第10話生きるために 後編

 三人は暗い廊下を歩いていた。

 足音が響く。

 前後には見張り兼道案内の兵士が歩いている。イネスたちとは、コロシアムについて早々離された。


「……」


 誰一人として口を開かない。

 三人の手には、それぞれ自分で選んだ武器があった。

 ハインケル伯爵の最後の良心か、それとも余興の一つなのか、少し前に武器庫で武器を選ばされたのだ。

 とはいえ、子どもの身で扱える武器などそうあるわけではない。

 誠は子供用だろう短剣、那毬と留はナイフを腰に差し、木なのか石なのかよくわからない材質の棒を持つことにした。

 三人がほかに持っているものは、スマートフォン三台と、留自作のブラックジャックだけだ。

 それだけで、ずいぶんと重く感じるこの子供の身体の、なんと不自由なことだろう。

 そんな状態で、今から得体のしれないものと戦えと言うのだ。この世界の正気を疑う。


「こちらです」


 前を歩いていた兵士が立ちどまった。

 大きな扉がある。

 

「それでは、健闘を祈ります」

  

 感情のこもらない声でそういうと、兵士は扉を開け放った。


「……ちったぁ心構えくらいさせろってんだ」

「死ぬ覚悟の間違いじゃない?」

「冗談きついわ」


 愚痴りあいながら、三人は闘技場の中へと足を進めた。

 兵士が槍を構えつつ、後ろからついてくる。


「……なるほど、逃げれば兵士に殺されるパターン…」

「弓兵もいるようだぞ」


闘技場の観客席を見て誠が言った。

 歓声が聞こえる。闘技場は、憎たらしいほどの青空の下にあった。

 闘技場を囲むように段々になっている客席は満員御礼。

 一番の特等席にはハインケル伯爵を見ることができた。近くには、苦い顔をしたイネスと、面白くなさそうな顔をしたケイの姿があった。

 後ろの兵が引いた。

 正面にある扉から、、何かが近づいてくるのが見える。


「二人に、警告を一つ」


 三人以外の人気がなくなったところで、留が口を開いた。


「私たちは、たぶん。思った以上に動けない」

「?」

「筋肉……運動神経が子どもなのもある。武器を持ってわかる通り、非力だわ。相手に殴打などでダメージは与えられない……と考えていい」

「武器を使えと」

「まぁ、ね。それと、子どもって頭がでかいのよ。重心が上の方に行くからこけやすい」

「そういや留さんこけてたね」

「うん。まぁ、そういうこと。それも考えて動いてね」


 正面の何かは、檻に入れられた獣のようだった。


「…じゃあ、俺からはアドバイスを」


 今度は誠が二人を見る。


「獣も人間も弱点は同じ、らしい。なんかあったら鼻っ柱たたいてやれ」

「えー、怖いよう」

「ふざけてる場合か、留さん…」


 作った声で怖がってみせる留に、那毬が苦笑する。


「確認するよ。計画は誠さんの立てたものを基本にそれぞれ動くこと。能力が万一発現しそうになっても使用はなるべく控えること」


 那毬の言葉に、二人が黙って頷く。


「あと、死なないこと」

「うぃ」

「努力はするよ」


 とうとう目の前に引き出された獣を前に、三人はそれぞれ武器を構えた。


「……ごめん無理かも」


 檻から出されたその獣に、早くも留が泣き言を言った。

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