不良な俺の趣味が女装な件。

Croquis

プロローグ


 俺の名前は『笹木真琴(ささきまこと)』

 所謂不良と呼ばれるような性格で、ムカつく奴がいれば暴力で全て解決。強そうな奴からボコしてって俺の舎弟にし、立場的上位に立つ不良の中でもリーダー的な存在だ。

 年上からもマコト先輩と言われて親しく接してもらっているが、これでも常識的な頭脳と判断力は持っている。


「マコト先輩! 他校の奴らがボコされに来ましたよ」

「……あ?」

 ここは高校。教室の1番後ろの席に座っている俺は、校門にバイクに乗って集まってる他校の輩共を窓から見下ろした。


「おいマコト!! 勝負しようぜ!! ビビって仲間とか連れてくんなよ!!!」

──ブチッ


 イキがった奴らが何か叫んでやがる。


「ちょっくら行ってくるわ」

「ちょっと待てやマコト」

「あ? ……げっ」

 ブチ切れて教室を出ようとした時、腕を掴まれて振り向くとそこには幼馴染みの『伊野静希(いのしずき)』がいた。


 マコトはシズキにだけは勝てない。その為急に態度が代わり、ギラリと光らせた目が普段の冷静な目に戻る。


「な、なんだよ」

「なんだよじゃないわよ! 授業中っよっ!!」

 無理矢理席に座らされて、マコトは大人しくなった。


「マコト先輩ってシズキ先輩にだけ弱いんすよね〜」

「うるせぇな黙ってろ」

「すみません」


 俺がシズキに勝てないのは、ただ幼馴染みだから、という理由ではない。もっと複雑な理由があるのだ。




 それは俺が中学1年生になった頃。3年生全員をボコボコにして、俺は保育園の頃から好きだったシズキに告白をした。

 その時、学校でNo.1の俺を振るはずがない。そう確信して告白をしたのだが、シズキはあっさりと断ってしまったのだ。


「アンタみたいに男臭い奴は嫌いなの」


 その言葉が、まるで雷のように俺の身体に叩きつけられた。


 それ以来、俺は告白して振られた、という弱みを握られてシズキに逆らえないでいた。

 シズキが不機嫌になると「告白して振られた事を学校中に広めたらアンタ多分笑われるわよ」と言ってきて、それが怖くて怖くて仕方が無いのだ。



 たった1回の告白が自分の首を締める事になるとは思っていなかったが、こうして言う事を聞いていれば仲良くしてくれるし勉強だって教えてくれる。

 まだ俺はシズキの事が好きだから、それが何より嬉しかった。


「何笑ってんの? 気持ち悪っ」

「少し黙ってろ」


 窓の外を眺めながらニヤニヤしていたのを見られてシズキに笑われた。

 校門を見るとあの輩共は厳つい体育教師に怒鳴られていた。残念だったな。この学校の体育教師、牛島は超怖ぇんだ。




 下校時間が来るとマコトはすぐに荷物をまとめて家に帰り始めた。


「待ちなさいよマコト」

「……んだよ」

「一緒に行くわよ」

 そしていつもようにシズキに呼び止められて、一緒に帰ろうと誘われる。


 本人は 「私美人だから? 怖い奴に絡まれた時のボディーガードってのは大事でしょ?」 などとほざいて言い訳しているが、俺はそれでも充分嬉しかった。

 しかし、他の奴らに感情がバレないよう嫌そうなリアクションをしている。


「はよしろや」

 筆箱なんかに手間取ってるシズキを手伝ってやって、リュックに突っ込んでやるとすぐに教室を出る。


「あ……ありがとう」

 不味い、笑っちまいそうだ。


 シズキにお礼を言われて必死に笑みを堪えるマコトの表情は、他人から見れば眉間にシワを寄せて今にも暴れそうな猛獣にしか見えなかった。




 シズキと俺の家は隣同士で、シズキの親は俺が幼い頃からお世話になっているから嫌われるような事はしないようにと気を付けた発言をしている。


「じゃあまた明日な」

「待ちなさいマコト」

 家の前で別れようとした時、シズキに呼び止められて振り返る。


「分かってるでしょうね?」

「……分かってるよ。いつも親いねぇし、大丈夫だよ」

「ふふん、楽しみにしてるわ」


 それだけを言うとシズキは嬉しそうに家に帰っていった。


 家に帰った俺はいつものように化粧をして可愛い服を着て、最後に長髪のウィッグを被り可愛いポーズを取って写真を撮る。

 毎回思うが本当に可愛い。中性的な顔立ち、細く引き締まった身体。綺麗な肌。男らしい部分は化粧や髪型、服装で隠せば完璧にクールで美人な女性にしか見えない。

 1度SNSに写真を上げてみたのだが、全ての人間が俺を本当の女だと勘違いして4000RTもされた事がある。周りからも認められる程の美少女だ。

 そうして撮った写真をSNSでシズキに送る。それが毎日の日課だった。


 そう、俺の趣味は女装である。

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