第百七十七話 竜殺しの異名を持つ女③
こいつ、俺がそう言ったら激おこだったくせに。
まあいいや、自分でも変な名前だと思うし、もうちょっとまともな名前にしておけばよかったと、これだけが心残りなんだよな。便利、便利って、パシリみたいに呼ばれて、時折とても切なくなるんだよ。
「ベンリーか……聞いたことないけれど……」
そう呟きながら俺のことを疑わしい目で見てくるルゥルゥ。そりゃあドラゴンハンターさん界隈じゃあ俺は無名だろう。なんてったって単なるコンビニバイトだし。しかし、今更嘘ですなんて言いだし難いので俺は嘘に嘘を重ねる。
「ま……まあな。俺はドラゴンハンターとしてはギルドには登録してないから、基本フリーでやってるし、ドラゴン討伐の依頼なんかも個人で請け負ってるから、それほど名は通ってないんだろう」
ルゥルゥは訝しがりながらも、なるほどねと納得してくれた。
そうこうしている内に集会所のお姉さんが出勤してきて俺に挨拶をする。
「べんりくんおはよー。こんな所でなにしているの?」
「おはようございます。今日はちょっとここに用事があって」
「へー、珍しいね。すぐに準備するから待っててねー」
そう言ってニコニコと手を振りながら中へと入って行った。
お姉さんと知り合いだったので、ルゥルゥも一応俺のことを冒険者として認めてくれたようだ。
次にやって来たのは、スキンヘッドの集団であった。ガチムチの野郎共が世紀末ヨロシクな恰好をして4人パーティーを組んでいる様は、ハッキリ言って傍から見ると結構痛々しい。
ルゥルゥも変な奴らが来たと少し警戒している様子だ。
「おう、べんり。朝っぱらからなにやってんだ? 店はいいのかよ」
「俺は今日休み。ちょっと野暮用で来たんだよ」
「いい加減おまえの店にも武器や防具を置いてくれよ」
「何度も言ってるが、コンビニで武器や防具は発注できないんだよ」
そんなお決まりのやり取りをしていると、ルゥルゥは背伸びしながら俺の耳元で囁く。
「知り合いなの?」
「俺の店の常連だよ」
「店? あんたなんか商売やってるの?」
普段は雑貨屋をやっていると説明してやると、なるほどねと腕組みしながら頷くルゥルゥ。なにがなるほどなのかはよくわからないが、本人がそれで納得しているのだからいいだろう。
集会所が開く10分前にもなると、冒険者達がゾロゾロと集まってきて入口の前に列を作り出した。
冒険者とは言っても、はっきり言って日雇い労働者みたいなものだ。ギルドから発注される依頼を受注してその日銭で口に糊する。そんな職業である。
勿論、超難易度の高い高給クエストみたいのもあるんだが、当然それなりに危険を伴うものであり、命の保証はできないものもあったりする。
特に高給なのは、大型モンスターの討伐であるとか。傭兵なんかである。特に傭兵は、相手側の士官なんかの首を獲ったりするとインセンティブがでかかったりするので、一発大儲けするのにはもってこいだったりする。
まあここの所は平和なのであまり募集もないのだが、国境沿いの領主なんかは自前の兵隊を用意するのも大変なので未だに傭兵を雇ったりしているようだ。
「さーてと、どらごん、どらごんっと……」
俺はクエストの依頼看板を眺めながら、ドラゴン系の依頼はないかと探すのだが、やっぱりそんなもんそうそうにはない様子であった。
なぜかルゥルゥも俺の横で一緒になって探していた。
「う~ん。ガセだったのかなぁ? 確かな情報だと思ったのに」
「まあ、ドラゴン討伐だなんて希少な依頼がそうそうきたりはしないってことだ」
俺の言葉にルゥルゥは驚いた表情で反論してきた。
「なにを言っているんだ! 北方では魔王軍の侵攻が激しく、特にドラゴンには苦しめられているんだぞ。こちらではそんなことはないって言うのかっ!?」
突然の反応に俺もびっくりしてきょとんとしながらルゥルゥを見ると、なにやらしまったといった表情をしてそっぽを向くルゥルゥ。
怪しい……。北方と言えば、レギンス帝国と数年前まで戦争をしていた国がある大陸だよな? ローリンが現れたことによって今は休戦状態らしいけれど。それに魔王軍ってなんだ? リリアルミールさんはそんなことしてないと思うけど?
「ルゥルゥさん? 北方の魔王軍って?」
「あーっ、とにかくっ! ドラゴン討伐の依頼がないならここには用はないかなあ」
そう言うと、ルゥルゥは依頼看板から離れて行き、バーカウンターに飲み物を注文しに行ってしまった。
ますます怪しい。
暫くするとルゥルゥは手にジョッキを二つ持って俺の元に戻ってきた。
「はいこれ。あんたの分」
「え? 俺頼んでないよ?」
「これはあたしの奢り。なんかあんた、ここらで顔広いみたいだからさ。その、あたしの頼みを一つ聞いてくれないかな?」
やれやれ、エール一杯でこの街の裏の裏まで知るべんりさんから情報を引き出そうってか。まあいいだろう、俺は動物と女の子には優しいからな。
「べつにいいけど、期待に添えるかどうかわかんないぞ?」
「それでも構わないよ。待ってる間の暇つぶしにもなったしそのお礼も兼ねてる。実はあたし、この街にある人を探しに来ていてね」
「ふむ、人探しか。俺の知ってる人だったらいいんだけど」
まあコンビニをやっている分、それなりに人との関わりも多いし。もしかしたら知っている人かもしれない。それでもこの帝都は広いからな、なんでも20万人くらい住んでるらしいから全員と顔見知りってわけでもない。
ルゥルゥは神妙な面持ちになると、その探し人のことを話し始めた。
「その人は、
はい。知ってる人でしたー。
つづく。
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