163:ビオが見定めるもの

 ビオは山から目を離した。

 同じように山を見て息をのんでいた、お付きの兵が呼びかけ何か伝えている。ギルドか砦に向かうんだろうか。それとも、山を見てどうにか脱出しようと考えているのか。

 しかしビオは首を振って、体を反転する――真っ直ぐに、俺を見た。


 びくっとして思わず前に出た。

 隠れていたつもりも後を付けていたのでもないが、嫌な見つかり方で気まずい。

 スケイルは鞄から頭を出している。

 こんな時だし、乗ったまま街の中を移動しても良さそうだが、改めて魔技石不足の不安が湧いていた。

 それに、まだ、猶予はあるんだ――。


 俺を遮るように前に出た兵を、ビオが止めた。

 緊張というより興奮状態なのか、スケイルを警戒して殺気立つ。鎧のあちこちが土に汚れ、傷は新しいように見える。道中の様子が垣間見えるな。

 やはり外にも、既に異常は広がっている。


「聖獣と契約したと知らせを受けたが、この目にしても、信じがたい」


 ビオはスケイルを一瞥し呟く。

 恐らく聖者は、人類で最も正確に魔素を読み取る。なら、俺とスケイルの不釣り合いな状態が、ことさら異常に見えるだろう。

 その話は後回しだ。まずは焦れた様子の兵に落ち着いてもらおう。


「邪竜が顕現するには、体が大きい分、時間がかかるそうです。だから、もう少し猶予はあります」

「貴様、何を言う!」


 再び兵がいきり立つのを手で制し、ビオはすっと目を細める。


「よくも小道具のことを黙っていたな」

「す、すみません……」


 反射的に頭を下げた時、視界に入った異物をガシッと掴んだ。


《この者が、主の言っていた森葉族の聖者なのだろう? 久々に聖魔素を持つ者を見た。しかもなかなかのものではないか》


 だから舐めようとするなって。


「聞いた通り、話も通ずるようだな……研究院の資料にあるものとも同じだ」

「それは、スケイルを見つけた研究者のものですか?」


 つい食いついてしまった。ビオの顔がわずかに曇る。


「秘されていたことも、明らかとなったか」

「あ、その、対策に関すること以外は口外してません!」

「構わん。もう無関係ではなかろ?」


 それは……そうだ。疎開せず残ってるのだから。


「先ほどの予知は」

《予知などでは》

「この辺一帯の聖魔素を嗅ぎ分けるらしくて」


 ビオはスケイルに目を合わせて微笑んだ。


「スケイル殿、お手をお借りする」

「クエェ」

《うむ、苦しゅうない》


 なにを生意気な。

 それより、予知!


「すいません、急いで伝えてきますんで!」

「我らも馬車を片づけ次第に合流する。後ほど会おう」


 皆騒然としてるよな。急がないと!




 昨日までよりも大きく低い地鳴りが、足元から伝わる。それは邪竜が山を崩し始めてから途切れることなく続いており、街全体を軋ませているようだった。

 すっかり日は暮れたのに、どこか明るい。

 残った住人がランタンを手に様子を窺っているせいもあるが、砦辺りが煌々としている。ギルドではなく天幕を目指した。

 まだ離れた場所からも怒声が届く。


 広場には、戻ったばかりらしい薄汚れた何組かのパーティーが、怪我人を置くと残った人員で組みなおして山へ駈けていく。人族が土嚢らしき袋を運んだり、商店街の住人が薬屋に手を貸して怪我人を運んだりしている。ギルド職員が場を仕切り、砦兵は――鉱山に続く道に出て、街に近付こうとする魔物を牽制していた。


「もう、ここまで……」


 大枝嬢と話し合っているギルド長を見つけて駆け寄る。

 ビオ達へ知らせてしまったが、まずは判断を仰ぐべきだったかな。

 他の報告者を遮って、山の状態とビオの到着を告げる。


「邪竜が動くのは早くとも明日! 出来る限り体を休めろ! 聖者が到着した!」


 ギルド長が叫ぶと、聖者のところで雄叫びが上がり、連絡係は弾かれたように方々に散った。

 代わりに駆け寄る人物は、砦長。槍を手にしている。柵の外で戦ってたんだ。


「間抜け声が聞こえたぞ」


 相変わらず罵るが砦長の声音は静かだ。ギルド長も、いつものように嫌悪は見せず用件を切り出す。


「聖者殿を交えて話し合う必要がある。砦の粗雑な物置きを一つ開けられるか」

「整然とした会議室なら用意した。とにかく、一旦、仕切り直せるのはありがたい」


 砦長の最後の感謝は俺に向けられていた。

 そこにビオ一行が駆け足気味に到着し、砦長はすぐさま迎える。


「聖者殿、お待ちしていた。お伝えしたいことが山とある」

「うむ、その時間もあると聞いた」

「ちょうど英雄に、結界の状態を確かめようとしていたところです」


 なにかおかしな呼称が俺を見て出たのは気のせいだろう。

 無視してビオを見れば、険しい顔つきで砦長を睨んでいた。


「正式な城からの通達を待たず、祭り上げたのか」


 そういえば、なんとなくだけど、ビオも国に思うところがあるようだったな。


「いやはやギルド側で止めはしたのですよ」


 言ってる内容はともかく、珍しくギルド長が砦長を庇うように間に立つ。


「ですが、どうしようもないくらい、彼にはその理由がある」


 と思ったら、とんでもないことを言いやがった。

 ビオはオッサン二人を直視したまま俺を手招いた。


「タロウ、どこまで細かなことがわかる」


 どの程度の時間があるか、ビオには詳細を伝えてなかったな。


「翌々日辺りが濃厚ですが、早ければ明日の晩という見立てです」


 それまで、この魔物の状況がどうなるかの不安は皆にあったようだが、現状は維持されることを伝えた。

 これまで徐々に悪化してきた。けど各段階での変化は一度きりだ。それが邪竜の操るマグの解放具合によるものだというスケイルの説明を、なるべく取りこぼしや誤解のないようにと伝える。

 邪竜はすでに簡単な指示を出せるようだが、今の段階では魔物を強化することに傾けられた。


 言っておいてなんだが、こんな伝聞を信じすぎるなよ。

 ギルド長の態度にも違和感は拭えないが、ただ、明後日が明々後日だろうと厳しさは変わらないせいかと思う。

 増援が間に合うとは思えないんだ。

 こちらも場を補強するなど準備を整える間に、なんとか冒険者たちには休んでもらうしかないだろう。

 だからこそ、皆は聖者一行の到着に沸いた。

 けど、到着時のビオたちを見た限りでは、期待できない。

 箱馬車一台とビオを護衛する一団のみ。

 先触れにビオのような立場の人間が来るとは思えないし、先遣隊にしては少なすぎる。

 とても応援に来たようには見えないんだ。


 それはぐっと飲み込んで、ビオたちが予定を話す声に耳を傾ける。


「ふむ、その悪化した現状とやらを確かめよう。小道具の件もあるな、タロウも来い。砦の会議は夜明けに。護衛は二人でよい。他の者は砦に手を貸せ」


 護衛隊長らしき人物が抗議の声を上げたが、ビオがつんと顔を反らしたため、各々で情報を探るように指示を出していた。


「では案内を。フロンミ、この場は任せる。老骨に鞭打って死守しろ」

「貴様も聖者殿を守ってすり潰されて来い」


 そこは聖者の前でも変わらんのな。

 非常時はギルド長が砦も傘下に置く指揮官となるようで、砦長も渋々従ってる感を隠そうともしない。

 なにか、俺も呼ばれたような?

 ビオとギルド長は移動しかけて、こっちを振り返り待っていた。




 またしても連れ出されることになったよ。

 マグ感知できない俺に魔物の森で夜戦は厳しいのですがと言い訳する前に、お付きの鎧が松明を掲げていたのだ。ギルド長め、そんな指示は早い。

 仕方なく俺もランタンに火を点し、スケイルの羽毛にザクッと埋めた。動き始めたら消えそうだが俺には必要だ。安心感的に。

 夜というのもあり、スケイルには初めから顕現してもらうことにした。


「なんとも頼もしい姿だな」

「クゥ?」


 スケイルはビオに褒められて鼻高々だ。

 そして一行は北西の道を征く。まただよ。一番近い拠点があるからだろうけど。

 まあ、こんな時間に調査も仕方ない。明日では話し合いの時間が削られてしまうし、ビオたちも疲れてるだろうから眠って頭をすっきりさせてからの方がいい。

 対策会議というより、情報の摺り合わせといったもんになるだろうけどな。少ない駒だ。できることは大枝嬢たちも考えてるだろうし。


 あ、だから俺を連れてきたのか。

 ビオは何を置いても、まずは小道具と聖獣について知る必要があると思ったんだ。

 砦長らが期待していることと同じだな。状況を覆し得るものがないかという期待。

 どうしてその持ち主の方へは目を向けてくれないんですかね。


 転草拠点に到着するとバカンと扉が開かれ人が飛び出し、猛烈な勢いですっ飛んでくる。

 随分と久しぶりな気がする姿と声。


「ビオっちゃああああん! また来てくれるなんて思わなかったわ!」

「あああお前はむぐぅ!」

「ビオ様ぁ!」


 シャリテイル……。

 無駄に高い身体能力で護衛さんをかいくぐって抱き付くなよ。ビオが困る姿は悪くないが……。


「どうして? 他の人じゃなくてビオちゃんなの? 嬉しいけど、やっぱり……邪竜?」

「ぷはぁ! 相変わらずだな!」


 矢継ぎ早に挨拶だか質問だかするシャリテイルの胸から、顔を赤くしたビオが抜け出した。さらば至福の光景。

 気を取り直したビオは一歩下がり、シャリテイルを見据える。


「諸々の話は後だが……邪竜と相まみえる聖者は、この私だ」


 シャリテイルは笑顔を浮かべ、途中で泣きそうに歪んだ。


「そう、ありがとう……では、ハゾゥド様。この私、シャリテイル・ウディエストは先代の遺志を継ぎ、あなたを全霊をもってお守りします」


 シャリテイルは、ビオの前に頭を深々と垂れた。

 ビオもただ深く頷いて受け入れ、それで話は終わりと歩き出す。


 突然のことに言葉を失った。

 過去の縁を聞いてるから、おかしくはない。ないけど……まるで主を見つけた騎士のようで、俺には現実感のない光景だ。

 そのシャリテイルはビオの背後で俺に並び、以前と変わらぬ笑顔を向けた。


「タロウ、すっかり見違えたわよ。いい装備じゃない」


 そっちかよ。


「あんなとこで待ち構えてたのか」

「連絡係から話を聞いて戻ったところよ。近くに居て良かったわ」

「あの短時間で?」


 ほんとこんな指示は早いなギルド長。


「というか、もうあんまり遠出のできる状態ではないの。だから街に近い各所で固まって対処してるわ」


 やっぱり、そうなるよな。

 怪我人の運び込みが早いことからも考えていたことだ。

 殺風景だった高原に目を向ければ、多くの火の玉が揺らめいている。魔物を食い止めている冒険者の松明だろう。それを横目に西へ向かう。やっぱ比較的、退却し易い場所なのか、再び八脚ケダマの森に入った。


「ウディエスト、タロウ、力量を見せてもらうぞ」

「ビオ様、奥まで進むのですか。さすがにこの少人数では」

「そうね、今はとっても危ないの。だから高ランクを一人呼んだわ」


 遮ったシャリテイルの言葉に、お付きの鎧は渋々と引き下がった。

 どっちにしろ少人数なのに、たった一人とはいえ納得できるのか。俺が思うより、高ランクってのは本当にすごいんだろうな。


「そろそろ到着するわよ」

「魔物が先に来たようだな」


 ビオが森の奥を見据えるや、ウニケダマから攻撃を受けていた。


「トゲキュウ!」


 昨日よりも確実に街に近付いている。

 何もせずともビオオプションの鎧が自動攻撃してくれるが、そろそろコントローラーは出しておこう。

 しかし、さすがは聖者の護衛。あんな重そうな鎧を着ながら、よく動く。森葉族と岩腕族など中身は様々のようだが、大振りではない正確な動きは、ウル隊長ら調査隊に似たものだ。


《主よ、力強い獲物の気配だ。速い》

「速い? 警戒を!」


 スケイルが速いなんていうほどの魔物なんか、この辺にいるはずない!

 すぐにシャリテイルたちも気配に気づいてビオの周囲に集う。


 駈け下りてくるのは巨大な獣。

 まさかケルベルス? いや、もっとでかい!

 姿が見えるほど待っていられない。


「ヴリトラソード! 跳べ!」


 スケイルを駆り獣の近くに出るが、刃が届かない。

 通常モードだった!

 咄嗟にスケイルは横に跳ねる。奴も横に跳んで俺を避けたが、頭はビオたちを向いた。


「奴とすれ違えるか」

「クアァ!」


 なんで攻撃した俺じゃなくて他を狙う。

 弱くて悪かったな、こっちを向け!


 改めて高出力モードにした刃が、体表を掠り毛を散らす。

 ダメだ。致命傷じゃない。


「スケイル!」

《グルォ!》


 もう一っ跳びするのに備えて、スケイルを掴む右腕に力を込めた。

 これで飛ばされるようなら、何も言えなくなる。

 今後、戦える目論見なんかなくなっちまう。


「刺され……って!」


 敵の体がブレた。

 逆側から叩き込まれたのは、血濡れたような紋様が浮かぶ黒いやいば

 凄まじい速さをものともせず魔物は反応したが、それで勢いが殺された。

 太い首を青い刃が通過する。

 恨みを込めたような濁った赤い目が、一度俺を見て――崩れ落ちた。


「よっ、乗りタロウ!」


 カイエン。

 こいつ……一瞬とはいえ、素で獣の足に追いつくかよ。


「まだ挨拶の暇はないわよ」

「おっと、まだいるな」

「二匹いるようだ」

「え……今のが?」


 何匹も? 嘘だろ……。

 あのケルベルスより一回り大きな獣は、ハンバーグのような肩回りに、千切りキャベツのような毛に覆われた下半身、ゆで卵のような目だとか、他に劣らず気色悪い姿だ。

 かなり硬くて、しかも範囲攻撃持ち。敏捷値はケルベルスよりやや低いのが救いくらいのものだ。

 ヴリトラソードのお陰で霧散するが、もし普通の武器なら長期戦になるだろう。

 なんせフィールドボスだった――ランチコアだ。


「タロウ、行くぞ!」

「くっ、やってやる!」


 跳んできたランチコアの着地で地面が重い音を響かせる。


「ハングリァー!」


 ランチコアは叫んでハリセンボンのような姿になり、その棘が一斉に飛んだ。

 地面だけでなく辺りの木々どころか、ウニケダマをも抉っていく。

 なんつー凶悪な攻撃だ!

 飛距離はそこまででもなく、スケイルが後ろに避け、カイエンは叩き落とす。

 ぞくりと、嫌な感覚がした。

 死んだウニケダマの赤い筋が、ランチコアに流れていく――。


「マグの雨!」


 シャリテイルとギルド長が牽制の魔技を放った。雨のように隙間なく降る攻撃に、魔物も気を取られる。


「今よ!」


 シャリテイルの合図と同時に飛び出し、再びカイエンの大剣がランチコアの動きを止め、ヴリトラソードが後を追い通り過ぎた。

 背後に居たもう一匹が至近距離で棘攻撃を放つが、人外な瞬発力でカイエンが踏み込み、棘ごと脚を叩き切る。俺もヴリトラソードを鞭のようにしならせ、棘を無効化。先端が首を貫いた。

 赤い煙が弾け、カイエンの着地でドズンと地面が響き、俺はバッサバッサ羽ばたくスケイルの首に、逆さまにかじりついていた。バランスを崩したのだ。

 お、落ちるところだった……。


「無事か!」


 ビオが駆け寄ってくる。冷徹に見極めようといった表情が崩れて、本気で慌てている。やっぱり、根はやさしい人だ。

 お付きの鎧が周囲のウニケダマを倒しつつ、泡食って追いかけるのを見ると、ちょっと同情する。

 カイエンは大剣を担いで満足気に座り込んでいた。


「いやー、あの草タロウが強くなったよな!」

「カイエンも連携できるようになったじゃないか」

「そ、そうか、オレもまた強くなっちゃってたか!」


 ぐへぐへ喜んでいるのから目を逸らして、スケイルのアホ毛を軽く叩く。


「俺は、スケイルのお陰だけどな」

「クルゥ?」

「もう聖獣だって立派にタロウの力じゃないの」

「クァクァ!」


 そうは言ってもだな。

 確かにみんなの聖獣との関係を見れば、個々人の力の一つに思えなくもない。

 ゲームではそんなことで悩まなかったのに。コマンド操作するだけ、カスタマイズの一つだと思っていたから……そんなこと言ってもしょうがないけど。

 ビオが、じっと俺を見て言った。


「確かに、その姿は、シャソラシュバルの再来……」


 そんなわけあるか。

 そいつが逆さまに馬に張り付いてたなら別だが。

 さっきは否定的だったろ。スケイルには洗脳スキルでも備わってんのかよ。


「人族ながら邪竜の攻撃をかいくぐり挑んだ英雄。結界を作り上げ、命をもって奴の動きを止めた者。そのお陰で、今のささやかな平和があった……本当に、分かっているのかタロウ。この場に留まるという意味が」


 ビオの声は諭すようだ。

 まさか、まだ今なら逃げて構わないと言ってくれてるのか?

 特別な称号『シャソラシュバル』を得て、前の封印を成した本物の英雄。

 どう考えても、そんな奴に俺を仕立て上げようったって無理がある。性格的には。

 しかし小道具と聖獣の力には、聖者でさえ心揺らぐくらいだったということなんだろう。


 一仕事終わったと、なんでもない振りで背筋を伸ばし座り直す。

 悪いが、ビオの問いには答えられない。英雄がどうのという方にはぐらかした。


「自己犠牲だとか、物は言いようだな」


 またお付きの鎧が目を剥いて睨んでくる。

 俺も腹を立てていたんだろう。それぞれの言い分の勝手さに。


「何を言うのよ。人族が魔物相手にそこまで抗えるって、並大抵のことじゃないわ」


 シャリテイルの声音は気が抜けるようだが、その内容に気付かされるものがあった。そこも、シャリテイルが人族に見出した希望なんだろう。始祖人族だとか、特殊な例であろうと、他の奴らにもあり得る変化だと考えたのかもしれない。


 そんな超人が命を落としたなら。

 俺が命をかけてすら、一分でも隙を作ることさえ無理なのかもしれない。


「さっきのタロウ、人馬一体って感じだったわ。すごい馬の子と戦えるんだもの、もっとすごい英雄になるわね!」


 お気楽に笑って言わないでくれよ。


「人馬一体って……そもそも馬じゃないだろ」


 シャリテイルは顎に指をかけ、目を眇めてまじまじとスケイルを見る。


「やだ、そうね。鳥……トカゲ?」

《クアアァー! なんだこの失礼な人類の雌は!》

「それはいいとして、誰でも持てるものじゃないのだから。タロウだって、それは分かったでしょう?」

「まあな」

《よくない! 我を馬などと一緒くたにしたままにするな!》

「どうどう」


 確かにスケイルは、この街の誰とも組もうなんて思わなかっただろう。

 それも、理由は小道具だけど。

 もちろん、それなりの日々を過ごしたし、自然と俺を俺として認めてもらったのは理解してるんだ。

 少しだけ残る、わだかまりは、ビオの言うこの先のことを考えてなんだろう。

 ただでは済まないよな……そう、思ってしまうせいで。


 ギルド長が移動を促し、ウニケダマ盛りの八脚ケダマを片付けつつ、崩れ気味の川を見たり、ある程度悪化状況の見える最低限の場所を巡った。ギルド長が早々に切り上げることを提案すると、ビオも何か思い詰めている風ではあったが同意し、引き返すこととなった。


 なんだか精神的にも慌ただしくて、特に嬉しさも感じられないままレベル40になったことを数える。

 もちろん、今の俺にはありがたいことだ。スケイルが、もっと体が軽くなったと喜び、魔技石を割る頻度も極端に下がったんだ。

 例の10レベル毎の爆上げ感が、今回は特に大きく感じた。石を使わないでいられるほど戦い易い。


 レベルアップが早すぎるのは、それだけ魔物が強化されているということだ。

 頭は痛いが、他の冒険者たちだって同じはず。

 少しは喜んでいいだろう。今だけは……。

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