第2話 運命はまるで誘導される様に決定される
少年の名は『七志』何処にでもいる普通の中学生であった。
だが彼は毎晩夢の中で冒険をしている。
自分の住んでいる世界とは違う世界で、まるでファンタジーと呼ばれる世界の主人公になったように旅をしたり冒険者として活躍をする。
魔物と戦い人を助け世界の神秘を解き明かす。
中二病と呼ばれる症状だと誰もが彼の夢物語を聞いて思うだろう。
だが彼には今時分が居る世界こそが偽りでそっちの世界こそが自分が本来居る世界なのだと信じきっていた。
そんな七志が偶然にも見かけた空間の歪み。
それが彼と嵐を結びつける接点となった。
「な・・・なんだあれ?」
交差点の奥は袋小路になっているにも関わらずそこに小さな黒い物体が浮いていた。
球体でサイズは直径30センチ程。
それは空中に浮いているのだから目を疑うのも仕方ないだろう。
「えっ?これって・・・」
七志は引き寄せられるようにその黒い球体に近付き手を伸ばす。
『止まれ!それ以上近付くな!』
「えぇっ?!誰?!」
突然脳内に声が響き七志は手を止めた。
だが近付いた七志に向かって黒い球体は逆に近寄り寸前で止まっていた手と黒い球体は接触する。
その瞬間七志の体内の血が一斉に流れを加速させ七志は鼻血を吹き出してその場によろけて膝をつく。
「あっ・・・あっ・・・???」
目が充血して眼球が真っ赤に染まり世界が真っ赤に見えた。
その状態で上を見上げた時に七志は空中からこちらを覗く一人の男と目が合った。
『ま・・・まさか見えているのか?』
「だ・・・れ・・・?」
観測者である嵐は観測し不具合を見つけたら管理者へ報告するのが仕事である、決してその世界の住人とは意思疎通を行ってはいけなかった。
といっても意思疎通を交わすことなど本来なら不可能なのだ。
しかし、黒い球体を体内に取り込んだ七志は嵐と通じ合ってしまった。
そして、嵐の体にも異変が発生した。
『うぉぉおおお!!な、なんだこれは?!』
まるでウィルスが感染するように嵐の皮膚の上に血管が浮かび上がり全身の血液が激しく流れる!
その場に倒れこみ嵐も立てなくなり床に手を着いて動悸が落ち着くまで深呼吸を繰り返す。
5分か、1時間か・・・どれだけ時間が経過したのか本人達には分からない。
だが落ち着くと共に二人はお互いの存在を感知できるようになっていた。
嵐は一目七志を見た時に感じた違和感・・・それは自分と同じ特殊な存在であると言う事実なのを直感で感じ取り、七志は嵐をこの世界を見通す観測者であると理解していた。
「き・・・聞こえますか?」
『えっ?まさか君が話しかけているのか?』
理屈もやり方も何も分からない、だが二人は本能的に互いを認知し通信を行なう方法を理解してテレパシーの様な方法で会話を行なっていた。
「貴方は・・・観測者ですね?初めまして七志と言います」
『あ、あぁ俺は嵐だ。それより君に聞きたい事がある・・・』
「僕も貴方に聞きたい事があります・・・」
二人は同時に口にした。
「ここは『(そこは)現実ではないのですね』」
二人は存在を知らないうちに進化させていた。
観測者として選ばれていた嵐は元からただの人間ではなかった。ただの人間では観測者に選ばれないからだ。
それもあり自分がオンラインゲームの中だと思って観測していた世界がその中で本当に生きている人間が暮らす世界なのだと理解した。
そして、七志も自分が生きている世界が現実ではない事を以前からなんとなく感じ取っていた。
それが観測者を認識し確信に変わった。
あの黒い球体が一体なんなのかは分からない、だが切欠としては充分であった。
二人は互いを認知し念話を行う事が出来るようになったのである。
その日、七志は学校をサボってそのまま嵐と念和で様々な会話を行なった。
互いが互いを知れば知るほど徐々に他人とは思えないようになり二人は親友と呼ばれる程互いを受け入れていた。
「嵐さん、俺・・・この世界を出て違う世界へ行きたい」
その言葉を聞いて嵐は自分にそれが可能だという事を瞬時に理解する。
そして、彼の脳内にイメージされた力が観測に使っていたパソコンに表示される。
『マジックアートワールド』
それがその世界の名前であった。
嵐は少し悩みつつも七志にそれを伝える、それを聞いて嬉しそうに表情を崩す七志を見つめ嵐はマジックアートワールドの事を調べ始める。
それを七志に伝え嵐の脳内に一つの名案が浮かんだ。いや、浮かんでしまった。
直ぐにそれを七志に伝える嵐。
まるで互いが同じ世界に居るように文化も何もかもが違うはずなのに二人は違和感を感じる事無く話を交わして盛り上がっていく・・・
「それじゃ、俺はその世界で色々楽しい事をすればいいの?」
『あぁ、それを俺が動画にして動画投稿サイト『ユーデューブ』にアップする』
「そして、儲かったお金から俺にも給料が支払われると・・・」
『WinWinってやつだな!』
まるでそう思考を先導されているように二人は協力する事を決めて嵐は早速そのコマンドをパソコンに打ち込んでいく・・・
世界を観測するだけの者には決して知る筈の無いそれは異世界と異世界を1度だけ繋ぐ裏プログラムであった。
『でも本当にいいのか?多分、その世界には戻れないぞ?』
「分かってる、だけど行かないと駄目な気がするんだ」
『分かった。それじゃ俺はその準備をするから明日の昼にまた落ち合おう』
「分かったよ、宜しくね相棒」
『あぁ、宜しくだ相棒』
二人は知らない・・・
これすらも管理者と呼ばれる更に上の存在により誘導されている事すらも知らない・・・
嵐35歳、七志13歳・・・
二人が協力して動画を作る事を決めた時にそれを覗きながら笑みを浮かべる者が居る事すらも知らない・・・
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