烏丸回顧録 ~リサとアラタの閉じられた世界~

五色ヶ原たしぎ

回顧00




 純粋だとか、無垢だとか、そんなものたちを「尊い」だなんて思っていた私は、どこにも行けなかった。


 この辺鄙な田舎町が、この発展を忘れた烏丸町からすままちが、閉鎖的だとか、閉塞的だとか──そんな事実を抜きにしても、私はどこにも行けなかった。


 空を飛ぶ鳥を、自由だなんて思っていたから。

 泳ぎ続ける回遊魚を、たくましいだなんて思っていたから。

 「正しさ」こそを、「正しい」と思っていたから。

 私はどこにも行けなかった。


 そしてそれを知るための犠牲は、やがて訪れる代償は、とある少年の命を奪うことに等しかった。


 等しいというよりも、奪うことそのものであったかもしれない。


 薄暗い気持ちで語る、ほの暗い物語は、私の愚かさだけを照らしている。


 自己嫌悪にまみれ、自己研鑽を忘れた、若さゆえの過ちに溢れている。

 目を背けたくなるような、鼻をつまみたくなるような、泥々とした青臭さに溢れている。


 その弱さこそが、何よりも「尊い」ものなのだと、今の私は知っているけれど。

 その弱さこそが、私を強さへいざなうものなのだと、今の私は知っているけれど。


 薄暗い気持ちで語る、仄暗い物語は、薄暗い夜道に始まる。

 寂れた山道を照らす灯籠が、心許なく照らす灯籠が、全ての始まりを照らしている。


 誘っている。





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