第二百三十三話 さらば最強の魔族達よ! 神界への道は友の魂と共にの巻

 神界とは、魔界と同じように別次元に存在する世界であるとアニキは説明してくれた。


「即ち、強大なエネルギーによって歪みを生じさせることができれば、入口を抉じ開けることが可能かもしれないのだ」

「まさか!? また、デビル・メイ・エクスクラメイションを?」


 あんな危険なことをもう一度やろうとしているのかと、俺が不安な表情を見せるとそれを否定したのはシータさんであった。


「いいえべんりさん。あの時はああするしか方法がなかったとはいえ、かなり分の悪い綱渡りをしたのは事実です。そして、今回は決して失敗できません。であれば、私達魔闘神の命を燃やしてでも」


 そこまで言ったシータさんの両肩を掴み俺は言葉を遮った。


「そんなのは駄目だ。もう絶対に何かを成し遂げる為に、誰かの犠牲を払わなくちゃいけないなんて、そんなことはもう絶対に駄目だっ!」

「べんりさん……」


 そう言うとシータさんは微笑み俺の頬にキスをした。意表を突かれた俺が呆気にとられていると、魔闘神の六人が一斉に飛び出す。


 全身全霊の魔力を籠めた必殺の一撃を同時に放ち、エネルギーの渦を作り出すと時の狭間の空間に歪みが発生した。上手く行ったと皆が安堵の声をあげたその時、歪みは収縮すると、停滞していたエネルギーが逆流してくる。

 自分達の放った攻撃をその身に浴びると、魔闘神達は宙を舞い地面を転がった。


「くっ……。生半可なエネルギーでは神の領域まで届くどころか、そのエネルギーが自分達に跳ね返ってしまうようです」

「リサっ! もうやめろ、やっぱ無理だ。他の方法を考えて」

「いいえべんりさんっ! もう時間がありません、あちらを見てください」


 リサの指差す方を見ると、空いっぱいに広がる星空の向こうから徐々に光が消えていっているように見えた。それはまるで、ブラックホールが星々を飲み込んで行くかの如く。


「時の狭間が閉じようとしています。全てが闇に飲まれる前に、なんとしても神界に辿り着かなければなりません」


 神妙な面持ちで答えるリサ。俺は、再び攻撃を再開する魔闘神達にローリンやぽっぴんの助けがあればと助言するのだが、闇雲に放つ強力な一撃ではなく魔闘神達は力の波長を合わせて絶妙なコントロールをしていると言うのだ。これは、デビル・メイ・エクスクラメイションもそうであるが、強力なエネルギーを三位一体となり一つの技へと昇華させるというもので、今やっているのもそれの応用である。だから、いくら強力な力を持っているローリンやぽっぴんが加勢したとしても、パワーのバランスが崩れてしまっては意味がないらしい。


「すみませんお姉様。ご助力感謝いたします。しかし、お姉様達は来たるべき神との戦いに備えて力を蓄えておいてください」

「エカチェリーネさん……」


 ローリンは拳を握りしめ唇を噛みしめながら、なにもすることのできない自分が悔しくて仕方ない様子だ。

 それから2~3度同じことを繰り返す魔闘神達であったが、その度にエネルギーが跳ね返りみるみる内にボロボロになっていった。


「くそっ、見てられないぜ……なんとかならねえのかよ獣王っ!」

「べんり、しかと見届けるわん。あいつらは、今こそ魂を燃やし、己の限界を越えようとしているわん。そんなあいつらの覚悟を、俺達が最後まで見届けるんだわんっ!」


 獣王は涙を流しながら後輩たちが傷つく姿を見つめていた。くそったれが、おまえも手伝えよっ!


 アニキがその場に膝を突き拳を地面に叩きつける。


「くそぉ。せめてあと二人、もうあと二人魔闘神がこの場にいれば」


 ん? もうあと二人? そう言えばあいつらはどこに行ったんだ?


 ミルルフィアムとメルルシャイム。双子天使の魔闘神。あいつらはメームちゃんを追って先に行っていたはずだが? すると闇の向こうから声が響いた。


「やれやれですミルルフィアム。結局最後には僕達の力を当てにするのです」

「まったくですメルルシャイム。まったくもって不甲斐ない奴らです」


 まるでこの時を待っていたかのようなタイミングで現れる双子天使と、さらには眼鏡がその後ろからやって来た。なぜか三人はボロボロであった。


「神界に行くためには空間に歪みを作る必要がある。その為に我々魔闘神の力を結集して」

「ああいいよそれもう、説明してもらったからとっととやって」


 俺の突っ込みにビゲイニアは、眼鏡をくいくいと上げながら苦い顔をするのであった。


 ビゲイニア、ミルルフィアム、メルルシャイムが合流したその時、俺は目の前で起こった奇跡に驚愕の声をあげた。



「ま……まさか……あいつらは……。死して尚、皆の苦難の時に、地上の愛と正義の為にその魂が駆けつけたと言うのかあっ!?」



 ブッチャーハシム、インポテック、アルパ・カシーノの三人も幽体となってこの場に現れたのだ。


 今ここに12人の魔闘神達が集結した。それを確認するとビゲイニアは全員の目を見て頷く。そして俺達の方へは振り返らずに話し始めた。


「私達はこれから、全員の力を結集させた最大最強の一撃を放つ。その一撃は、この星読みの空間すべてを巻き込むほどの一撃となるだろう。おまえ達は巻き込まれないように一度ここから出るんだ」

「で、でもビゲイニア」

「忘れるなべんり。ここまで辿り着くのに払ってきた犠牲のことを。そして、メイムノーム様のことを頼む」


 獣王は何も言わずに俺のズボンを噛むと引っ張った。魔闘神達の覚悟を無駄にはしまいと悲しみを押し殺して、この場から離れようと俺に促した。


 俺達は涙を拭いながら走りだす。神界への道を作り出すことを魔闘神達に託して。




 その時……十二人がふと微笑んだような気がした……まるでオレ達の友のように……そうだ人も魔族も皆が神話の時代から共にあった友人なのだ……その友たちに今さよならを告げる時が来たのだ……さらば熱き血潮の戦士たち……さらば最強の魔族達よ……。





「べんりくん……皆さんは……」

「べんりさん……あいつら……」


 ローリンとぽっぴんは俯き声を漏らす。


「ああ逝った……。俺達に、愛と正義と……すべてのものを託してな……」



 俺達の目の前には、美しい神界の平原が広がっているのであった。



 つづく。

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