第二百三十五話 それでも、仲間だから迎えに来た②

 ビキニのお姉さん達が淹れてくれたお茶を飲むと、張り詰めていた緊張の糸が和らぐような気がした。


 俺達は今、海沿いのバルコニーでアフタヌーンティーを楽しんでいるところだ。


「そうそう、ソフィは言う事だけ大きいんだけど、いつも空回りするのよ」

「お酒だってそんなに強くないのに、最初からハイペースだからすぐに酔い潰れちゃうのよね」

「あと見た目と違ってほんと不器用よねあの子。歩く災害って言われてるくらいなんだから」


 なるほど、この女神達と俺達のソフィリーナに対する認識は大体一致していると言っていいだろう。つまり、同一人物の話をしていると言って間違いない。

 俺は少し警戒しつつも、女神達が俺達に会いたいと言ってきた理由を聞いてみることにした。


「えーと、君がべんりくんよね?」

「はい、そうですけど」


 返事をすると女神達は「ふーん、ふーん」となにやらニヤニヤしながら俺のことをジロジロと見てくる。水着美女達に囲まれてジロジロと見られるもんだから、なんだか照れくさくなってくると、隣に座っていたローリンが咳払いをしながら俺の脇腹を肘で突っつく、と言うか結構力強くドつきやがったこいつ。


「つまり皆さんは、ソフィリーナさんの同僚の方々なんですね。私達に会って直接話したいこととはなんでしょうか?」


 脇腹を押さえながら悶える俺のことは無視して、ローリンはなんだかツンケンとした口調で女神達に質問した。

 ローリンの質問に答えたのは、金髪巨乳の女神であった。それはもう、メロンのような豊満なバストに俺と獣王の目は釘づけになるのだが、ぽっぴんの目潰しが炸裂すると、俺達は目を押さえながら床を転げまわるのであった。


「そのソフィリーナのことよ。単刀直入に言うわ。べんりくんあなた。クロノスフィアからソフィリーナを略奪しなさい」



 その言葉に俺達は、はあ? と怪訝顔をするしかないのであった。




「なるほど、つまりソフィリーナとクロノスフィアは、親同士が決めた許嫁であると。そんでもってソフィリーナはそれが嫌だから異世界に逃げ込んだと、そう言うわけですね?」


 俺の質問に女神達は真剣な表情で、うんうんうんと首を縦に何度も揺らす。


 どうやらクロノスフィアの家系は代々時の管理をしてきた神族らしく、ソフィリーナの家はそれを補佐する星読みの家系だと言うのだ。

 しかしソフィリーナは奔放な性格ゆえ、星読みの仕事を継ぐ意思もなくフラフラと遊びほうけているもんだから、仕方なく妹のユカリスティーネがそれを引き継いだらしいのだ。まったくもって駄目な長女である。

 そんなもんだから一度は次女であるユカリスティーネとの縁談が持ち上がったのだが、やはり長女が嫁がないのは恰好がつかないと、ソフィリーナの親族達からも批判の声があがったらしく、派遣女神をやっていたソフィリーナを実家に呼び戻してお見合いを進めようとしていたところ、突然ソフィリーナが行方を眩ましたので両家ともてんやわんやだったらしい。

 それからほどなくしてソフィリーナの居場所はバレるのだが、いくら神々とはいえ人間界にあまり干渉するのはよくないと、ソフィリーナの気持ちに整理がつくのを待っていたのだが、一向に帰ってくる気配を見せないどころか、異世界での生活を満喫していると言うのだから皆怒り心頭。

 しかも、人間界では禁忌の兵器が再び姿を現し、それにソフィリーナも関わっていたと言うのだから、クロノスフィアの家はこの縁談はご破算と言う事でと申し出て来たのだが、それに異を唱えたのはクロノスフィア自身だったと言うのだ。


「クロノスフィアは、それほどまでにソフィリーナのことを……」

「いいえ、あの男ほどエゴの塊のような奴はいないわ。ソフィリーナが自分の物になるのを拒むことが許せないのよ。だから、聖戦を起こしてすべてをリセットするっていうのも、その腹いせの為の口実」


 女神達は顔を見合わせながら口を揃えて「ほんっとに、嫌な奴よねー」と言っていた。いやぁ、マジで女子怖いわ。俺も高校時代には女子達に、陰ではこんな風に言われていたのかもしれない。


 それにしても、そんな縁談話のもつれで世界をリセットしようとしてたのかよあいつ、マジでありえねえだろ。

 俺は呆れながら女神達に再び質問する。


「それでソフィリーナを略奪しろってのか。でも、本人が拒否したら意味ないだろ? 俺が行ったところで、誰が定職にもつかない底辺バイトなんかと、って言われるのがオチだぜ」


 すると、女神達は再びニヤニヤしながら俺のことをなんだか好奇の目で見つめている。

 わけがわからずローリンとぽっぴんのことを見るのだが、二人も残念な奴を見るような目で俺のことを見つめて嘆息していた。


 なんだよ、言いたいことがあるなら言えよイライラするなぁ。


 そして、金髪の女神が真面目な口調で俺に問いかけてきた。


「べんりさん。あなたはどうして大きな犠牲を払いながらも、ソフィリーナを追ってこの神界までやってきたのですか?」


 他の女神達もいつの間にか真剣な眼差しで俺のことを見つめていた。

 さきほどまでの、なんだかおちゃらけたムードとは一変、真面目な雰囲気になったので俺もマジで答えた。



「一つは世界を、そこに暮らす皆を守る為。そして、人間だろうが魔族だろうが竜族だろうが、皆が手を取り合って仲良く暮らせる世界にする為だ。そしてもう一つは……」


 少し溜めると、女神達は前のめりになり俺の言葉をわくわくしながら待っているように見えた。


「ソフィリーナは、ずっと俺達に本当のことを黙っていた。別れの最後にローリンに謝ってくれって言ったのも、嘘を吐いて騙しているって自分でも思っていたからだ。だから最初は、そのことの文句を言ってやろうと思った」


 俺は拳を握りしめるとローリンをぽっぴんを獣王を、皆の目を見つめて言い放った。



「それでもっ! あいつは俺達の仲間だから迎えに行くんだっ!」



 その瞬間女神達は、「なんじゃそりゃあああああああっ!」と言いながら前のめりにズコーっとこけるのであった。




 つづく。

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