第43話 奴隷商とナナシ①
何故か頭をパチコーンっとリルに叩かれたナナシは痛む頭部を擦りながら歩を進める。
「あら?何処へ行くの?」
「ん~とりあえずあの奴隷商の店」
そう言って指指した先はガガ達が支払い能力の無い者を売り払った奴隷商であった。
その行動に不思議そうに首を傾けながらリルが尋ねてくる。
「なんでアソコへ行くの?」
「ミスリルって言ったよね?」
「ミスは要らない・・・」
「リルはこの町の事に詳しい?」
「・・・ううん、全然分からない」
リルの返事にナナシは一回頷いて1人歩き出そうとする。
「だからなんでアソコに行こうとするのよ?!」
「道中一緒になったヤツがさ、この町出身らしくてね折角だから助けてやろうかなっと思ってね」
「はっ?」
その言葉にリルは首を再び傾ける。
それはつまりここへ向かっている道中で親しくなった相手を買って開放しようとしていると言うことなのだ。
「いやいやいやいや、おかしいでしょ?!あんた奴隷を買うほどのお金持ってるの?」
「うんにゃ、見ての通り無一文さ」
そう言ってポケットの中身を引っ張り出して見せるナナシ。
だがこれはリルを試していたのだ。
正直出会ったばかりの女の子がこうやって親しげに話しかけてくる状況自体怪しむのが普通である。
まるで前から知っているような口振りで会話をしているリルの様子こそナナシは怪しんでいたのだ。
ガガに支払った時にナナシは以前と同じように思い描いた場所に預金を出現させる事が出来る事は確認していたのだ。
「はぁ・・・そんなんで一体どうするつもりなのよ」
「そうだな・・・交渉する!」
「はっ?」
そう言ってリルを置いて再び歩き出そうとするナナシの手をリルは掴んで止めた。
「馬鹿じゃないの?!向こうも商売なのよ!無一文で商品を渡してくれるわけ無いじゃないの?!」
「だから交渉するんだよ、」
「分かったわ、あんたの無謀なその交渉見届けさせてもらうわ」
「そうだね・・・それなら一つだけ協力して」
「ほえっ?」
その後少し会話をしてからナナシは1人奴隷商の中へ入っていった。
「いらっしゃいませ」
中に入ると強面のおっさんが手をゴマすりしながらナナシの方へ歩み寄ってきた。
背が高いのを腰を曲げて少し低く見せては居るがモロばれであった。
「奴隷をお求めですか?」
「あぁ、この町に来たばかりでね道案内出来そうな奴隷が一人欲しいんだ」
「道案内?」
そう、本来奴隷に道案内をさせる為に買うなんてありえないのである。
町の道案内であれば僅かな金銭を払えばそこらの子供でもやってくれるのだ。
それなのに道案内が出来る奴隷を態々買うと言う事は余程の世間知らずの金持ちだとアピールしているも同然であった。
店主の笑顔が凶悪な笑みを更に強くする。
「それはどちらの道案内ですか?」
「ん?勿論この町だよ、出来れば最近売られたばかりのこの町出身の奴隷を見せてくれない?」
「畏まりました。暫くお待ち下さいませ」
そう言い残して店主は店の奥へ戻っていった。
ナナシは周囲をキョロキョロと観察しつつ置かれていたソファに腰掛ける。
ギシッと音を立てて座ったソファは非常に硬く座り心地が悪かった。
「まっ歩き通しだったから座れるだけマシか」
そう独り言を言って待つこと約5分・・・
「お待たせしました。この4人が最近当店で仕入れましたこの町出身の奴隷でございます」
そう告げられ男2人と女1人、そして骸骨が1人並んでいた。
4人とも首に黒い首輪の様な物を装着しておりそれが彼らを縛っているのだと人目で分かった。
そして、お目当てのヤツと思われる骸骨が居るにはいるのだが・・・
「本人かどうか骨だけじゃ区別ができねぇ・・・」
「どうかなさいましたか?」
「い、いや気にしないでくれ。それより4人と話がしてみたいんだが」
「ええ、いいですよ」
奴隷として買って使うのであれば人間性を見るのが普通なのでこれは当然の要求であった。
だがそれは飽く迄首輪に縛られた状態での会話である。
実際あの首輪がどれくらい対象者を拘束できる物なのかは分からないのでここは賭けでもあった。
実際問題、話を聞く為だけにこうやって呼び出させた冷やかし客と言うのも居るのだろう。
店主は渋々納得し会話を許可した。
「それでは一番左の男性の方、貴方はこの街の出身で町の事に詳しいですか?」
「はっはい!私は力もありますし荷物持ちにも最適ですよ!」
「それは頼りになりそうですね!では次の男性の方、この町の名物は何ですか?」
「こ・・・この町の名物は・・・」
そこまで男性が話をした所で会話が途切れる・・・
ナナシは店主の表情をチラリと見て納得する。
(その答えを返答するのは認めないと主が考えたら話せなくなる首輪ってわけか・・・)
「失礼、質問の内容が悪かったですね。貴方を買えば案内してもらえますか?」
「はっはい!是非案内させていただきます!」
「分かりました。それではそこの女性の方・・・大丈夫ですか?」
3人目の女性に視線をやると青い顔をして俯いていた。
多分だが彼女は・・・
「お料理は出来ますか?」
「えっ?あっはい、多少であれば・・・」
「そうですか、それは凄く助かりますね」
ナナシは予想していた。
彼女はきっとこの町出身ではないのだろう、だがここから出たい一心で店主に嘘の報告をしたのだと考えたのだ。
そして、最後の骸骨に視線を向ける・・・
「君は外国人?」
「ノー俺は骸骨人!」
うん、間違い無くアイツだ。
ナナシはそう確信して店主に尋ねた。
「それぞれのお値段はいかほどですか?」
「もう宜しいので?それでは左から金貨8枚、金貨7枚、金貨72枚、銀貨40枚となっております」
「ちょっと高いですね・・・もう少し安くなりませんか?」
「いやいやお客様、当方もギリギリの値段をつけてやっておりますのでどうぞそれはご勘弁を」
そう言いながらニヤニヤする店主、どう考えてもボッタクル気満々であった。
それはそうだろう、常識の無い金持ちが道案内の為だけに奴隷を買おうとしているのだから。
基本的に奴隷と言うのは非常に安い、それはその者の価値がどうこうと言う話ではなく人の命の値段が非常に安いのだ。
3人目の女性を見れば分かるがかなり劣悪な環境に置かれているのだろう、手や足が痩せ細り運動不足に栄養失調になりかけているのである。
「そうだ店主!俺はちょっとゲームが好きでね、どうだろう値引き交渉代わりになにかゲームで勝負しませんか?」
「ゲームで値引きですか?」
その言葉に店主は視線を鋭くする・・・
だが元々の値段がかなりボッタクリなのだろう、直ぐに店主はその案に頷いて了承した。
「それでどんなゲームで?」
「そうだなぁ~でしたら次に店に入ってきたお客さんが男か女かで料金を倍額にするか半額にするかって言うのはどうでしょうか?」
「よし、面白そうだ受けて立つ!」
きっとこういう遊びが非常に少ないのであろう、嬉しそうに意思表示をする店主。
その様子を見守る4人の奴隷を見てナナシは口にした。
「それでは、ゆっくりと次のお客さんを待ちますか」
そう言ってナナシはソファに座り直し4人の奴隷はそれをただボーゼンと見ているだけであった。
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