第三話 転生した理由 ①
グランクロスの王だった野村は……いや、マクシミリアンだったか? 呼びにくいな……とにかく、そいつが椅子に深く座り直し、続けてきた。
「予言の事は、おおかた聞いているかな?」
「あぁ……まぁな。俺が魔王にとか……なんとか」
本当にふざけた予言だわ。そんなの、決定した事じゃねぇだろうが。あくまでそうなるかも知れないってだけなのに、なんでこんなにも信じるんかねぇ。
「下らねぇな……予言なんて、当たりゃしねぇよ!」
俺のいた世界でも、ノストラダムスだっけか? そんな大昔の予言者の予言で、一部の奴等が騒いでるみたいだし、クラスの奴等も、たまにネタにしていやがったな。
だがな、結局何も起こらねぇんだよな。予言者なんて、人を怖がらせる事しかしやがらねぇ。
だから、俺はその聖女とやらを睨んでおいた。すると、そいつはちょっと体が強張ったと思ったら、顔を赤らめて、俺から顔を逸らした。なんだ? いったいどうしたんだ?
「予言なんて当たりはしない。確かに、君のいたあの世界の予言は、精度が低く、当たる事はまずあり得ない。だが、こちらは違う。それが『特異力』だからなんだよ」
「なっ……」
予言そのものが『特異力』というわけか……ということは、夢とかイメージが頭に湧いてくるとか、そんな曖昧なものじゃないって事か。
「だから、彼女の予言は……当たる。というか、皆に分かりやすく予言と言ったが、彼女の『特異力』は、未来を見る力なんだ」
「未来を見る? おいおい、予知ってやつか」
「そう、その通りだ」
それはそれで信じられないけどな。予知って、そんなのあったら何も苦労しねぇだろうな。
すると、なにか気に入らなかったのか、その聖女が俺の元までやって来た。
「あなた……あと数秒後に叩かれます」
「はっ? 痛っ?!」
ちょっと待て、お前が手にした杖で、俺の頭を叩いただけだろうが、それのどこが……。
「その後、私を止めとしてつんのめってコケます」
「はぁ? 何言ってんだ、とにかくこじつけは……うぉっ!! った!」
マシで自分の足を踏んづけてコケてしまった。嘘だろう……。
「てめぇ、名前はなんて言うんだ?」
「この後教会に来られるので、私の名前はそこで」
何もかも分かってるって目をしやがって。くそ……そういう目が1番嫌なんだよな。
「彼女の能力は、最初はそれこそ誰もが信じないです。ですが、ものの数日で、全員信じてしまいます。それくらい、彼女の能力は強力なんです」
すると、そんな俺の姿を見たジュストが、俺にそう言ってきた。そしてその後、国王の方に視線を向ける。
「しかし国王、10年もどこかに行っていたのは、彼女の予言なんですか? 彼女はまだ、10歳で……」
「10歳と6ヶ月だろう。つまり、彼女は産まれて6ヶ月目で、予知をした」
年齢を出すのは良いが、何ヶ月かまで出すと、一気に幼く聞こえてしまうのはなぜだろうな。
「それが特異力と分かった瞬間、その予知は本当に、将来起きる事だと危惧したさ。そして彼女は、次々と予知をしていった。その魔王となる可能性のある者が、今どこにいるのか、どのような生活をしているのか、なぜこっちの世界に来る事になるのか……その全てを、予知したのさ」
それは恐ぇな。産まれて1歳もならない子が、いきなりそんなに喋る方が恐ぇわ。特異力のせいってか?
「しかも、私が直近で起こる出来事を、映像で頭の中に直接流し込まれたら、信じてしまいそうにもなるさ。それに、それが全て当たったら、尚更な……そこで、彼女の最初の予知も当たると考え、私は即座に行動に移した」
喋ってなかったのか、頭に映像を流し……って、そっちの方が凄くねぇか?! いや、落ち着け。ここは、そんな不思議が起きる世界なのか……。
とにかく、俺は慌てる事なく、国王の顔を見ながら確認をする。
「そうか、それが俺のいた世界に来た理由か……」
「あぁ、そうだ。あのままあの世界にいたら、お前は2年後には、魔王を超える、とんでもない存在へと成り果てていただろう。だから私は、それを阻止しに行ったんだ。下手したらその状態で、こっちの世界にも移動されかねなかったからな」
俺って、そんなにヤバい奴になっちまうのか?
あっちはこんな世界とは違う。魔法やら、特殊な能力は一切存在しないし、ましてやモンスターもいない。どうやったら、そんなとんでもない存在になれるんだよ。
「やっぱ、あいつの予知も100%ってわけにはいかなかったな。どうやったら、俺がそんなとんでもない存在になれるよ? 魔法もモンスターもいない、そんな世界でどうやって……」
「ワームホール」
「あん?」
なんだ? なにか難しい言葉が飛んできたぞ? なんだワームホールって。
「お前の世界には、面白い研究があるな。世界はいくつも存在していて、それを平行世界と呼ぶ。そして、それを繋ぐ道が、宇宙のどこかにあると考えて、その研究に没頭している奴等がいるな」
「へぇ……」
「それが本当だとしたら?」
「なに?!」
おいおい、待て待て……ここは異世界と思ったら、平行世界とか、そういう難しい話になるのか?! おい!
「この世界、何と言ったかな?」
「あっ? たしか……混血世界、アマルガ」
「そう、それはつまり……この世界は全ての世界と繋がっていて、その世界の全てのものが流れ込んでいる、極めて渾沌な世界という事なのさ。おっと、それを詳しく説明したかったが、そろそろお前の頭がオーバーヒートしそうだな」
「おう……」
難しい話は止めろっての……見ろよ、ジルの奴ですら……と思ったら、興味津々で聞いてやがった。
「とにかくだ、私はある者の力を使い、お前の居る世界へと飛んだ」
「ある者?」
ぼかしすぎなんだよ……ある者って誰だよ、いちいち聞かなきゃならないから、面倒くせぇわ。
「魔王さ……不本意だったがな。しかし、魔王は改心していたから、快く協力を……」
「ちょっと待て!! 魔王って倒されてないのか?! まだいるのか?!」
「いや、倒されたよ。その後生まれ変わってるんだ。ほら、君の顔の横でフワフワ飛んでる奴だよ」
「……へっ?」
俺の顔の横でフワフワ飛んでるのは……妖精の奴だけだが……あっ、ま、まさか!!
『全く、今ここでそれ言う? あっ、は~い。昔ここで大暴れさせて貰ってた、魔王のリアンちゃんで~す』
「…………」
「顎でも外れたかい? パクパクと鯉みたいになって」
驚いて言葉を失ってるんだ、バ~カ。
ちょっと待て、俺の直ぐ近くに生まれ変わった魔王がいたら、それこそ予知通りになるだろうが!!
『あっ、安心してよ。今は改心したからさ。というか……閻魔様の命令なんだけどね……さ、逆らったらどんな目に合わされるか……うぅ……ブルブル』
恐怖で震えてやがる。魔王を恐怖で屈服させるとか、閻魔すげぇな。
「とにかく、私も特異力持ちでな。色んな人と契約を結べるのさ。それこそ、冥界の番人でもな。あぁ、お前の世界では閻魔大王だったな。流石に神様は無理だがな」
お前の『特異力』も相当じゃねぇか、おい。なんだその、簡単にトップにいけるような能力は……。
「それで、閻魔大王に頼んだのさ。君の魂を、私達の世界に移動させてくれないか……と。だが、それには条件があった。誰かこっちの世界の人間が、君の居る世界に行かないといけなかった。接点を作らないといけなかったのさ」
なるほどな……つまり、全く関わりのない世界には、飛ばせないってわけか。そんな事が出来たら、どんな奴でも、死んだ後に異世界に行けちまうよな。その世界と、繋がりを作っておけばだろうけどな。
「なるほど……国王、あなたその為に……」
「そうだジュスト。彼の魂をこちらの世界に連れて来て、更正させれば、良い予知の通りになると思ったのさ。彼女の予知はな、大きな分岐の予知が、1番得意らしいんだ」
それで、悪い方向になるか、良い方向になるかは、出会う人次第、何て言う予言になったのか……。
あ~良い迷惑な予知だな。それだけで、俺は殺されたってのか?
「てめぇら、それだけで俺を殺されるように仕向けやがったのか」
すると、国王はいきなり黙り込むと、なにかを迷うような表情を取り、そしてその後、ゆっくりと口を開いた。
「いや……実は……お前を死なせる予定ではなかったんだ。お前は、そのまま私達の世界に連れて行こうと思っていたんだ。だけど……予定外の事が起こった。君は、殺されてしまった」
「なに?」
ちょっと待て、つまりなにか。俺があの狂ったガキに殺されたのは、マジで偶々だったのか?
「実はな……胸騒ぎがした私は、その時君を探していたのだよ。そして見てしまったんだ。正直焦ったよ。その瞬間、君の体の中から、どす黒いものが湧き出てきた時はね……」
そして……更に重い口調で、国王は続けた。
「既に予知は……外れていたんだ」
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