02-3.ガラス越しに困っている事:注意力が散漫過ぎる

この話題は最近某国営放送でも紹介していたので知っている方も多いのではないだろうか。集中力が基本短く、注意力が散漫。この2つはイコールでもあり、双方向にかみ合っている。集中力が短いから注意力が散漫で、注意力が散漫だから集中力が短い、といった具合だ。

最近見た番組では、ADHDの小学生をモデルに紹介していた。

授業を聞こうと頑張る→ポスターが気になる→ポスターの中の絵柄(ト音記号)の事について考え始める→一度我に返って授業を聞こうとする→前の席の女の子が着けているシュシュが気になる→先生に注意される、という流れだ。

友人が同時間帯に見ていたようだが、「あれだと、ADHDと健常者ってあんまり変わらないイメージになっちゃわない?困っている事がわからない」と言っていた。

確かにこの事例だと「誰でもこんなのあるじゃない?」と思ってしまいがちだ。実際私の夫も「これじゃあ普通の人(=定型発達)と変わらないイメージになるよなぁ」と呟いていた。確かに、多かれ少なかれ感じる感覚なのかもしれない。


では、ここで36才ADHDのリアルをご紹介しよう。

簡単に、「A駅からB駅まで電車で移動する」と仮定する。乗り換えは無し、30分程度そのまま乗っていれば到着する各駅停車の電車だ。


1.電車に乗って椅子に座る(あ、スマホマナーモードにしなくっちゃ)

2.スマホをマナーモードに設定(そういえばメール見てないや)

3.メールチェック(ヘアアクセサリーの入荷か。そういえば髪、結構伸びてきたんだよね)

4.髪をいじりながらふと前を見るとエステの広告がある(全身脱毛って痛くないのかな?)

5.エステの広告のイメージカラーである「赤」の色に目が行く(そういえば最近口紅買ってないな。半年以上買ってないから怒られるかな)

6.その広告の前に座っている女性のネイルを発見(お、最近流行のたらしこみネイルですか、結構大変なんだよねあれ)

7.その女性がスマホを操作しているのを見て、一旦我に返ってスマホのメールチェック

※注釈※

この時点で何駅かとか、今どこにいるかとか、何分で着くかとかはまるっきり頭から抜け落ちています。

8.スマホの通知バーに音楽の広告が流れてくる(あ、ウォークマン出しておかなきゃ)

9.ウォークマンを出して耳にイヤホンを差し込んで曲を選択(新曲入れてくるの忘れちゃった・・・覚えたかったのにな)

10.イヤホンで数分音楽を聞いていたら「次はD駅です~、○○線、▽▽線の方は乗り換えです」(あれ?!2駅も乗り過ごしちゃった?!)


これが、毎回です。

繰り返します。


毎回です。


02-2で述べたが、一番の問題は「あちこちに意識が飛んでしまう」事ではない。情報の取捨選択が不可能であるため、情報が均一に入ってきてしまう。そうすると、目の前の事項にとらわれてしまい「本来の目的が頭からすっぽり抜け落ちてしまう」のが大きな問題なのだ。その辺りをぼやかしてしまうと、問題の本質が見えなくなる。

おそらく、健常者であれば何をしていても、脳の根本に「B駅に行く」というのがインプットされているから、何かのタイミングで(例えば、3とか、最悪でも7の辺りで)思い出して「今何駅なんだろう?」と考えるのだろう。

それが、ADHDの場合、そもそも「B駅に行く」という根本の目的が1~7のどこかで完全に削除されてしまい(人によっては脳の中での優先順位が一番下に落ちてしまい)、目の前の事にしか意識が向かなくなってしまう。

気がついた時にはもう遅い。慌てて降りて、D駅で逆方向の電車を待つしかないのだ。

私の場合は「30分」という時間の余裕があったり、広告や同乗者等「周囲の行動・外見」に興味を持ってしまうとアウト。

「30分も乗るんじゃ暇を持て余しちゃうな」という余裕ぶっこいた考えがこんなトラブルを招き起こし、派手な広告、自分が仕事にしている内容(メイクやネイルといった美容関係)に目がいくと、途端にその色やデザイン、果ては仕事の事まで思考が届く。もう駅とかホントどうでもいいの?というぐらい考えられなくなる。


今は投薬と認知療法、対処療法を使う事でで随分トラブルが減った。

ただ、ここだけは強調しておきたい。


「考えない」のではない「考えられない」のだ。


ここが、現時点で健常者とADHDの大きな違いではないかと、私は考えている。

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