繁栄の精霊

「その精霊がどこに居るのか探知できるのか」


 レアルの探知能力はかなり低かったはず。それなのに精霊を見つけ出すと言うことが出来るのだろうか。例え見つけられたとしても、倒すことが出来るのかが疑問だが。


「丁度、近くに来てるんだよ。出て来いよ」


 レアルが扉の方に声をかけると、開かれた。そこに居たのは黒いフード黒ローブで、口元しか見えない怪しい人物だった。どう足掻いても精霊には見えない。


「ギヒャヒャ! オモシレーこと聞いちまったから、逃げ損ねたじゃねーか」


 面白いこと? つまり、エルフェの話の時点からこの場所に居たと言う事なのか。全く気づけなかった。これはマズイかもしれない。近くに精霊が潜んでいても想定できず、奇襲を受けるかも知れないという事なのだから。


「それじゃあ、早速。処理していくか」


 レアルはハンドガンをこの怪しい精霊に向ける。大丈夫だろうか、相手が何をしてくるか解らないのにそんな単純な方法で。


「おっと、降参だ」


「ちょっとアンタ諦めんの早くないか」


 その精霊は両腕を上に挙げて降参と言っている。そういえば、初めから何かしてくる訳でも無かったし、争う気は無いのだろうか。


「俺は第9位、繁栄の精霊グリアだ。まぁ、ヨロシクな!」


「いや、よろしくされても」


「よろしくする気なんて無いよ。アンタはアタイに撃ち抜かれれば良いだけだ」


 急に降参された挙句、よろしくされても困ってしまうし、レアルはよろしくしたくないみたいだ。何を考えているのだろうか、全く想像できない。


「いやいや、ヨロシクしようぜ。お前等にとっても利益のある話なんだからな」


「どういうことだ」


「ギヒャヒャ! 話がわかるじゃねぇか。精霊ってのは概念的な存在で、力を供給され続ける限り不滅と言っても良いんだぜ。お前達では完全に精霊を倒しきるのは難しいって訳だ」


「大元のエンシェントを倒せば良いだけだろ」


「精霊に邪魔されながらエンシェントを倒せるっていうのなら話は別だけどな!」


「チッ。何が言いたいんだよ」


「ギヒャヒャ! とりあえず俺を生かしといてくれれば良いんだよ。俺は精霊特有の魔法等への耐性は持っているが、他の精霊と違って生身だから物理が普通に効いちまうんだ。さて、俺が提供するのは、情報と精霊への対処だ。どうする?」


「それで良いのか?」


 グリアがやっている事は秩序側への裏切りだ。それも積極的に仲間の情報を流すどころか、対策までするという。都合が良すぎる、信用して大丈夫か?


「ふーん。確かに精霊を倒しきるまで何回もやっつけるのは骨が折れるからな。アタイとしてはまぁいいかな」


「ギヒャヒャ! 交渉成立だ」


 成立してしまった。まぁ、精霊が倒しきれないのなら手詰まりな為。協力してもらえるのなら、してもらった方がいいのだが。


「先ずは、情報をもらおうか」


「解ったよ。いまの所起きている精霊は、フロウとブレスだけだ」


 予想以上に少ない。グリアが9位と言っていた。少なくとも9体の精霊は居るはずなのに、その半分も目覚めていないのか。


「アタイは既に5体か6体位は目覚めていると計算してたんだが」


「エンシェントは第1位、虚な宇宙の精霊メランを起こそうとしてるからな。そのために力を貯めてるんだよ」


「アレが目覚めたらアタイでも対処しきれるかわかんねぇな。そうなると、メランが目覚める前にエンシェントを倒さないといけないって訳か。他の精霊を倒しきるまで何回も戦う時間はないな」


「ギヒャヒャ、そういうこった!」


 つまり、初めからグリアに協力してもらわなくてはいけなかったと言う訳なのか。疑問点が2つくらいあるな。


「グリアには精霊を倒す力があるのか?」


「ねぇよ。俺は最下級の精霊だぜ? 倒しきれる訳ねぇじゃん!」


「それなら、初めから話が破綻している」


「ギヒャヒャ! 対精霊の秘策が俺にはあるんだよ。まぁ、その時を待ってろ。驚かせてやるからよ」


「どうして協力してくれるんだ」


 ここがわからない。どう足掻いても秩序側のほうが有利なのだから。どうして裏切る必要があるのか。


「俺にも思うところがあってだな。秩序側の現状維持も、この状況で続けてて意味があるのかってな。見てみろよ、この世界を。現状維持よりは何かを動かした方が良いんじゃないか。そう思っただけだ」


「だから、秩序側を倒そうとしているのか」


「ギヒャヒャ! そういうこった」


 勢力が同じと言っても、思考まで同じと言う訳じゃないか……。派閥がどうのと言っていないで同じ目的を持っているなら、協力した方が良いのだろうな。


「そういえば、精霊は全員で何人居るんだ。9人か」


「宇宙が生まれ、時が流れ、法則により星が生まれ、大気が巡り、雨が降って潤す、内部の熱が噴出せば、大地が生まれ、生命が溢れ、繁栄する。だけどな、終わりもあるから全員で10人だ」


「でも、その中で起きているのは3人か」


「あぁ、早めに動いた方が良いのは間違いないぜ」


「アンタ、他の精霊がどこにいるか解るか」


「今は〈ロウティバ〉に居るな。俺は先に行って潜んでおくから、早く来いよ。あの2人を弱らせてくれたら、後は秘策で何とかするからよ」


 それだけいうとグリアは去っていった。確かに早めにどうにかした方がいいのだろう。


「レアル、移動頼む」


「待って、神聖の管理者が近づいて来てる」

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