第52話 激突ですか?勇者さま。①








『 こ、こんな事、、が… 』




ソラは目の前で起こっている戦いが信じられない。




何なのよ! コイツらは?




モンスターであろう獣王が人間離れした強さなのは、信じられないが納得は出来る。




だが、、町娘は?




勇者フェンの連れていた女。



…最初は、ともすれば、本当にただの一般人の可能性さえ有るとソラは思っていた。




なのに…




何なのだ、これは!




討伐隊の冒険者達を容易たやすく倒した事で、只者ではない事は分かった。




そしてじかに戦い自分より上だと思い知った。




はずだった…。




町娘の力は把握はあく出来た筈だったのだ。




だが、、今、目の前で起こっている戦いを目にしては、もう、、




先程までの事など、ただのお遊びでしかなかったのだと思わざるをえない。




獣王と町娘の戦い。




言葉だけ聞けば『勝負にもならないだろう』と誰もが、、ソラでさえ、そう思っていた…




・・・先程までは。




既に人間の戦いには見えないのだ。




見た目はそのまま町娘だが、、、





巨大な岩が乱れ飛び、周囲の樹木は残らず斬り倒され、ぎ倒され、地は割れ、そこからい出した地の龍がのたうち回る…




どこの地獄だ…ソラは思う…こんな物、、こんな者達と戦おうとしてたのか、私は?




しかも『勝てる』なんて思っていたのが、どれ程お目出度めでたい、『甘い考え』だったのか、と。




これはもう勝敗を考える以前の問題だ…出逢わない事を祈るしかない…天災と同じだ。






「では、、、行くぞ。」




「仕方ないですね…とりあえず、このままでは危なそうね。」



言うと町娘の身体を何かがおおう。




何か、が分からないのも先程、町娘が装備していた自称『マッド君』とは違ったからだ。




シルエット的には同じに見える…が、その張り付いている物が違う。




どう見ても『泥』ではない…周りの風景を映し出すそれは銀?…いや、鏡の様にも見えた。




「では、準備はいいか?」




あくまで獣王は 『 王 』 たる余裕を見せる。




「うーん。大丈夫だと思うけど…」




「行くぞ!」




獣王が斬撃を放つ。



、、瞬間…町娘と町娘の後方のみを残し、樹木が扇状にバタバタと倒れる。




耐えた、、のか?、、獣王の斬撃を!!




ソラの驚きの感想など獣王は待っていない。




斬撃を放った瞬間、突進して直接町娘に斬りつけたのだ。




「可哀想な事を…っっ!!」




町娘がチラリと背後の木々を見、つぶやく内に、獣王の直接攻撃が町娘に入る。




何が可哀想なのか? などというソラの疑問すら待ってはいない。




『ピキィキャッ』とでも表現しようか、今まで聞いた事の無い音と共に町娘が吹き飛んだ。




遠距離からの斬撃が効かないと知った獣王が直接攻撃を叩き込み、そのまま攻撃が入ったのだ。




「ま、敗けたの?町娘が?」




当然、そうだろう。




今の一撃が入って生きている方がおかしい。




だが、ソラは苦い違和感を感じていた。




…不自然なのだ。




…ソラでさえ、勝てぬと認める町娘だが、、獣王の攻撃をただ見つめるばかりで、全然避けていなかったのだ。




到底、訓練を重ねた者の動きではなかった。



…なぜ?先程の討伐隊の冒険者達を攻撃した様な動きが出来るなら回避しようとすれば回避可能なのでは?



戦いに関しては、まるでソラ達が追い剥ぎに遭っていたのを助けた料理上手な町娘と変わらない気がしたのだ。




どちらにしても…敗けた…いや、死んでしまっただろう。




だが、見れば獣王はまだ戦闘のかまえをいていない。




「…まさか?」




吹き飛んだ町娘を見る。





確かに、あの斬撃を受けて真っ二つにならなかったのは驚きではあるが…生きている訳が、まだ戦える、なんて訳がないだろう。




だがソラは驚愕きょうがくする事となる。




「けほっ。流石さすがです…斬撃が効かないなら直接…とは…それに…この威力…」



なっ!…生きて…しゃべっている?!




「わしの攻撃を受けて傷すら付かずに吹き飛ぶなど、記憶に無い事だからな!」




「流石に甘く見過ぎでした…けほっ、頑張らないと危ない、、です、ね。」




「そうだ!わしは甘く見て良い相手では無い!もっと力を見せてみろ!!」




「言われなくとも… 『 お願い 』 …」




町娘の銀色の姿が変わって行く…既に人間の姿は消え去り、獣王よりも巨大な漆黒の巨人と化して行く。




「そうだ!いいぞ、娘!!」




獣王が吼える…あからさまに敵が強くなったと言うのに声が嬉しそうなのだ。




鎧なのか素顔なのか獣王の顔は一切動かないので実際どう思っているのかは分からないが…




「いいぞ!、いいぞ!!」




「力を感じる…魔王以外に全力をぶつけられる相手が居ようとはな!!」




獣王の口から意外な名前が出る… 『 魔王 』 と。




魔王?!…獣王は魔王と戦った事が有るの?




いや、この実力だ。魔王軍の幹部の生き残りとか?




まさか、、力を蓄えて、今度こそ世界制服を狙っているとか?




ソラの想像は止まらない。




「行くぞ!!」



短く言うと獣王の気が辺りに充満していく。




呼応するかの様に獣王の武器が更に巨大に、不気味にうごめき立ち、輝く。




町娘も動く…とは言っても祈る様な動きをし、一言、言った。




「皆、お願い。」







…もう立ち入る世界ではなかった。




獣王が飛来する巨大な岩石を不気味に蠢く剣で斬れば、容易たやすく岩は噛み砕かれる…



『斬っている』のに『噛み砕かれる』とはおかしい気もするが、目の前で起こるそれは…そのままだった。




蠢く剣が岩を食い破るかの様に削り取る、、いや、噛み砕くのだ。




まるで岩石が爆発したかの様な音と共に砕け散って行く。




「、、、到底、人間とは思えぬ力・・・一体どうやって手に入れた!」



獣王がえる。




「それは、お互い様ですよね…貴方も、とてもとは思えませんよ。」



町娘が皮肉っぽく言う。




もう一人、叫びたかった者が居る…蚊帳かやの外のソラが一番強く感じていたのだ。




『それは此方こちら台詞せりふだ!』、、と。




先程から聞いていれば、獣王と町娘…まるでお互いの様な物言いなのだ。




『こんな人間が居るか!』…いや、居ない。




獣王はモンスターの上位種、町娘も見た目は人間の姿だが、その実はモンスターなのだろう。




なぜ勇者と一緒に同行していたのかは不明だが…。




「あ、・・・」



ソラは思い出した…。




余りの事に、ただ呆然ぼうぜんと二人の戦いを見守るしか無かったが、キャスティの元へ向かう為にすきうかがっていたのだった。




『 これ 』 はもう倒せる物、、倒せる者達では無いのだ。




自分達には 『 逃げる 』 か 『 死ぬ 』 事しか選ぶ事を許さない相手なのだ。




キャスティと合流して退却…冒険者達を盾にして…無理ならキャスティも。




獣王は戦いに夢中の様だし、町娘も余所見よそみをする余裕までは無い様だ。




気付かれない様に、後ずさる。




いつもならスタンを掛けて気楽な退却も今回ばかりは命懸けだ。




ソラの命を奪うなど、戦っている二人からの直接攻撃など必要ないのだ。




逃げる途中に運悪くながだまの一つ…獣王が粉砕した岩石の一つでも当たれば私は死ぬのだ。




勇者と呼ばれた私の命が、なんて安さなのだろう?




今はただ、逃げる、、生き残る事だけ考えるしかないのだ…自分の運を信じて。



ようやくある程度、距離が取れたので背中を見せて逃げ出す…駆引きなど無い。




キャスティが居る…捕虜達が居る場所へ、ひたすらに走るだけだ。




ソラはまだ知らない…獣王が 『 そこ 』 から来たのだという事に。





ソラが遠ざかって行く事にシズは気付く。




「いい加減にして下さい!」



獣王に言う。




フェンには一瞬ではあるがソラのスタンが効いていた事を知っているシズだ。




あの女をフェン君の元へ向かわせる訳にはいかない…




だが、獣王は言葉を別の意味に理解する。




「そうだな!こんな攻撃は 『 いい加減に 』 して欲しいだろうな!」




「わしの全力攻撃を受けてみるがいい!」




「もう解っている筈です!私が敵では無い事は。」




「ああ、解っている…お前には 『 倒してやろう 』 という殺気が、まるで無いからな。」




「だったらなぜ? 戦う理由など無い筈です!」




「戦う理由?…無いな!ただわしは全力で戦ってみたいだけだ!」




「もう!面倒臭い…戦闘狂せんとうぐるいはこれだから…」




「行くぞ!この攻撃で生き残れるなら…お前の勝ちでいい!」




獣王の気勢きせいが消える・・・




代わりに零号神斬斧が戦慄わななきを上げる。




・・・自分の気を武器に喰わせているの?・・・私の様に、、




「喰らえ!!」




それは獣王がシズに向けて放った言葉か、武器に対して放った言葉か・・・




突進し、全力で放った斬撃…斬撃だけでも想像を絶する威力だっただろう。




斬撃がシズのまとった鎧に触れた瞬間、、斧が喰った。




・・・いや、触れた部分が喰われたと言うより消えた、、消滅したのだ。




今まで何をしても傷一つ付かなかった鎧の一部がゴッソリと欠ける。




「か、、かはっ…見事…です…でも私は、生きて、います、、よ、」




「私の…勝ち…」




「ああ、お前の勝ちだ…」




「早く…フェン君…」




「私…」




鎧が砕け散り倒れかかるシズの身体が、、何か柔らかい物に受け止められたかの様に止まる。




そしてシズを中心に周囲が緑に・・・周りというより一面が緑一色に染まっていく。




・・・何が?




サマか?、、半身ハンシン、にアダなすオロ、、かモノは」




誰の声だ? 微かに聞き覚えが有る様な…?




シズの身体を包んだ緑が輝き…シズではない者の姿をとり始める。




羽が有る?…人間に?…いや、人間ではないのか?




やがてそれは獣王の記憶にる一つの存在になる。




獣王はかつて一度だけ見た事が有った・・・




「馬鹿な、精霊王、、なのか?」




・・・この娘・・・シズと言ったかが、、精霊王、、いや、違う。




精霊王なら自分とて勝てる訳が無いのだから。




精霊王…それは大地そのものなのだ。地上に生きる生物である以上、逆らえぬ者なのだ。




「我を知りし人間よ、選ぶがいい…生か死、を。」




「我が半身がお前を殺すつもりが無いのは知っている…が、我は別だ、、」




「戦い、死にたいのであれば…死を与えよう。」




「選べ!…生か死か…」




「まだ死ぬ訳にはいかぬ…精霊王!…生だ!我は生を望む!」




「良かろう…我が半身の希望でもある、、但し…」




「生を与える代わりに、我が半身のもう一つの願いを叶えよ。」




「願い、、とは?」




「…勇者、フェンの無事…だ。」




…先程のフェンなら放って置いても一人で大丈夫なはずだが…?




獣王は思うが、シズの先程の様子を思い出す。




…あの女…ソラと言ったか、、がフェンの元へ行くのを気にしていた、のか?




あんな女冒険者一人が行ったからと何が起ころう筈がないが…




…フェンが負ける要素があの逃げた女個人に有るという事なのか?




「良かろう…フェンの命は守ろう…どのみち攻め込んだ奴等やつらは全て倒す予定だ。」





ソラは走る…自身が生き残る為に。




あそこに着けば捕虜を守っている冒険者達も、キャスティも居る筈だ。




… 『 おとりの数は多い程いい 』




… 『 盾の人数は多い程いい 』




獣王に町娘…あれを前にしたら冒険者達も一溜ひとたまりもあるまい。キャスティも。




だが、今はわらでもつかみたい場面、、思いなのだ。




ようやく獣人の捕虜達の居る地点に辿たどく。




だが、、、




ソラの予定では勇者フェンを倒したキャスティが待っている筈、、筈、、、




「何を?、、何をやってるのよ、キャスティ!!」




「ソラ!?」




・・・なぜ?、、ソラが、、ここに?



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