第38話 風

課長が飲んでいたコーヒーカップを置いた。


「魔法が絡んでいる以上、何者かの意図がある。発生数の数からして、悪戯とは考えられない。くれぐれも怪我をしないよう、気を引き締めて取り掛かるように」


「はい!」

と皆が返事をするのに、私も出遅れて返事をする。


課長の気が引き締まっていない髪の寝癖とシャツのシワには、誰も気にしていないのだろうか。



「ルーキー君」

ミーティングを終えると、ルーキー先輩に声を掛けられた。


「これから君の作業着とか魔法に対抗する道具を調達しに行くから、ついてきてくれたまえ」


私が「はい!」と答えると、横でマッスー主任が豪快に笑っている。



「今日は風が強いなー。ん? 先輩風だ!」



そんな主任を無視して、先輩は鞄を持ち、出口にスタスタと向かうので、私も慌てて追いかける。部屋の中からは「暴風警報だ!」とまだ茶化す声が聞こえる。



「どこに行くんですか?」


「まとめて調達できる場所といったら、一箇所だけ。デパ地下だ」


「デパ地下、、、ですか?」


「そうだ、そこまではコウヨウチャで向かう」



なんだ、それは。

魔法的な乗り物なのだろうか。


そんなに自然に言われても、わからない。

「コウヨウチャ、、とはなんですか?」




「役所で所有している自転車だ。公用チャ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る