第百三十二話 アールグレイとぽっぴんぷりん②
「あらあら、そんなことがあったのね。ポプラはメイムノームさんと、とても仲良しなのね」
「あったりまえだのクラッカー。こないだも一緒にバーベキューをするくらいにもう“
ぽっぴんの話を一つ一つ、うんうんと頷き笑顔を浮かべながら聞くマーサさん。きっとぽっぴんはマーサさんのことが大好きなんだろうな。そしてマーサさんもぽっぴんのことを我が娘のように可愛がっているのだろう。
そんなことを思いながらも俺は、平然と大嘘を吐くぽっぴんに閉口してしまう。メームちゃんですら、その図々しさにげんなりしてなにも言えない様子だ。
「まったく、昔から大袈裟に話す癖があるおまえのことだ。大方皆さんにも迷惑ばかり掛けているのだろう」
「オーウェン、久しぶりなのにそんな風に言うものじゃないですよ。こんな山奥の村までこうやって皆さんが一緒に来てくださったのも、ポプラのことを大切に思ってくれているからこそでしょう」
呆れているご老人を窘めるようにマーサさんは笑うと、急に何かに気が付いたような顔になり慌てる。
「いやだわ。私としたことがお客様になにもお出ししないで、お茶でも淹れましょうか」
「マーサさん。そんなお気遣いなさらずに、折角ですからもう少しポプラさんとお話をしていてください」
ローリンがかしこまるのだが、マーサさんは笑顔で答える。
「私が飲んで貰いたいのよ。手前味噌ではあるけれど家で採れた紅茶の葉でね、とっても香りがいいのよ?」
「マーサの淹れてくれる紅茶は世界一です。アルパカの淹れる紅茶も美味しいけれど、是非皆さんにも飲んでみて欲しいです」
ぽっぴんもなにやら自慢げにドヤ顔で言う。調子のいい奴だ。
マーサさんが席を立つと「どれ、火を起こそう」とオーウェンさんも立ち上がる。「あなたは皆さんと一緒にお話ししてなさいな」とマーサさんが言うのだが、照れくさいのだろう。オーウェンさんは何も答えずに台所へと行くのであった。
「まったく、いい歳こいてなにを恥ずかしがっているのか。困ったじじいです」
「うふふ。ぽっぴんちゃんは本当におじいさんのことが大好きなのですね」
ボヤくぽっぴんに笑いながらローリンが言うと、顔を真っ赤にしてそっぽを向くのであった。
と、ここまであまり目立たなかったソフィリーナが俺に耳打ちしてくる。
「ねえねえべんりくん?」
「なんだよ? おまえ珍しく大人しかったな」
「そんなことよりわたし、あることに気が付いちゃったのよ」
なんだ? 神妙な顔しやがって? また碌でもないこと言いだすんじゃないだろうな。
俺は眉を顰めてそれを聞いてみる。
「あの厳ついおじいさんもさ……」
「お、おう……」
「スウィートミントって言うのかしら?」
「ぶぅぅぅぅううううううううううっ!」
いきなりの不意討ちに吹き出してしまう俺。そういや、ぽっぴんの本名ってポプラ・スウィートミントだったな。と言う事はあのじいさんの名前も、オーウェン・スウィートミントなのだろう。
糞がぁ。あんな風体でどこぞの魔法少女みたいな名前しやがってぇぇぇええw
「ちょっw おまっw 笑かすなよぅwww」
「いやだってさw なんか気が付いちゃったからさwww」
二人で大笑いしていると、どうしたのかと皆に聞かれるのだが、流石に話すわけにはいかず適当にその場は誤魔化すのであった。
そうこうしている内にマーサさんの淹れてくれたお茶が振る舞われると、今朝焼いたと言うパウンドケーキも一緒に頂く。
「良い香り。アールグレイですね。このパウンドケーキに良く合います」
ユカリスティーネの感想に、皆がほぉほぉと頷くのだがよくわからない。アールグレイってなに? と言う顔でもしていたのだろうか、やれやれと言った感じで説明してくれる。
「アールグレイとはベルガモットで香りをつけた紅茶の事を言うんですよ。柑橘系の爽やかな香りが人気のものです」
「へー、確かにいい匂いがする。アルパカが淹れるものよりも、なんというか優しい風味だね。メームちゃんはどう?」
メームちゃんもお気に召したのか、ごきげんな様子でマーサさんの紅茶とケーキに舌鼓を打っている。
「まあまあ、お口にあったみたいで嬉しいわ。おかわりもあるから、沢山召し上がってくださいね」
さてさて、そんな感じで和やかに団欒したティータイムをもう少し楽しみたいところではあるが、俺達の目的は別にある。明日には村長の所に赴き、身を清める儀式をしてもらってティアラちゃんの元へ行かなければならないのだ。
とりあえずは、こんな大勢でぽっぴんの家に泊まるわけにもいかないから宿を探したいのだが。
「こんなド田舎の村に宿なんてあるわけないじゃないですか」
ぽっぴんが呆れ顔で言う。じゃあどうしろと言うのだ、お世辞にも広いとは言えないこの家に総勢7人と一匹が寝る場所なんてないだろう。
俺が困っているとオーウェンさんがマーサさんに向かって尋ねる。
「トールの所が空き家になっていただろう?」
「ええそうね。でも、もう何年も掃除していなくて埃だらけよ?」
どうやら数年前に亡くなった友人の家が空いていると言うので、掃除くらい自分達でしますと言って今夜はそこをお借りすることにした。
そしてしばらく歓談した後、俺達は一度ぽっぴんの家を後にするのであった。
つづく。
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