第三十七話 ドMメイドは幼馴染?②

「あぁ~んあぁ~ん、あぁんまりだぁよぉぉぉお」


 メームちゃんに中指を立てられたリサさんは、床に突っ伏してじたばたしながら嗚咽している。その姿は駄々をこねている子供にしか見えなかった。

 たぶんメームちゃんは子供特有の勘と言うか、本能的にこいつのキモさを察知して毛嫌いしているのだろうと思った。


 それにしても、しゃくりあげるリサさんを誰も慰めてあげないのがなんとも切ない。あの聖母の様なローリンでさえドン引きしているレベルである。


「と、とにかく、敵か味方かもわからないあなたの言う事は信用できません」

「そ、そんなぁ……」


 俺の言葉にしょんぼりと肩を落とすリサさんであったが、俺は咳払いをして付け足す。


「まあそれは、よくよく考えればビゲイニアさんのほうも同じです。なのでリサさん、あなたのことを全面的に信用したわけではないですが、経緯を聞かせてくれませんか?」

「べ、べんり様ぁぁぁぁあああ」


 鼻水を垂らしながら俺に抱きつこうとするリサさんを、メームちゃんがパンチ、キックで応戦するのであるが、その度に「あぁ、もっと! もっとぉぉぉおおっ!」と恍惚の表情を浮かべているので、もう本当に勘弁してくださいこいつ。




「メイムノーム様の幼くなって行く姿を見て、初めは魔王様も懐かしくかわいらしいお姿にとても嬉しそうにしていました。でも、次第にそれは不安へと変わって行きました」


 テーブルにつくとリサさんの話を黙って聞く、ソフィリーナが商品の紙コップを開けて、甲斐甲斐しくお茶を皆に配っていた。これはまあ雑費として落としておいてやろう。


「実の母親であり、魔王でもあるリリアルミール様は、メイムノーム様を心配する余りお身体の調子を崩されて床に伏せる日が多くなっていったのです」


 ん? 今なんかとんでもない情報くれたな? え? 魔王ってメームちゃんのお母さんなの? 俺はてっきりお父さんの方かと思ってたわ。


「なるほど、娘を思う母の気持ち……わかるような気がします」


 ローリンが神妙な面持ちで頷く。こいつまさか、子供がいたりしないよな?


「それからと言うもの、四貴死の中でも頭のキレるビゲイニアが他の者達をまとめて、魔族達やモンスター達に指示を出し始めていったのです」


 リサさんの話を聞く限りでは、これは完全に魔王軍を乗っ取ろうとしていますねあの眼鏡。


「なるほど、魔王が弱っている隙に全権を掌握しようとしていると」

「それだけではありません。ここからが重要なのです」


 リサさんはこれまでにない真面目なトーンになると、全員を見回してから重い口を開いた。



「ビゲイニアは、人間へ宣戦布告する為の口実にメイムノーム様の命を狙っているのです」



 リサさんの発言に全員が息を飲む。宣戦布告する為の口実? どういことだ? それはつまりビゲイニアは人間と、この帝国と戦争をしようとしているってのか?


「な、なんでっ!?」


 我ながら酷く頭の悪い聞き方であったが咄嗟に出た言葉がこれであった。


「元々奴は強硬派なんです。魔王城を破壊された時にも報復戦争を仕掛けるべきだと声を上げたのが奴でした」


 その言葉にローリンが青褪める。


「ま……まあ、それはそうですよね。な、なんで報復しなかったんですか?」

「その時はまだ保守派層の力が強かったのと、やはり魔王様の容体とメイムノーム様のことを考えた時に開戦は望ましくないという声の方が多かったからです」


 そ、それはなんと言うか、時期がよかったと言うか、一歩間違えれば帝国対魔王軍の全面戦争が勃発していた可能性があったわけか……マジで。


「憎き聖騎士……我々をこんな地下ダンジョンに追いやり、そんな我々を何とか再び地上で暮らせるようにと苦悩するリリア様のご心労を考えると、メイム様のことだってなにも解決していないのに」


 エプロンで顔を覆い涙ながらに語るリサさん。ローリンは真っ青になり冷や汗をダラダラと流しながらその話を聞いていた。

 そこでまた、黙って聞いていたぽっぴんが口を挟む。


「全然わかりません。なんでその魔王様の代わりにその眼鏡が戦争をしようとしているのですか? それとメームさんが命を狙われる理由がさっぱりです」


 うん。おまえは馬鹿だな。もういいから黙って聞いてろ、このあと必要な場面があったら思う存分魔法は使わせてやるから。


 俺はこれまでの話を頭の中で整理して、導きだした結論をリサさんにぶつけてみることにした。


「つまりビゲイニアは、その保守派と今一歩踏み出せずにいる魔族達を動かす為に、メームちゃんを暗殺しようと計画していると?」

「は、はい。その通りです」

「それは、俺達を……いや、俺達にメームちゃんを殺害させようとしているってことだな?」


 ビンゴだったのか。リサさんは驚いた様子で俺のことを見つめる。そして他の三人も同じように驚いた様子で俺のことを見ていた。


「べ、べんりくん。それってどういうこと? え? て言うかなーに? なんで急にそんな名探偵みたいになってるの? 熱でもあるの? 拾い食いでもしたのっ!?」


 ソフィリーナは俺の額に手を当てて本気で心配するような表情で顔を覗き込んできた。

 失礼な奴だな。そんなソフィリーナの顔を押しのけて俺は皆に説明をする。


「メームちゃんは三日前に行方をくらましたってリサさんは言っていただろう? それはおそらくあいつらがメームちゃんを連れ出したんだ。行方不明になったメームちゃんが無残な姿で戻ってきたら? そして行方不明の間一緒に居たのが俺達人間だとわかったら……どうなると思う?」 


 間違いなく報復しろと言う声が大きくなるだろう。我ながら冴えてるぜ。

 おそらくビゲイニアは、俺達が時の歯車を探していると知ってからこの計画を立てたのだろう。だとしたら、そこまで練り込まれた計画ではないはず。そこに必ず隙が生まれるはずだ。


 俺の推理に皆が感心している。金田一やコナンなんかで鍛えた俺の推理力がこんな場面で発揮されるとは思いもしなかったぜ。


 そんな感じで俺がドヤ顔をしていると、突然知らない声が店内に響く……いや、どっかで聞いたことあるような?



「そのとおりだわんっ!」



 わん? その声のする方を見やると俺達は絶句するのであった。



 つづく。

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