最終章 異世界ダンジョンにコンビニごと転移したら意外に繁盛した

第二百六十話  べんりとソフィリーナと

 手を繋ぎながら薄暗い廊下を歩いて行く。その足取りはゆっくりではあったが重くはなかった。二人が一緒ならばこの先どんなことがあろうとも乗り越えられる。お互いの思いを確かめ合った今ならば、絶対に負けはしないと、力強く、一歩一歩前へと踏み出して行った。


 反響する空調の音が辺りを包み込み、それ以外はなにも聞こえなかった。そして、俺とソフィリーナが大きなシャッターの前まで来ると、ゆっくりと自動で開くのであった。


「たぶんこの先に全能神が居るんだな」

「きっとそうよべんりくん。これで終わりにしましょう」


 俺とソフィリーナは手をぎゅっと握りあうと、開いた扉の中へと進んで行った。



「な……んだよ……これ……」



 目の前にあるモノを前に俺はそう声を漏らすのが精一杯であった。ソフィリーナも眉を顰め、やりきれない表情をしていた。


 聳え立つ巨大な人間の脳のような機械……。いや、これはサーバーなのだろうか? この塔に入った時になんとなく感じた既視感は、どこかのビル内にあるサーバールームを思い出したからだろう。人型をしたクロノスフィアの様なロボットが出迎えると思っていたが、まさかこんなコンピューターが最後に待ち受けているとは思わなかった。どうしていいかわからずに困惑していると天から音声が響いてくる。


―― どうして戻って来れたのだべ~。おまえは、おまえは現実の世界に戻ったはずなのにっ! どうして戻って来れたのだべええええええっ! ――


「おまえの作り出した現実は完璧に見えた。俺が一度見た別の世界の様に、なにかがズレているという違和感もまるでなかった。しかし、おまえはたった一つだけミスを犯したっ!」


―― そ、それはなんだべーっ!? ――


「俺に妹はいねえっ! 兄に対して献身的で可愛い妹が欲しいと言うのは、完全に俺の願望であり欲望だっ! それを具現化してしまったのは失敗だったなあっ、全能神っ!」


 ソフィリーナの愛の力で復活したのではないのかと悔しげな声を漏らす全能神。そしてソフィリーナはそんな理由だったのかと呆れ顔で溜息を吐いていた。


―― お、おのれええええええっ! 永遠とも呼べる時間を生きてきたこの私をっ! 全ての世界を支配するこの全能の神がっ! たった一人の人間の欲望に騙されたとでも言うのかああああっ! ――


 俺は一歩前に踏み出すと、全能神を指差して言い放った。


「おまえは全てを支配してきたつもりかもしれないが、人の心までは支配できなかったと言う事だっ! たとえ、どんなにすごい科学力と魔法を使えたとしてもっ! 武力ギアムによって抑えつけられたとしてもっ! 本当に支配できたわけではない。誰かが誰かを思う気持ちをっ! きかい風情が理解できたつもりでいるなよおおおおっ!」


―― 黙れええええええっ! 我々こそが完璧な存在でありっ! すべてを超越した存在なのだっ! 現にきさまらは何度も同じ過ちを犯し、世界と共に滅んできたのだっ! 我々は、我々だけがっ! あらゆる事象に対する完璧な答えを導きだし、誤差レベルのズレさえも修正し、失敗バグを排除できたのだっ! だからこうして、未来永劫完璧なる姿のままで存在し続けることができたのだああああっ! ――



「失敗のない人生か……つまらねえ人生だそんなもん」



 その瞬間いたる所からアラーム音が鳴り響き、灯りがチカチカと点滅する。まるでそれは、全能神の心がそれを否定し激怒するかのようであった。


―― ならばどうするのだっ! おまえがどんな詭弁を弄そうとも、世界は既に滅びの道を歩み始めたのだっ! 世界おまえたちに未来はないのだべえええええっ! ――


 俺とソフィリーナは繋いだ手を前へと突き出すと見つめ合い同時に頷いた。


「全能神、未来ならあるわ。わたし達には常に選択する未来があるのよ」


―― ソフィリーナあああっ! おまえ達女神をぉぉぉぉっ、何の為に生かし続けていたと思っているのだべええええっ! おまえ達の未来はあっ、神々われわれが常に握っているのだ嗚呼あああっ! ――



「いいや違うぜ全能神っ! 未来はいつだって俺らの手の中にあるっ! そして、俺達は既にそれを手にしているんだっ!」



 その瞬間、繋いだ手の指の間から零れだす七色の光。俺とソフィリーナの手の間には虹色の光を放つ小さな歯車があった。


―― と、時の歯車だとおおおおっ! それはクロノスフィアが砕いたはずだあああっ! なぜそこにあるんだべええええええっ! ――


 全能神が叫ぶのと同時、室内にあるシャッターが全て開け放たれ、そこからWK503シリーズのロボット達が溢れだした。


 俺はポケットの中にある、駄女神ーズから受け取ったスターサンドの砂時計を取り出すと、蓋を外してその裏にある針を親指に刺す。ソフィリーナも同様に、そして二人の血を砂時計の中に垂らすと蓋をして引っ繰り返した。


 砂時計で止められる時間は一分間。


「いくぞソフィリーナっ! 俺達の世界を取り戻す為にっ、俺とおまえの手で未来を動かすんだっ!」

「うん、べんりくんっ! べんりくんと一緒なら、わたしはきっとどんな未来だって受け入れられるっ! ううん、きっとべんりくんにならっ! 皆が望む世界みらいを描き出せると信じてるっ!」



 俺とソフィリーナは手にした時の歯車を全能神へと押し付けた。



 そして、止まった世界が再び動き出すのであった。




 つづく。

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