第2話 平穏ですか?勇者さま。
「ホント、運が悪いな・・・」
「平穏が一番だよな・・・」
「たまの休みに何やってんだろ・・・」
それは、よく有る話で・・・
魔王軍率いるモンスターとの戦いから数十年が経過していた。
町や村も普段の生活を取り戻していた。
勇者パーティーの命がけの冒険も物語や言伝えとなり人々の記憶に
薄くなってきたのも仕方の無い事なのかもしれない。
・・・が、魔王を倒したとは言えモンスターが全て消えた訳ではない。
山でも海でも、あらゆる場所にモンスターはいる。
魔王という司令塔を失い集団で人の街を襲う事が無いだけである。
一歩、人の街を離れれば運悪くモンスターと遭遇する事もある。
「遭遇」などと言うと「モンスター側が襲って来た」と言いたくもなるが、
要は人間がモンスターの生活圏に入り込んだだけだ。
他種族のテリトリーに無断で立入ればどうなるか?
言葉が通じるなら「苦情」で済むかもだが、通じなければ直接的な
「行動」=「攻撃」となるのは当然とも言えるだろう。
当然、不意な遭遇もある。
人が狩りに行って獲物を見つけたのと同じである。
「なんで見つけちゃったかな。ホント運が悪い。」フェンは再度呟く。
今日は依頼ではなく久々の休みで息抜き兼、小遣い稼ぎになればと、
薬草や木の実などの収穫に来ていたのだが、、、
「ちきしょう・・・」 「なんでっ・・・」 「た、助けて・・・」
それなりに屈強そうな男達が武器を手に荷馬車の周りで戦っている。
運悪く、襲われたのだ。
冷静に聞く人が聞けば「なにを当たり前な事を」と言いたくもなるが、
見てしまっては助けないのも後味が悪い。
「どうしようかな?」フェンは考える。
見た感じ対人には慣れているようだがモンスター相手にはサッパリの様子。
たまたま収穫に来ていて見つけてしまったが、襲われている当人達も、
危険と承知の上で来ているのだろうから。
「助けないの?困ってるよ?」
後ろから小さく声が掛かる。フェンの戻りが遅いので探しに来たらしい。
「でもな、あれ見ろよ。シズ」
商人、しかも護衛という護衛すらもいないのでは「襲って下さい」
と言っている様なものである。・・・で、襲われた、と。
幸運にも・・・と言っては何だが商人達は反抗せず、あっと言う間にそそくさと
逃げ出した為に人的被害は無かったものと思われる。
ここまでは良くある話で、持ち主の商人が積荷を諦めた以上、わざわざ積荷を
取り返して、なんて危険を冒す必要も、つもりも無かった。
・・・はずだったのだが。
そう。今、モンスターに襲われているのはその場で奪った積荷の品定めを始めた
盗賊、野盗達だ。
当然だが、自分達が誰かを襲おうと言うのだから、危険は承知の上のはず。
「つい今しがた商人を襲ってた奴らだし、いっそモンスターに、、、」
「「 だめだよ! 」」
こういう時の幼馴染の真直ぐな瞳と正論にはぐうの音も出ない。
「はぁ。仕方ないか・・・。」ため息まじりに呟くと
即座に幼馴染から発破を掛けられる。
「仕方なく、なんてじゃなく、ちゃんと助けようよ。」
そして、
「勇者なんだから」
・・・いや、まだ勇者じゃない・・・はず。
フェンは戦う
物心がつく前から修練していたから。
何の疑問も持たず普通の事として戦い方を学んで来たのだ。
父親は離れて暮らしている為、爺ちゃん『ジン』から直接に。
血筋か才能か、はたまた努力の結果なのか一部の『技』も修得していた。
一般的な剣術との大きな違いが一つある。
それは、最近の対人との戦いのみに特化した剣術とは違い、
魔物、モンスターとの戦いを主眼に置いた物だった。
ではモンスター以外とは戦えないかと言えばそうではない。
知らず知らずフェンは大人どころか冒険者以上の実力となっていた。
前にシズをモンスターから助けた事が有り、それ以降シズの中では
俺=勇者、となっているらしい。
ちなみにシズも決して単なる村人ではない。
シズネ・レム・ガイア・フォーレスト
いつからかは忘れたが、ずっと『シズ』と呼んでいる。
シズは土の精霊を使える精霊術士なのだ。
そして「使える」と言うとシズは怒る。
決して使役している上下関係なのではなく、あくまでも
『お願いして協力してもらっている』のだそう。
簡単に言うと友達のような関係なんだそうだ。
魔法使い、土魔法使いとも違うらしい。
本人の魔力ではなく、自身の存在を媒介に力を現実化させるらしい。
同じ見た目で効力や結果まで同じなのに・・・違うの?
そちらの話しはサッパリなので良くは理解出来ないが。
まるで「これは同じ物ですが違います。理解出来ますよね?」
と、言われているような話しで何度聞いても?がつく。
まあ、どちらにしてもシズが信頼出来るのは間違いなく理解している。
「私がやっちゃおうか?」
「いいや。俺がやるよ。」
シズが『信頼以上の威力を発揮するお友達』にお願いする前に行動開始だ。
・・
・・・
・・・・で、逃げられました、と。
助けに入りモンスター(まあ、ただのゴブリンだけど)は問題なく倒せた。
・・・んだけど、助けた人達である盗賊達も散りじりに逃げ去ってしまった。
「えーーっと、、、この荷馬車どうしよう?」
何とも言えない脱力感を感じていると、
「街まで戻ってギルドに言えば引き取ってもらえるんじゃない?」
うん、シズ素直過ぎ。でも仕方ないか。
「森の街道で荷馬車拾いました」・・・。
「持主は逃げて不明です」・・・。
「モンスター倒したので報酬下さい」・・・。
・・・って、どう考えても説明が面倒そう。。。
まあ、普段は嫌なはずの親の七光りだが、今回はそのお陰で疑われたりはしないだろう。
結局、今日は何の収穫もなく街に帰る事になってしまった。
ふとニコニコと機嫌が良さそうなシズに目をやると大きく膨らんだ鞄を抱えている。
「シ、シズ?、、、そ、その鞄は?」
「えっ? 今日の収穫だよ?」
・・・シズ、頼もし過ぎ。
脱力感が限界突破しそうだ。
久しぶりに勇者らしい姿を見たとルンルンなシズ。
とは対照的にモヤモヤしているフェン。
周りが二人を見たら『どういう状況?』と首を捻る事だろう。
「ホント俺って、たまの休みに何やってんだろ・・・」
街に戻りシズと分かれた後、ギルドに行き今日の経緯を説明する。
予想通りだが大分時間が掛かってしまい、もう外は薄暗い。
『シズを連れて来なくて正解だったな』と自分を褒める。
シズから預かった今日の収穫を預け、そして前回分の売上げと報酬を受け取る。
イレギュラーな事は有ったが毎回のルーチンワーク。
無意識にも出来そうな位だ。そして家に帰る。
大目に見れば『まあまあ平穏な一日だった』と思っておく事にする。
「なぜ止められなかった」
「今はもう、そんな時代ではないのです」
平穏な一日・・・と、思ったが家に近づくと、いつもとは違った声が聞こえる。
ギルドからの依頼の人かな?とも考えたが違うようだ。
どんなに困難な依頼の話しでも拍子抜けする程に常に冷静な爺ちゃんが声を荒げている。
家に入るタイミングを計る為、と、興味半分で聞き耳を立ててみる。
すぐに正体は判った。
一人は爺ちゃんの声。もう一人は最近聞く機会の少ない父の声だ。
父は王城で働いている。地位も高く本来なら喜ばしいはずだった。
が、はっきり言って苦手意識がある。
地位の重要性から王都を離れられず離れて暮らす父に対して
まだ納得出来る知識も経験も無く答えが見つけられないでいた。
「どうしても参戦願えないのですか?」
「くどい」
「あなたが手を
日ごろ聞かない爺ちゃんの声と、聞く事自体が少ない父親の声。
・・・久しぶりなんだし仲良く出来ないのか。
と、子供心に何だか寂しい気持ちになり、また、仲良くして欲しいという気持ちも。
何とかしよう、という考えから単純明快な行動を選択する。
それは、、、
「ただいま!」
何の事はない。何にも聞いてません、と明るく登場である。
「・・・・」
「・・・・」
突然の帰宅に暫しの沈黙。そして、
「「おかえり。」」 声が重なる。
「久しぶりだな、フェン。元気にしていたか?」
・・・ひとまず仲裁作戦は成功のようだ。
とは言っても、言い争う事はしないが談笑などは無く、近況報告をし、
政務が有るからと帰ってしまった。
後から知ったが、近々隣接する国との戦争の可能性が有るらしいこと。
そしてその戦への参戦要請を伝えに父が派遣されたのだ。
実は気付かなかっただけで、もう数年前から幾度となく依頼は有ったらしい。
爺ちゃんは事あるごとに言っていた。
「フェン、勇者の力は世界の平和の為に使うんだよ。」
そして爺ちゃんは断った。
年月が過ぎたとは言え、国は爺ちゃんの能力を高く評価している。
・・・そして、恐れているのだ。
そう、魔王を倒した勇者パーティーメンバーの力を。
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