第二百四話  ネクストディメンション・ウォーズ④

 イゲイノラがハンマーを振り上げると背後の空間から無数の武器が飛び出す。


「ふはははははっ! この俺様が生涯をかけて集めてきたこの数々の武具をっ、きさまら魔闘神に攻略できるかあっ!?」


 大声で笑いながら先ほどリサを攻撃し手にしたハンマーを振り回している。異次元に保管してある武具を取り出しそれらを自在に扱う事ができると言うイゲイノラ。今手にしている武器を攻略したとしても、別の武器に持ち替えることが可能だと言うのだから厄介な相手だ。


 イゲイノラはアニキを拘束している鎖を引き寄せようと腕に力を入れるのだが、二人の間で鎖はピンと張った状態となった。アニキがその場に踏ん張り、イゲイノラに引き寄せられまいとしているのだ。


「ほお? 見かけによらずパワーはそこそこにあるようだな?」


 余裕の笑みを見せるイゲイノラに対し、アニキは歯を食いしばり獣のような形相で相手を見据えている。


「生涯をかけて集めてきた武器か……なるほど……」


 アニキはそう呟くと目を瞑り身体の力を抜いた。観念したのかとイゲイノラは、アニキをハンマーで攻撃できる間合いに引きずり込もうとするのだが、その瞬間、鎖が引き千切れハンマーも粉々に砕けた。


「なっ!? なにぃぃいっ!」

「貴様が手にしている武器。それが生涯をかけた物であるとするなら。この俺の拳もまた、生涯をかけて磨き上げてきた武器……。いや、牙だっ! お前の武器庫にある武具で我が牙を砕けるものなら砕いて見せるがいいっ! ライトニング・サンダー・スパークっ!」


 アニキが必殺技を放つと同時、先ほど異次元から取り出していた武器を手に迎え撃つイゲイノラ。二つの武器こぶしが衝突すると、凄まじい衝撃波と共にイゲイノラの手にしていた剣が砕け散った。


「おのれえええええっ! 小癪なああああああああっ!」


 イゲイノラが叫ぶと異次元への扉が開き、無数の武器がアニキ目がけて突進していった。それを迎え撃つアニキの光速拳は、次々と武器を砕いて行く。


 イゲイノラの武器庫が空になるのが先か、或いはアニキの拳が砕けるのが先か。俺とリサは固唾を飲んで二人の勝負の行方を見守るのだが、戦いはあっさりと幕引きを迎える。


「どうした? 生涯をかけた武具が、もう尽きたのか?」


 アニキの前で膝を突くイゲイノラは悔しげな表情で見上げていた。その視線はアニキの拳、真っ赤な鮮血を両の拳から滴らせながら、更に力強く拳を握り込むとアニキは最後の一撃を放つのであった。



―― ライトニング・サンダー・バーストっ! ――



 己の武具の破片と共に宙を舞うと、イゲイノラは息絶えるのであった。



「ア、アニキ。大丈夫なのか?」

「心配ない。この程度の傷で使えなくなる程この拳、やわに鍛えてはいない」


 そう言いながらもポタポタと滴り落ちる血を見て、俺はやるせない気持ちになる。

 

 コンビニで襲撃を受けてからというもの、俺は碌に戦ってもいない。全部マーク2やソフィリーナ達、そしてリサに任せて、魔闘神の皆も傷つき倒れていっているのに、俺はなにもできない。ティアラちゃんの時もそうだった。異世界での戦いにおいて、俺はいつも、なんの役にもたてないのだ。


「ちきしょう……皆が血を流して戦っているってのに、俺はいつも見ていることしかできないのか……」


 そう零した瞬間。俺はアニキに殴り飛ばされる。殴られた右頬をおさえながら俺はアニキに問いかけた。


「打ったね?」


 その瞬間左の頬を殴られる。


「二度も打った! まあ、何回か殴られた経験はあるけどねっ!」


 親父に殴られたことはないけれども、異世界こっちに来てからは結構そういう酷い目にはあっているから初めての経験ではない。


「べんりよっ! 戦場においてそのような泣き言を言ったところでなんになる。自分の力が周りに劣ることを嘆いたところで、敵が手を抜いてくれるわけではないのだぞ」

「ア……アニキ……」


 アニキは振り返り俺に背を向けると、前へと力強く歩み出す。


「悔しいのなら強くなれ。打ちのめされても何度でも立ち上がるのだ。不平不満を口にしたところで、それはおまえになんの力も与えてくれはしないっ! ならばぐっと堪え、歯を食いしばり、その思いを力へと変えるのだっ!」


 くそおっ! 相変わらず熱いぜアニキ! まるで昭和の少年漫画の兄貴分のような人だなあんた。わかったよ。俺はこの先絶対に泣き言は言わねえっ! どんなことがあっても前だけを見て進んでやるぜっ!


 強敵サブナックのイゲイノラを倒し。新たな誓いを胸に俺達は、次の宮を目指すのであった。



 第六の宮はシータさんが守護していたので当然今はもぬけの殻、そして第七の宮と八の宮は、一年ほど前にローリンが吹っ飛ばしたから再建中なので当然誰もいない。そして九番目も元々空なので……。


「ちょっと待て、計算が合わないぞ?」

「なにがですかべんりさん?」


 俺が急に立ち止まり、神妙な面持ちで言ったので、リサもまた真剣な眼差しで俺のことを見つめてくる。


「おまえら、ドラゴンの時12人居たよな?」

「はい。あの時は魔闘神全員が集結、あんなことは数百年ぶりのことでしたがそれがなにか?」

「第七と九の宮殿は前に俺達が来た時も無人だった。八はビゲイニアが守護者として、他の二人はどこに行ったんだ?」


 俺の言葉にハッとしたような表情になるリサ。いや、気が付かなかったのかよおまえ、こないだ一緒に来た時に変だと思わなかったのか?

 これはなにかあると思い俺とリサはアニキの方へ視線を送るのだが、アニキは俺達から視線を逸らすと「そ、そんなことよりも、い、今はシッタシータ達を追う事が最優先だ」と言って足を早めた。


 あー、この人も知らないんだろうなぁ、と思い。それ以上はなにも聞かず、次の宮を目指すことにする。


 次の守護者は魔闘神最強の剣士。途中までローリンといい勝負をしているように見えたから、たぶんかなり強いと思うエカチェリーネ・オルストラだ。



 つづく。

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