第84話 忘れずの民と植物族

「れ・・・レズの都?」

「はい、私達レズの民が暮らすレズの都に一緒に来て国を救って欲しいのです」


ソフィの真剣な表情は真逆にナナシの思考は乱れに乱れていた。

勿論嵐側でも動画を見ている面々が前屈みになるほど乱れた思考を持つ者ばかりでは無いのだが、それでもこの言葉は衝撃的過ぎた。

そして、困惑するナナシにルリエッタが声を掛ける。


「ナナシさん、私からもお願いします。彼女達『忘れずの民』を助けてあげて欲しいです・・・」

「えっ?・・・今なんて?」

「いえ、だから彼女を助けてあげてほし・・・」

「いやそうじゃなくて、彼女達の名前・・・」

「忘れずの民?」


その言葉にナナシは思考が加速する・・・

『忘れずの民』、略して『レズの民』・・・

だからきっと『忘れずの都』を略して『レズの都』・・・

落ち着いて考えれば・・・


「ってそんな省略の仕方あるかい?!」

「「「っ?!」」」


突然叫びだしたナナシに驚く面々だったのは言うまでもないだろう。

ちなみに、このシーンを入れた動画の観覧回数はとんでもなく伸びたのだが低評価の数が非常に多くなったのも言うまでもないだろう。

コメント欄も大いに荒れに荒れて某巨大掲示板サイト6ちゃんねるで専用スレが立った事も伝えておこう。

結果的に視聴者が更に増えて嵐はウハウハだった訳である。




「私達エルフは長い長い寿命を持つ種族、そんな私達と共に暮らしていたもう一つの種族が植物族です。平和に共存していたのですが、世界がこの形に変わる大異変の直前から様子がおかしくなりました。お願いです!ナナシさん私達を救って下さい!」


ソフィの話によれば彼女の暮らしていた故郷である忘れずの都、そこで共存していた植物族と呼ばれる者を何とかして欲しいという事である。

勿論、ナナシにこの話を振ったのには理由があった。

ナナシには伝えていないが植物族は他者を取り込み吸収する事で成長する種族。

その為、強者の気配を持つ生き物は優先的に取り込まれてしまうのである。

だからこそ、弱い筈なのに強いナナシは今回の件に最適でも合ったのだ。


「カーズ達、死神一族が何故3人しか居なかったかお分かりですか?」

「いや、確かに3兄弟で種族全部と言うのもおかしな話ではあるけど・・・」

「植物族の長、ユグドラシルに殆どの死神族が喰われたからです」


そう、それこそが真実であった。

3ヶ月前の大戦争、その時に隣の区の特異点であるユグドラシルとこの区の特異点である死神将軍は戦った。

その結果、双方に大打撃を与えた際に互いは殆どの戦力を失ったのであった。


「私はその戦争の最中にカーズの魔道具で操られ洗脳されました。ですがナナシさんのお陰で私は助かりました!」


またも前屈みになり胸の谷間を強調しながらナナシの手を握り締め目を見つめるソフィ。

その様子にムスッと膨れるリル、チョコンッと座ったままナナシの判断を待つルリエッタ。


「そう・・・だな・・・でも、悪いけど・・・俺は戦えないよ・・・」


その言葉にガッカリするソフィ、だが無理も無い返答だろう。

唯でさえ隣の区を支配する強大な敵を相手に個人で戦いを無謀にも挑もうと考えるほうがおかしいのである。

いくら美女の頼みであろうとそんな無茶は出来ないのである。


「お礼ですか?何だってします!ナナシさんがお望みでしたらこの体だって・・・」


そう言いながら自身の体を優しく抱き締めながら潤んだ瞳を向けるソフィ。

だがその視界にルリエッタとリルの姿が入り言葉を途中で止める。

自分をお礼にした所で彼には慕う彼女がもう2人も居るのだ。

だから・・・


「出来ればお願いしたかったですが・・・5日だけ待ちます。この区の顎骨町で私は待ってます・・・」


そう言ってソフィは悲しそうな瞳のまま立ち上がって部屋を出て行った。

その後、暫くしてリルが口を開く。


「ナナシ、アンタの判断は正しいよ。行くって言い出さなくて安心したわ」

「リル・・・」

「それじゃ私はスマイル館の再建の手伝いしてくるわね」


そう言ってリルも部屋を出て行った。

残されたルリエッタはソッとナナシの手に触れて嵐との通信を繋ぐ・・・


『よう相棒、モテモテだな』

「ははっ嵐、この件どう思うよ」

『う~ん・・・お前の好きにしたら良いんじゃないか?』

「そうですよナナシさん、私はどんな判断をしてもナナシさんに付いて行きますから」

『をっ流石愛妻ルリエッタちゃんだね~』


嵐のその言葉に顔を真っ赤に染めるルリエッタ。

だけど何処か寂しそうな感じがするのに二人は気付くが何も言わない。


「少し、考えてみるわ・・・」

『おう、まぁ俺としては今回の動画も十分ネタになったし。お前が好きにやったのを楽しく動画にさせてもらうから』

「はははっ・・・」


苦笑いをするナナシであったがその根底にあるのはやはり恐怖。

死神将軍との戦いは余裕は見せていたが一歩間違えれば死んでいた戦いであった。

全てが予想通りに動いた結果勝てた勝利だったのは間違いないのである。

会話が終了したと判断しルリエッタはナナシから手を離す。


「ナナシさん、少し気分転換しませんか?」

「えっ?」


そう言ってルリエッタはナナシに微笑みかけ外へ向かって歩き出す。

少し座ったまま考えてたナナシはルリエッタの後を追いかけて部屋を出て行くのであった・・・

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