18話 風呂上がり


銭湯から上がって脱衣所に戻り、女物のパンツとシリコン製のパッドと一緒にスポーツブラを着る。

 その後、少しだけ湿らせておいたウィッグを被り外れないように固定。着物を着たら鏡を見ながら化粧をする。


 顔を見られてもマコトだとバレない程度の化粧。かなり難しいのだが、付けまつげを少し切って不自然じゃないサイズにした物を付けたりと、この数日間で練習した技術を使いナチュラルメイクを施していく。


「よし……完璧かな」

 メイクを終えた俺は再び着物をキツく締めて、皆が待っている部屋に向かった。






「ただい……ま……何してるの?」

「あっ! こっ、これは違うんだよっ!?」

 アイが俺のバッグを開いてコンドームやナプキンやらを持っていた。


「マコちゃんって大人……」

「え、え?」

 サクラが顔を赤くしながら顔を背けた。

 まさかコンドームを所持してるからって、普段からそういう事をしてるとか思われてるんじゃ……。


 シズキの方を見るとニヤニヤ笑っていた。ユルサナイ。


「ね、皆スッキリした事だし旅館の中散歩しない? 結構広いらしいわよ」

 トモキ達はスマホをテーブルの上に置くと立ち上がった。


「行くか。運動したいしな」

 そう言いながらストレッチを始めた。


 確かに身体を動かしたいけど、俺は激しい運動とかは医者に止められててできないからな。それに、喧嘩でもしたならシズキの親指1つで俺が死ぬことになる。

 命より重いものはない。我慢だ。


「マコちゃん一緒に行こっ!」

「ひゃっ!?」

──ムニッ

 突然アイが後ろから抱きついてきて、着物の中に手を入れて胸を揉んできた。


「あ……あの……」

「ふむ、鍛えているという噂は本当でしたか! 程よい触り心地でしたぞ!」

 シリコン製パッドの硬さを胸筋によって誤魔化……せたのだろうか。しかしトモキ達が顔を赤くして目を背けている。


「スポーツブラ? なんだね」

「あ、うん……前にスポーツしてて、これに慣れちゃって」

 と、自然な感じで嘘をついてみた。シズキを見ると特に問題なさそうにスマホを弄っている。危ない危ない。


「マコちゃん……私にも揉ませてよ」

「えっ!? い、嫌だよっ!?」

「アイちゃんにだけズルいじゃん……私の胸も揉んでいいから」

「はいはいそこまでそこまで。皆で散歩に行くよ〜」

 なんとかシズキがその場の空気を切り替えてくれて、レズ気質なサクラの魔の手から逃れる事ができた。


 しかし、いつもこんな事をされていたらいつ男だとバレるか分からない。警戒してないといけないな。





「わぁ〜! 広い!」

 大きな階段を上がっていくと、開放的な空間にやってきた。椅子が並んでおり、リラックスして外の景色を眺めることが出来る。

 自販機もあって飲み物なんかも買えるようだ。


「マコ。大丈夫か?」

「んっ……えっ?」

 突然トモキが話しかけてきた。


「さっき……胸触られた時、また怯えてるような顔してたぞ」

「そ、そう?」

 あれも普通に男だとバレないか心配でそんな顔をしていたんだと思うのだが。


「過去のトラウマか何かは知らないけど、あんまり1人で抱え込むなよ。俺がいつでも助けてやる」

「あ、ありがとうトモキ君」

 トモキは優しく背中を叩いてくれて、そのまま椅子に座ってはしゃぐアイ達の元へ恥ずかしそうに向かっていった。


「……」

「アンタまさかトモキに惚れた?」

「冷たっ……ち、違うよ」

 自販機にジュースを買いに行っていたシズキが、俺の頬に冷たい缶ジュースを当ててきた。


「顔赤いわよ」

「それは冷たいジュース当てられたからだよ……多分」

 確かにちょっと顔が熱いから完全には否定出来ない。


 男の俺が親友のトモキに顔を熱くする必要があるか? いや、もしかしたらトモキが恥ずかしいセリフを言ったから俺まで恥ずかしくなったのだろう。共感性羞恥というやつだ。


「ま、アンタは私の事が大好きだもんね」

「言うなよ……聞かれたらどうするんだ」

「……バカ」

「?」

 何故かバカと言われてしまった。しかし、その理由を聞く前にシズキは皆にジュースを配りに椅子に座ってしまった。


 俺もすぐに皆の横に座ってジュースを貰う。

 シズキはいつも通りの様子で、バカと言った理由はさっぱり分からない。しかし特に変わった様子もない為いつも通りに接する事にした。

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