第98話 感謝

窓から日が差し込み、ベッド周りのカーテンを照らす。


あまり眠れなかった。

目を擦りながら、身体を起こすと、節々が痛む。

特に蹴りあげられたお腹周りが痛み、湿布が貼られたお腹を擦る。


顔を上げると、カーテン越しに人影が見え、身構える。人影はカーテンに近づくにつれ、長身であることがわかる。


「ノック、ノック」


その人物はカーテンのそばで声を出す。

「どうぞ」と答えると、からの隙間から、男が顔をのぞかせた。


緑色のズボンを履いた、やけに顔が長い男だ。


「やあ、この姿では初めてだね」


「元に戻ったんですね」


「おかげさまでね。ありがとう」


深々と頭を下げると「ここいいかい」とベッド横の椅子に、座った。


「いやあ、ニンジンが鍵だったとはね。深夜に叩き起こされて、ミキサーにかけたニンジンを飲まされた時は驚いたよ。まだ、口の中がニンジンの味がするよ」


アハハと笑いながら、口を指差す。


「身体に問題はないですか?」


「問題ないよ、悩まされてた腰痛も何故か治ったみたいで、ピンピン。他の人達も、昨日の内に元に戻って、今はまだ保護したままだけど、身体検査して、一連の記憶を消したら、家に帰すって、態度の悪い3人組は昨夜のうちに逃げ出したみたいだけどね」


「そうですか」


「それよりも、君の身体は大丈夫かい? あの魔法使い相手に主任を押し退け、タイマンで挑んだ上に、ガッツで戦い、魔法使いの方が逃げ出したって聞いたけど。本当なのかい? 生身の体で挑むとか、正気じゃないって朝からみんな君の話でもちきりだぜ」


私は布団を握り締め。主任を怨む。


「君が無事で何よりだ。本当の眼で君を見て、お礼を言いたかった。本当にありがとう。君が困った時は、いつでも手を貸そう。命の恩人だ」


面長のツヨシは立ち上がると、再度深々と頭を下げた。


「それと、もう一人お礼を言いたいって人がいたから連れて来た」


カーテンの隙間から手招きすると、見たことがない清楚な女性が現れた。


その女性はオレンジ色のスカートを履いていたので、誰なのかすぐにわかった。


「おはようございます。以前、違う姿の時にお会いしました。山井礼子です。この度は助けて頂き、ありがとうございました」


山井さんは深々と頭を下げる。


「こちらこそ、元に戻れて良かったです」


私も頭を下げながら、昨日のことを思い出す。

彼女と結婚した栗山メイの父親は、まだ連れ去られたままだ。


「あの、旦那さんのこと、、、」


「聞いております。あなたが最善を尽くされたという事もお聞きしております」


山井さんは顔をあげ、私の顔を見つめる。

見つめる目には涙が浮かんでいる。


「この後、魔法使いに関する記憶が消される事も聞いております。でも、記憶を消される前にお礼を言いたかった」


ベッドの横にひざまずき、私の両手を握る。




「本当に、ありがとうございます」




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