光をすっかりふさいでしまうような大男が立っている。そんな大男にも関わらず、さほどシャーが警戒しなかったのは、男が殺気を放っていなかったからであるのと、彼に見覚えがあったからだ。男は平和そのものの口ぶりで呟いた。

「なんだ。そうか、留守なら仕方がないな」

「あれっ?」

 男のほうはまだ気づいていなかったが、逆光で顔が見えなくても、シャーは彼のことに気づいていた。

「へ、蛇王へびおさん!!」

「お? おお! 誰かと思ったら、三白眼小僧ではないか! エーリッヒの家に遊びに来ていたのか!」

 声をかけると、ようやく相手も気づいたのかそう声を上げた。にっこりと無邪気に笑うのは、立派なヒゲを蓄えた見覚えのある男だ。

「はは、あれから会っていなかったが、元気そうだな」

「う、うん、まあねえ」

 そこにいるのは、明らかにザハークという名のリオルダーナ人傭兵だ。シャーは、やや拍子抜けしてしまいながらも、疑問をいだきながら彼を見上げた。

「な、なにさ、え、蛇王さん、確かに都に住んでるとは思ってたけど、な、何、お隣さんなの?」

 うむ、まあな、とザハークは首を振り、渋面を作る。

「俺とて不本意なのだ」

「なんで? 行くところがなかったの?」

「そういうわけではないのだが。恐ろしい話でな」

 と、ザハークは腕を組んでうなった。

「たまたま、住居を探している時に、料理屋で出会った大家の老人と気が合ってな。店子を募集しているというから、是非にと頼んだのだ。いや、俺はリオルダーナ人だからな、大家が警戒することがあって家も借り辛いだろうし、家賃もちょうどよかったからな。しかし、それで、引越しのあいさつ回りをしようと隣を訪れたところ、いきなり出てきたのが奴だった。新天地で新しい生活が始まると思ったら、いきなり顔馴染みが陰気な顔して出てきたときの、このどうしようもない感じ。腐れ縁もいよいよもって甚だしい。昔からヤツとは腐れ縁だとは思っていたが、それにしても、ここまでの腐れ縁とは恐ろしい」

「え、その大家って、あのダンナとも気が合う人だったよね」

 ジャッキールにも大家が声をかけたとか聞いたが、ザハークにも。……よほど、その大家の方が大物な気がする。

「そんなわけで仕方なく奴の隣室に住んでいるのだが、わかっていたがあの男神経質でなー。ちょっと物音を立てるとガミガミうるさいのだ」

 ザハークは、ややうんざりした様子でそう語る。

(あんたら足して二で割ればちょうどいい感覚の人間が生まれるのに)

 シャーは心でやや毒づいてしまいながらも、ちょっと安心した。

「なんだ、でもそういうことならいいんだけど。いや、一緒に暮らしてるなら、仲良さ過ぎて恐いなーと思ったんだけど」

「何を言う。俺にはそういう趣味はないぞ。それに、エーリッヒは悪いヤツではないが、やたらと細かくて困るからな、こんな近所になるのは正直嫌だったのだ」

「あ、その気持ち、なんかわかるわー」

「だろう?」

 忌憚なく率直な感想を述べるシャーにザハークは、心外そうに首を振る。

「それに、大体、エーリッヒのヤツには女がいるではないか。女連れで幸せそうに暮らしている隣に越してくるなど、気を遣うだろう」

「ええっ、そ、そうなの? オレ、聞いてないんだけどっ! ていうか、その、どこにいんのよ?」

 いきなり爆弾発言をするザハークにシャーは、がばっと食いつくが、ザハークは冷静だ。

「ん? 知らんか? 時々、見るだろ。ほら、長い黒髪で清楚な感じの娘だぞ」

 一瞬、シャーはどきっとして動きを止める。その特徴、シャーにも覚えがないわけではなかった。あの魔剣の騒動の時などに、ジャッキールの傍に女の幻を見たことがあったのだ。

「そ、それって、その、……いや、なんと言うか、時々ダンナの肩に乗っていらしゃる、……現実にはいてはいけない存在な感じのはかなーい美人さん?」

「おお、そうだ。なかなか礼儀正しくていい娘だぞ」

 ははは、と笑って語るザハークに、シャーはやや引き気味だ。

「ちょっ、それ、剣の話でしょ? 脳内嫁の話はやめてくれる?」

「失礼な。妄想ではないぞ。第一、お前もエーリッヒところの女を見たことがあるだろうが。ただの剣の化身ではないか。幽霊とは違っておびえることなどないだろう? そんなものは、俺のルーナにもいるし、もしかしたらお前の……」

「あ、アレは、見間違いだよ。オレは、そーゆー非科学的なモンは信じない主義なの」

 恐い話にもって行きそうなザハークをさえぎって、シャーは、思わず首を振って身震いする。確かにそれらしい娘を見た覚えがあるだけに、ぞっとしない話だ。シャーは、話題を変えてみた。

「それはそうとさ、蛇王さん、何しにきたの?」

「おお、そうだ。香辛料を借りに来たのだ。いや、せっかく茶を沸かしたのだが、香辛料を切らしてな。今日は香辛料を効かせた茶が飲みたい気分でな。ヤツは、一通り備蓄しないと気がすまない性格だから、何かと物持ちがいいので絶対にあるはずなのだ」

「なるほど、ダンナ、心配性だもんねえ」

 そういうところは、便利なのだがなー。と、ザハークは身も蓋もないことを述べる。

「しかし、エーリッヒがいないとなると香辛料の場所がわからんな」

 ザハークは、台所を覗き込んで途方にくれたように言った。それもそのはずだ。綺麗好きのジャッキールであるので、調味料などはきっちり直し込まれていて、どこに何があるのかわからない。

「この秩序を乱すと怒り狂いそうだよね、あのひと」

「うむ。探すのは簡単だが、後が厄介だ。仕方がない。奴が帰ってくるのを待つとするか」

「あ、ちょっと待って!」

 それじゃ、と帰りそうになったザハークを、シャーは慌てて押し留める。

「蛇王さん、今日ヒマ? ヒマだったら、夕方までちょっと付き合ってくれない? ダンナは、夕方まで戻らないっていってるしさ、ここで一人で待つのも暇なのよ? それにね……」

「ん? 特に用事はないが、何だ?」

 なにやら仔細がありそうなシャーに、ザハークは大きな目をしばたかせた。

「実はさ、オレ、今日ココに来る前にネズミに会っちまってさあ。暇だからってんで、今日、夜、男だけでちょっとした宴会をやろうって思ってるわけよ。オレもアイツも騒ぐ口実が欲しいの。で、アンタも来てくれるとうれしいんだが」

「ほほう、ご馳走が食えるのなら、俺も嬉しいぞ。ネズミ小僧に会うのも楽しいしな」

 その言葉にシャーはにんまりとする。

「おー、そうこなくっちゃ。でも、実は、コレ、ジャッキールのダンナにはヒミツにしててだよ。オレが、ダンナを夕方連れ出すことになってんの。逆に言うと、だからオレは、夕方までダンナんとこにいなくちゃいけないわけよ」

 ザハークは、何故だときょとんとする。シャーは、ジャッキールがいないにも関わらず、反射的に声を低めつつ告げた。

「宴会開くには口実が必要だろ? んで、一応、しょうもないことだけど、ジャッキールのダンナの祝堅気生活四ヶ月突破記念ってことにしようかってさ。その方がダンナも感激しちゃうかもしれないし、どうせならびっくりさせたほうが面白いだろ?」

「ほほう、それは、エーリッヒの奴、感激して泣くかも知れんな」

 ザハークが、無邪気に悪戯ぽい笑みを浮かべていった。

「え? 泣くかな?」

「泣く泣く。下手したら感動して号泣するぞ。あの男、ああ見えて結構涙もろいからな」

「ふぅん、楽しみというか、ドン引きというかだけど、まあそれはおいといて。まあ、そんなわけでダンナがその辺感づいて逃げないように、家に居座ってるわけなの」

「はっはー、なるほどな。それは楽しみだ」

 にやっとザハークは笑った。この男もなかなかいい性格をしている。

「ま、本当はダンナをからかいながら夕方まで待とうと思ったんだけど、ダンナのほうが逃げちゃってさあ。蛇王さんが話し相手になってくれると、オレとしても嬉しいんだけど」

「はは、構わんぞ。俺もちょっと暇をしていたところだ」

 ザハークは、ジャッキールの家だというのに遠慮なしに勝手に座る。シャーは、その向かいに座りながら、にやっとした。ザハークは、陽気ながらも相変らず静かな目をしている。多分、彼は既にシャーが何を聞きたいのか知っている風でもあった。

「いやね、蛇王さん、ダンナのことエーリッヒって呼んでるよな? エーリッヒって何さ」

「お、知らんのか? アイツの古い名前だ。ヤツは若い頃から色んな名前を名乗り、また呼ばれている」

「それは何かわかるんだけどね」

「奴の名乗っている名前は、すべて偽名らしいのだが、エーリッヒという名前と今の名前は使用期間が長くてな。特に売り出し前から名乗っているのがエーリッヒだから、俺や他の昔からの傭兵たちはそちらの方が通りがいいのだ」

「ふーん、そうなんだ。いやさ、オレ、イマイチアンタたちの関係がわかんねーんだよね。そんでもって、さっきみたいな質問したわけなんだけど……、実際のとこ、一体、どういう関係なの?」

「エーリッヒから聞いていないのか?」

「ダンナが教えてくれないんだよ」

 シャーがそういうと、ザハークはにんまりした。

「ああ、奴はそもそも重度のカッコつけだからな。『過去を語らない俺カッコイイ教』の信者なのだ」

 ザハークは、本人をいないことに言いたい放題だが、どうやら、ザハークの側から話すことには抵抗がないらしい。

「ま、腐れ縁の宿敵ということは間違いないぞ」

「でも、なんだかんだでオトモダチだよね」

「友人というわけではないのだが、エーリッヒの奴は人付き合いが苦手だから、俺ぐらいしか話す相手がいないからな。見捨てるのもかわいそうなのでつきあってやっているのだ。ま、よしんば友人だとすると、そうだな、お前とネズミの関係に近いのではないか」

 ザハークが、いきなりそんなところに振ってくる。

「オレとアイツは友達じゃないってば!」

 シャーは、そこに過剰に反応してしまうが、ザハークからすればその反応も考えての発言だったようだ。ニヤニヤしながら、ザハークは続ける。

「まあ、たまには昔話もよかろう。どうせ話は長くなる。俺の部屋から、茶でも汲んでもってきてやるぞ」

 片目をつぶってニカッと笑うザハークは、相変らず、無邪気で陽気で、そしてどこかつかみ所のない男でもあった。


 *


「わかんねえもんだよなあ、人間関係の機微ってさあ」

 ハダート=サダーシュは、唐突に呟いた。

「特に友人やら親友ともなると、わかるようでわからねえというか」

 いきなり、ハダートがそんな深刻そうなことをぼやきだしたので、隣で珈琲を啜っていたジェアバード=ジートリューは、思わず噴き出しそうになって慌てた。

「ど、どうした、何か悩み事でもあるのか?」

 王都中心部のとある喫茶店チャイハナの二階席。窓のある部屋を貸切にしているので、すっかりくつろいでいた二人だった。

 世間では、あまり仲がよろしくないと評判されながら、実は親友であるザファルバーン七部将と呼ばれる有力将軍の二人、ハダート=サダーシュとジェアバード=ジートリューは、例によってお忍びで街で遊んでいた。

 この国には様々な人種がいることもあり、目が青い程度ではあまり目立つことはないのだが、さすがにハダートの銀髪はそれなりに珍しい。そんなことと、ハダート自身が真昼の日光が苦手なこともあり、外出時にはそれなりに露出のない服装をしていることが多いので、自然と変装に近い状態であり、ジェアバードのほうも一族特有の赤い髪を隠しているので、この二人が例の将軍二人であるとは、今日も周囲には気づかれてはいないようだった。第一、その将軍達が、少しは上等とはいえ比較的庶民的な茶店で、接待の女の子もつけずにだらだらと酒や茶を飲みながら、どうでもいい世間話に興じていようとは思われていないのだろう。色んな性格の将軍達が集まっている七部将の中でも、この二人は特にこんな店でのんべんだらりとしている印象はないのである。

 しかし、印象は別として、この二人は暇ができれば、街でこうしてのんびりとくだらないだらけた一日を過ごすこともよくあるのだが。

 それはともあれ。

「何か人間関係で悩みごとか? それとも、友人関係で? もしや、俺が何か気に食わんことをしたとか?」

「え? あ、そういうんじゃないって。お前が気に食わないなら、こんなとこで駄弁ってねえよ」

 どうやら勘違いをして深刻に受け止めてしまったらしい彼に、ハダートは慌てて苦笑して否定する。基本的に冷淡なハダートであるが、何故かこのジェアバード=ジートリューに対する友情に対してはやたらと熱い。ハダートのほうから、彼のことを無二の親友と呼ぶほどである。

「お前じゃなくって、別のやつのことを考えてたの。世の中、わけのわからねえ人間づきあいするやつが多くてねえ」

 自分のことはおおっぴらに棚に上げて、ハダートは気だるく窓の外に目をやっていたが、何を見たのかふと起き上がった。

「どうした?」

 ジェアバードも追随して起き上がる。

 店の向かいには市場に通じる道があるが、そこに派手な上着を肩にかけた男が部下に何か指示しているようだった。部下は、色々な食べ物を買い込んだらしく、籠を抱えている。男は割合に小柄で、ともすれば少年のようにも見えていた。

「おやまあ、アイツ、こんなところもうろついてるのか」

「なんだ、まだほんの子供みたいにみえるが……」

「”アレ”が最近仲良しなオトモダチだよ。というか、悪友って表現がぴったりだな」

 ハダートは、にんまりとする。アレというのは、例によって彼らにとっては主君に当たるが、ちょっと面倒でもある三白眼の青年のことだ。

「悪友?」

 そんなのがいるのか、とジェアバードは興味津々だ。

「しかし、まあ、なんだかんだでよかったのではないか。あの男、ああ見えてなかなか同年代の友達がいないからな。今までも何人かご学友候補はいたが、相手が引いてしまっていただろ」

「そうそう、そもそも、アイツが吹っ飛びすぎてるのが問題だ。第一、ガキの頃から一般兵士に混じって博打打ってたようなヤツのご学友を、お坊ちゃん育ちのヤツにつとめさせようってのが土台無理なわけ。……っていっても、あそこにいるお坊ちゃんとつるんでるのがばれたらばれたらで、それはそれで問題になりそうなんだがなあ」

「何、そんなに悪い男なのか?」

「カドゥサって阿漕なヤツがいるの知ってるだろ?」

「ああ、悪徳商人として有名な。ところどころ、陰謀にも関わっているという噂もある男だな」

「あの兄ちゃんは、あそこの御曹司だよ」

「何!」

 ジェアバードは、まじまじと何か話している男を見やった。小柄で一見大人しそうな外見をしているが、何か部下に指示しているところをみれば、なかなかどうして。言動の端々から感じられるのは、いっぱしの不良青年といった雰囲気だ。

「ま。どうやら、あのお坊ちゃん本人は、オヤジと違ってそれなりに話のわかる男みたいだけどな」

「なるほど。まあ、それはそうか。友達になれる相手、ロクな男なわけがないな」

 ジェアバード=ジートリューは、やたらと納得した様子で深々とうなずいた。

「ああ、そういや、友達っていうと面白い話があるんだよな。なんだか知らないが、あのにーちゃん、カドゥサの息子と友達なのかどうかと尋ねたら、ムキになって否定しやがるんだ」

「まあ、アレも素直ではない性格をしているからな」

 ハダートは、肩をすくめた。

「はー、やだやだ、男のツンデレは。可愛げもへったくれもありゃしねえ」

 お前も素直ではないだろう、とジェアバードは思いながら再び珈琲を啜っていたが、ハダートがふと面白そうな顔で声をかけてきた。

「そうそう、素直ではないので思い出した。さっき俺がなにやら考えていたのは、ジャッキールのダンナのことだったんだよ。あのダンナの人間関係、謎すぎてさあ」

「ああ、そういうことか」

 なんだとばかり、ジェアバードはため息をつく。

「サギッタリウスのことだな。一応無罪放免ということになっているのだが」

「そう。あの黒いおじさんが『友達じゃないけど、俺がその内殺すつもりなんだけど、今のところは役に立つから生かしておいて欲しい』とか変な言い訳しながら、必死に助命嘆願してくるし、三白眼のおにーちゃんはおにーちゃんでさ、『そんな悪い奴じゃなさそうだし、しばらく泳がせていいよ』とか言い出すし。俺とお前でサギッタリウス関与の件は、握りつぶしてやったんだけど、これ、カッファさんはまだいいとして、口うるさいゼハーヴジジイにばれてみろ、大変だぞ」

 ハダートは、やや愚痴っぽくなっていた。

「それもそうだ。大体、未遂とはいえ国王暗殺の実行犯だった男だぞ。しかも、後々きくとアレももう少しで殺されそうだったと聞いたのだが」

「おう、おまけにその騒ぎの後で、あの腹黒ババアの屋敷に矢と一緒に花火ぶち込みやがるし。本当に、とんでもねー野郎だ。蠍のジュバって男から、サギッタリウスはとんでもない奴だと聞いてたが、噂以上だぜ。そのどれ一つとっても、本当なら晒し首上等なんだぜ。そいつを無罪放免とか、ホント、無茶なことさせやがる」

 表向きの後処理をしたのはジェアバードだが、裏でその辺を握り潰したのはもちろんハダートだ。その辺の様々な気苦労もあってか、ハダートは疲れた表情でため息をつく。

「それにしても、そんなトンでもない男を放置しておいて大丈夫なのか?」

「あー、なんかあったらジャッキールのダンナが責任取るって言ってたから、大丈夫じゃねえのかな。その内殺す予定なんでしょ?」

「ま、まあ、一番対応方法を知っているようだから、あの男に任せておくのが一番なような気もするが」

「ああ、でも、それ! それが俺には謎なわけよ、ジェアバード」

 ぐったりと姿勢を崩していたハダートは、がばりと起き上がる。

「ジュバからも聞いてたんだが、あいつら、毎度喧嘩しながら一緒にメシくって、一緒に将棋してたらしいんだよな。ジャッキールは、サギッタリウスの話すると極端に嫌がるし、とおもったら恥を忍んでの助命嘆願だろ? 昔は徹夜で殴り合ってただのなんだの聞いてるが、フツーにトモダチじゃねえか。第一、あの根暗のジャッキールに曲がりなりにもトモダチらしきものがいるってのもオドロキなんだけどな」

 さりげなくひどいことを言いながら、ハダートは腕組みする。

「しかし、ジュバの話では、どうもジャッキールがサギッタリウスを殺すっていってるのも嘘ではないらしいし、相手のほうも本気で殺す気もないわけじゃないらしいし。わかんねーんだよなあ、そういうとこ」

「宿敵から親友になったようなものなら、そういうこともあるのではないか」

「それにしたって謎が多いだろ。直接聞いてもなかなか口を割らないしな」

「本人が話したがらないのに無理に聞くのはよくないぞ」

「そうはいっても興味あるだろ?」

「ま、まあ、それはそうだが」

 ジェアバードに宥めるように言われるが、ハダートは反省した様子もなく、ジェアバードを巻き込もうと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それでだ。この間、サギッタリウスの罪状をチャラにしてやった恩を着せて、話聞かせてくれって色々きいてみてやったんだよ。さすがに口のかたいダンナも嫌そうにしながら、ちょっとは話してくれたぜ?」

「相変らず、根性が悪いな」

 勝ち誇るハダートの表情にジェアバードは、ジャッキールが苦りきった顔で仕方がなく事情を話している姿が思い浮かぶようで、なんだか気の毒になってはいたものの、話については興味を持っていたので、その口調はさほど非難がましくなかった。

「いいじゃねーか。俺もお前も、ヤツの件では相当苦労したんだし、それぐらいの事情を聞くのくらい。ま、聞いてもよくわからんかったんだが」

 すっかりハダートは饒舌になっていた。

「どうせ暇なんだ。話題も尽きてきたことだし、アイツから聞いたサギッタリウスの話でもするか」

 ハダートは珈琲を継ぎ足してからそれで唇をしめし、気だるい午後にぴったりの調子で話を続けた。

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