第九十七話 遥けき異世界の地より、尚輝けり懐かしの我が家②

「これを見てくださいべんりさんっ!」


 そう言いながらスマホの画面を俺に見せつけてくるぽっぴん。一体なにを見せようと言うのか?


 大体なんでおまえが俺のスマホの中の写真で探し物があるんだよ?


 そんなことを思いながらソフィリーナと一緒にスマホ画面を覗き込むと。


「いぃやああああああっ! なにこれえっ!? え? 俺こんなの撮ったっけ?」

「ぶふぅうううううううっ! なにこれなにこれ? これあれでしょ? ちょっと腕立て数回した後にパンプアップしたと思って、俺って結構筋肉あるんじゃね? とか勘違いしてるやつでしょおおwwww」


 そこにはひょろっひょろの身体で、ボディビルダーみたいに上腕筋に力を籠めている俺の恥ずかしい姿が写っていた。

 ここにきて更なる辱めを受けて俺の心はもう崩壊寸前、ソフィリーナとぽっぴんの容赦ない口撃に俺のライフはもうゼロよ。ってな感じで口から魂を垂れ流しながら放心状態でいると、ぽっぴんが見るのはそこじゃないここだと画面を指さした。


「え? なに? 俺の後ろになんかあるの?」

「あるじゃないですか、とても重要な空間ものが」


 マジでなにを言っているのかわからない。いつの間にかローリンも加わって三人顔を寄せ合ってスマホの画面を見るのだがさっぱりわからない。


 そこでソフィリーナがあることに気が付く。


「きったない部屋ね。ちゃんと干してるのこの布団? あと、漫画とアニメのDVDばっかり、爛れた生活が窺い知れるわねほんとに」


 そいつはすいませんでしたねえ。大学生の頃からずっとこういう生活していたんですよ。


 ソフィリーナの言葉にぽっぴんはなんだかドヤ顔で「惜しいっ!」みたいな顔をしている。


 更にローリンがなにかに気が付く。


「べんりくん。ゴミ箱のゴミは小まめに捨てた方がいいですよ。ティッシュだらけ……」


 そこまで言って口籠ると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 ちょ? ばかばかばかばか違うからな? なに勝手に危ないネタ拾ってきて一人で下ネタに突入してんのこの子?

 これたぶん花粉のシーズンだから、鼻水だから、絶対に違うから、だいたいアレのティッシュがこんなに溜まってたら臭うからなっ! ああああ、プライバシーがどんどん赤裸々にされていくよぉぉぉおおおおっ!


 暫く皆考えこむのだが痺れを切らしたぽっぴんがようやく口を開いた。


「やれやれ、みなさん鈍いですね」

「なんなんだよ。おまえは俺になにか恨みでもあるのか? ひでえ辱めを受けて俺もう死にたいんだけど」

「まあまあ、そう言わずに聞いてください」


 ぽっぴんはスマホを高く掲げると声を張り上げた。


「この中にあるデータを元に、私の頭脳と人脈を駆使して、べんり邸を再現してご覧にいれましょうっ!」



 え?



「「「ええええええええええええええええっ!?」」」



 ぽっぴんの案に、三人揃えて驚きの声を上げるのであった。




 作業はその日から始まった。

 地上にある適当なボロアパートの一室を借りてくると急ピッチでリフォームが行われる。

 どこから連れてきたのか、ぽっぴんが手配した業者は手際よく作業を進めている。

 ぽっぴんはと言うと、写真からではわからない細かい部分を俺から聞き出し、それを図面に引いて業者に渡していた。


 こいつなんでそんな技術持ってんだよ?


「ふむふむ……なるほど。テレビは店にある物で代用するとして、このブルーレイ・レコーダーとパソコンをどうにかしないといけませんね」


 だからなんでおまえがあっちの世界の機械のことを知ってるんだよ? ほんとにこいつ異世界人なのか?


 なんだか疑ってしまうが、正真正銘紛れもなくこいつはこっちの世界の住人であることは間違いない。


 そして現場監督ぽっぴんの下で着々とべんり邸補完計画は進められて行き、一週間が過ぎようとしていた。





「あざぁっしたぁ」


 俺の症状も回復傾向を見せ、少しずつではあるが職場復帰もできるようになった。


「お疲れ様べんりくん。笑顔も増えて元気もでてきたみたいだし、もう大丈夫そうね」

「いやあ、心配かけてすまなかったなソフィリーナ。一時は食事も喉を通らなくてマジで死ぬかと思ったけど。まあ一時的なショック状態だったんだと思うよ」


 二人して笑いながら話す。今にして思えばたぶんだけど、スターサンドの砂時計を使えなくなったことが相当なショックだったんだと思う。まあ今でもショックではあるが、いつまでも後悔ばかりしていても仕方ない。なにか別の方法を考えてメームちゃんを助けるしかない。俺は必ずメームちゃんを救ってみせるって誓ったんだからな。


 そうこうしていると店の自動ドアが開き、ボロボロになったぽっぴんが転がり込んできた。


「お、おいっ!? ぽっぴん、大丈夫かっ? しっかりしろっ!」

「ぷ……プリンを食べさせて……くだ……さ……い」


 そう言うと俺の腕の中に力なく倒れ込んでくるぽっぴん。仕方がないのでチルド棚からプリンを取って蓋を開けると、ぽっぴんはガバっと起き上がり俺の手の中からプリンをひったくった。


「ひ、久しぶりのプリンですっ! あぁぁぁぁぁ、五臓六腑に染み渡りますぅぅぅううっ!」




 そうしてぽっぴんは落ち着きを取り戻すと、俺とソフィリーナに向き直り意気揚々と語り始めました。


「この一週間、ほぼプリンを摂取せずに進めて参りましたが遂に完成しましたよっ!」

「え? なんだっけ?」

「んなあうっ!?」


 衝撃のあまり目が点になっているぞぽっぴん。まあ冗談は程々にして話を聞いてやることにするか。


「んで、完成したのか俺の家?」

「えぇ、それはもう完璧と言っていい程の再現度です。最早あれはべんりさんの本当の部屋を凌駕しているくらい、べんりさんの部屋にすることができたと言っても過言ではありません」


 なにを言っているのかよくわからない。本当の部屋を凌駕してしまったら意味ないんじゃないのか? まあいいだろう。ぽっぴんがそこまで言うのなら見てやろうじゃないか、俺の部屋を越えたと言う俺の部屋をなっ!



 そう言うわけなので、またまた店は臨時休業にして、皆でコーポせせらぎ201号室の俺の部屋へと向かうのであった。



 つづく。

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