第5話〜第10話 か行

第6話 かせいに かえる かおと からだ



エナと 公園を散歩中 ベンチに 何かすわってる

すわっているのか 立っているのか

寝ているわけではないが 置いてあるのかな


「ねえきみ からだは どうしたの?」


顔だけの男は 体は 火星に あるという


「きみは 火星から 来たのかい?」


火星には 行ったことがないと


「どういうこと?」


くわしく聞くと


顔だけ男の 今ここにいる  顔の部分は 火星に行ったことがないが

体の部分は 火星に行きたいと言って 

公園のベンチに 顔だけを残して 行ってしまったらしい


だって 火星には 酸素がないから 顔は無理だって いうの


「エンタルネットテクノロジの 火星だから  

酸素はプログラムで つくれるのだよ」


そう教えると 顔だけくんは 火星に行きたいと 言い出した


「エナ 火星の行き方を 知っているかい?」


脳博士に 聞けばわかるそうだ



脳博士は エナの おじいちゃん

エナは 博士が作った 人工知能が作り出した

プログラムって 言ってたけど 本当かなぁ

研究所へ向かう途中 エナが 顔だけくんを 

ぼくの頭の上に のせたせいで

すれ違う人は 顔が2つのニンゲンに 腰をぬかす


エナは ゲラゲラ笑っていた



つづく






第7話 きかいの  きおく  きぼうの  きせき



丸い水槽の中に 浮かんだ 脳みそ これが 脳博士だ

脳につなっがった 電極を通して エナの口が はなすそうだ


「脳博士 はじめまして 火星の行き方を 教えてください」


エナの口が おじいちゃんみたいな 口調で話すには


月から 火星行き光速ワープバスが 出ているらしい

月までは 無重力自転車で 30分

タバコ屋の角を曲がった 線路の向こうの地区だって


そうそう エンタル宇宙は 地球の町並みに似せた 

仮想空間に してあるのですよ


「そうだ 宇宙ウサギは 月から来たのだ 案内してもらおう」


博士に 火星の酸素プログラムを まかせ

宇宙ウサギに 高周波糸デンワをかけた


「ウサギくん 火星行き高速ワープバスの 停留所まで 

案内しておくれよ」


バス停は 宇宙ウサギの 月の家の前に  あるらしい

無重力自転車を借りて 顔だけくんは 前カゴへ

エナが運転 ぼくは後ろにつかまり 待ち合わせ場所に  向かった


お弁当屋さんの前で  ウサギを待っている間

エナは からあげ弁当に 釘付けだったが ウサギが来たので


「とにかく 月へ 出発だ!」

 


つづく




第8話 くなんと  くのうの  くうかん



エナの暴走自転車は ゴミ箱や 看板を なぎ倒し

商店街を 突っ走った


ようやく 商店街を抜け 田舎の田んぼ道をわたって

ビル街に入ったところで 無重力自転車は 止まった


「もうずいぶん 走ったけど タバコ屋はどこ?」 


ウサギは エナの暴走の恐怖から

ぽかんと口を開けたまま 固まっていた


「もう少し 進んでみよう」


「あれ? この赤いビルは さっきの場所だ 

 まっすぐ進んでいるはずなのに」


進んでも進んでも また赤いビルの場所に戻ってくる

ぼくたちは 無限メビウス街道に 迷い込んだ

もう2時間も 走っているのに




 月の1日は地球の約1か月だが、ここエンタルシステムの中では地球時間が採用されている。しかし、エンタル宇宙では、地球の楕円公転軌道の違いにより公転円軌道換算に変換される。しかも、無重力状態での時間変動は、光速走行の際にはエンタル空間歪みの影響で、一定の感覚で時間停止が存在するため不規則に時間が流れるのだ。



つまり 時計は あてにならないのだよ

しかも エナの高速走行のせいで 空間に歪みが起こり

街道の はしとはしが裏側で つながってしまった

顔だけくんは悲しそう 宇宙ウサギは固まったまま

エナはマイクロドーナツを ぱくぱく食べていた


「きっとこのビルの向こうに タバコ屋があるはずだ

 もう真っ暗だ 今日はここで 休もう」


カプセルテントの中で みんなはスヤスヤと眠った

無重力自転車を闇充電モードにし 明日の作戦を考えた



つづく




第9話 けしごむで けした けしき



カラスがカーで 夜が明けて 


「そうだ!」


ぼくの声で みんなが起きた


「液体消しゴムで ビルを消すのだよ」


無限ジジイが発明した 液体消しゴムを

マシンガン水鉄砲に注入し いっせいに発射した

赤いビルは みるみる消えて 向こうの景色が現れた


「あ、タバコ屋だ!」


再び無重力自転車にのって 月へと急いだ



タバコ屋の角を曲がり 線路をわたったところに 八百屋さんがあった


「ウサギくん ここかい?」


ニンジンばかりの八百屋 ここが宇宙ウサギの月の家だ

中から パパウサギと ママウサギがでてきた


店の外には 火星行き光速ワープバスが来ていた

本日最後のバスらしい


「顔だけくん はやくのるのだ」


そうして 顔だけくんをのせて バスは 火星に旅立ったのです


「無事に からだに 会えるといいのだが」

ウサギは 月の家に残り 家族で  2、3日一緒にすごうそうだ

ぼくとエナは 家へ帰ることにした


帰りはぼくの運転で のんびり走行した


「帰りに からあげ弁当を買って 公園で食べようね」


メビウス街道で 迷わないように ビル街を抜け

田舎の田んぼ道を通ったころは もう夕方

2人っきりの サイクリング

お弁当屋さんで からあげ弁当を2つ買って


「エナ 楽しかったね」


と公園に入ると


ベンチに 何か いた

すわっているのか 置いてあるのかな

ニンゲンみたいだけど とにかく


顔がないのですよ


「あっ きみ もしかして・・・」


エナは からあげ弁当を2口でたいらげて

無重力自転車に またがって もう スタンバイしていた


「再び 月へ 出発だ!」



おしまい




第10話 こころに こいが ころがる ことも



「えーーーーーっ!」


突然のエナの プロポーズにおどろいた

散々ぼくは 胸の内を 打ち明けたのに 全く 通じないのですよ


どうやら エナのプログラムには 恋の感情モードが 存在せず

ぼくよりも ケーキの方が 好きなんだってさ


エナが寝ている間に ぼくの感情のコピーを 再構築したデータを

食いしん坊の感情やら イタズラの感情に 並列入力させたのだが 

うまく処理できず 奇跡が起きたか はたまた プログラムの誤作動か

とにかく エナは 結婚しようと 言い出したのですよ


しかも 結婚式は 明日にすると 何をそんなに   急いでいるのか 

わからないが  みんなを集めて 準備にとりかかった


ぼくは 無限ジジイの えんび服を借り

エナには なみだババアが 大急ぎで 

ウエディングドレスを あつらえた


エナは 一晩中 キッチンにこもって 何か作業をしていた 

みんなに振る舞う 料理を作っているのかなぁ


翌日の午後 結婚式がはじまった

亀のおじさん神父の 誓いの言葉にも なま返事で 

エナは 何やら 急いでいるように さっさと式を 終えたのです



披露宴会場の 新郎の席で ぼくは 新婦の登場を 待っていた

入場のドアが 開いた瞬間エナは 猛スピード走ってきて


飛び上がって 抱きついたのです

大きな ウエディングケーキにね



「なんだ エナは 大きなケーキが 食べたかったんだね」


あっというまに 自分で作った 大きなウエディングケーキを

ひとりで全部 食べちゃいました



結婚式の後 エナは 


明日も 結婚しようと 


ぼくに 言ってくれました



おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る