第25話 荒れ狂う漆黒

地下20㍍の暗い実験室で、添木が強く言い放った「戦闘を開始するッ!!」という言葉を皮切りに皆が一斉に動き出す。パワードスーツを装備している添木と祐介が電動機械銃エレクトリック・マシンライフルを対象の合成変異個体に容赦なくブチ込んでいく。しかし、その全ての攻撃が黒く硬い表皮に弾かれていった。


「この合成変異個体やべぇな。高さは約6㍍、全長はそれ以上はあるな。」


「ああ、ベースは間違いなくオオカマキリ。そしてこの硬い表皮はオオエンマハンミョウのものだろうな。後ろ足はリオックと似た形に変異してる。この施設に残されていた変異個体同士が争い、その中で生き残るべく変異していったんだろうな。羽も大きな変異を起こしているようだ。」


「遺伝子変異鉱石の力...か。」


「だろうな。周りの死体の状況から察するに、獰猛な性格なのは理解できた。早くけりをつけないとまずいことになる。」


添木は温度差脳内立体視サーモ・ステレオ・ソフィックを駆使して対象の弱所を探ろうと試みる。先程、祐介に添木が言った通り、形はオオカマキリに似ており、後ろ足だけがリオックの強靭な足へと変貌を遂げていた。この変異は移動時の加速度が上昇している可能性がたかいことを示唆している。それだけの合成変異ならまだ良かったのだが、オオエンマハンミョウの硬い表皮を身に纏っているため銃弾が通用しない。オオカマキリの最大の弱点は肉体の、特に腹の部分の脆弱さにあったというのに、見事に克服されてしまっていた。


「この中で生き残るのならオオエンマハンミョウだと思っていたんだが...」


「同感だぜ、添木ッチ。普通に考えれば攻撃力、防御力、俊敏性、全てを兼ね備えたオオエンマハンミョウの変異個体が生き残るはず。多分、ホントならそうなるはずだった。でも、ここには遺伝子変異鉱石があった。だから、弱かった大カマキリにも合成変異というチャンスが巡ってきたんだろうな。周りの長所を取り入れ、そして、自らの最大の武器である大鎌も健在...。とんだチート個体だな。そんで、弱所は見つかったのか?」


「いいや、これと言って存在していない。」


「やっぱりな。ここにいた変異個体を全滅させれるだけの力を持ってんだもんな。だったら...」


「ああ、殺虫グレネードと焼却で対応するのが最も無難だろう。これまでの攻撃で奴の注意は完全に僕たち2人に固定された。莉菜は燃性の殺虫グレネード弾の準備を、そして、実動部隊の皆はランチャーを装備して待機。タイミングはそちらに譲渡する。」


運搬随行機デリバリー フォロウからロケットランチャーを取り出し皆が構えの姿勢に入る間、添木と祐介は休むことなく攻撃を続けていく。莉菜は既に両手に殺虫グレネード弾を装填したミニランチャーを構えていた。今この状況だけを見れば、人間側がしているように見える。が、皆一つの違和感を有していた。それは、戦闘が始まってから一度も合成変異個体が元居る場所から動いていないということである。莉菜は思考を巡らす。


――奴が一度も動いていない理由。それは動く必要性がまだ一度もなかったからだと考えるのが妥当。だとすれば、この合成変異個体の強さは計り知れない。殺虫グレネード弾を撃てば、この個体が気門で呼吸している限り、動かざるを得ない。そうなれば、奴の攻撃対象が私に変わるかもしれない。


「それでもッ!!」


両手のミニランチャーから放たれる2発の燃性の殺虫グレネード弾。その次の瞬間、添木と祐介に気をとられいると考えられていた漆黒のオオカマキリの身体が動く。しかし、それは移動をしたというわけではない。強固な防御力を誇っていた羽が展開し、大きな壁となって殺虫グレネード弾の進行を阻む。通常とは異なる羽の生え方をしているようで、完全に飛行する目的ではなく、身を守る盾へと変化を遂げていた。殺虫グレネード弾の霧は対象の前に拡がっていく。これでは対象の気門から殺虫成分をくれてやることも、引火によるダメージも期待出来ない。


「なっ、なんなの?この羽の形状は...。」


「いや、莉菜ッチ驚くべきはそこだけじゃねえぜ。こいつ全くもといた位置から動こうとしやがらねぇ。まさか、この個体動かないのではなく、動けないのか?余りに防御力を重視したせいで身体の重量が増している。これだと俊敏な動きは封じられるはず...。」


「いや、待て。そのための発達した後ろ足だろう。油断はするな。莉菜はもう一度グレネード弾の準備だ。」


確かに、この合成変異個体の身体は胴体の割に、リオックベースの後ろ足以外の移動に使う足はどれも貧弱な足ばかりだった。これでは容易に身体を移動させることは困難。しかし、問題はそれを補って余りある防御力。そして、まだ一度も動かしていない大鎌の存在も侮れない。

しかし、添木と祐介はある部位を弱所として候補に挙げていた。それは羽の内側。防御のために羽を展開している今ならば、肉質の柔らかい内部に銃撃をくらわせることが可能である。合成変異個体オオカマキリを注視しつつ、双方がバシュッと左手からアンカーを天井に撃ち出すと同時に、パワードスーツの推進装置ブースターを利用し奴の展開している羽の付け根に照準を合わせる。


「「死ね」」


二つの銃口から静かに撃ち出された弾丸が、実験室内のよどんだ空気を穿つかのように真っ直ぐに狙った場所へと飛んでいく。その刹那、二つの小さな銃弾では到底生み出すことの出来ない大気の震えが生じた。余りの急展開にその場にいた全員が状況を正確に飲み込むことが出来ない。それでも、状況は否応なく変化する。


「うあぁぁあああああっ――」


実験室に響き渡る悲鳴。それはロケットランチャーを構えていた実働部隊の1人、ダンが巨大な漆黒の影からのびる大鎌に捕まったことによるものだった。そして、被害はそれだけでは終わらなかった。


「莉菜ッチっ!!」


合成変異個体が実動部隊の方へ移動する際、奴の巨体が莉菜の小さな体をかすめていたのだ。幸い、スーツを着用していたため大事には至ってはいないものの、祐介は莉菜から視線を背けることが出来ない。

そんな全体の状況を温度差脳内立体視サーモ・ステレオ・ソフィックにより俯瞰する添木は、躊躇なく燃性の殺虫グレネード弾撃ち、すぐに次にとるべき行動を考えていた。


――奴の元居た位置から、今仲間を襲った位置まで十数㍍以上ある。瞬きすら許されないほんの一瞬だったが、あの後ろ足を使用すれば、あのサイズ、あの重量で移動可能なのは分かった。ダンを救出することはもう叶わない。ならこの犠牲を無駄にせぬためにも、対象がダンに集中してる内に攻撃を仕掛けるのが得策。ただ、今撃ち込んだ殺虫グレネード弾を発火させるには、周りにいる実働部隊の退避を待たなければいけない―ッ!!


ガキーンッ!!


コンマ数秒で、添木の思考を強制的に停止させたのは、寸前に自分が撃ったグレネード弾が弾かれた音だった。


「なっ、グレネード弾を鎌で弾き飛ばしただと!?なんて動体視力だ。」


決してグレネード弾の速度が遅いわけではなかった。しかし、奴はそれに鎌一本でうまく対応してきたのだ。いや、合成変異個体カマキリ自身も凄まじい速度で移動しているのだから、動体視力が凄まじいのは当然のことかもしれない。添木は思考を巡らせていた。活路を見出すために!!


「祐介は莉菜のところから燃性の殺虫グレネード弾を撃ち出す用意を!実動部隊の皆さんは急いでそこから離れて!これ以上、殺させない!!」


添木の目は闘志に燃えていた。ただ単に仲間を助けたいからだけではなかった、自らの存在価値を見出すためにも眼前のこの化物を処理する必要があった。添木はワイヤーと推進機を駆使し合成変異個体との距離を詰めていく。その間にも、先程撃ったグレネード弾の粉末が地面へと落ちていき、引火出来ぬ状態になる。ただそれは、再び引火を恐れることなく銃撃の嵐に晒すことが可能になったことを意味した。回避運動をとりつつ猛攻を加える実動部隊の面々。しかし、その表情が凍る。それはバキバキッボリボリッと非常に発達した大顎により先程捕まったダンが食されていく光景があまりに生々しかったからだ。実動部隊の皆はパワードスーツの着用をしていないため攻撃を一度でも食らえば、ほぼ100%死に至る。その事実を今再認識した。


「うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」


添木がパワードスーツに装備されている試作品の漆黒のブレード超音波切断刀ウルトラソニック・ブレイドを左手に、電動機械銃エレクトリック・マシンライフルを右手に固定した状態で、合成変異個体の頭上へと飛び掛かる。合成変異個体がこの接近に気付かないはずがないことは十分に承知していた。奴の視力なら添木に狙いを定めることが容易だとも理解していた。だからこその指示だった。


4発の燃性の殺虫グレネード弾が既に灰色の煙を噴射しながら、合成変異個体と添木の間に目掛けて撃ち出され、ちょうどその双方の間で炸裂した。この毒霧の中で双方とも相手を視力で捉えることは不可能。互角の勝負に持ち込むことが出来る。いや、添木の場合は温度差脳内立体視サーモ・ステレオ・ソフィックにより一方的有利な状況へもっていくことが成功するのだ。これこそが指示の狙いだったのだ。煙に紛れ、位置エネルギーを運動エネルギーに変換しつつ、ブレードを構える。


――まず、最初に奪うのはその視力だ!!


ブンッと大鎌が霧を切り裂くように振り下ろされる。視力が封じられても、本能で添木の位置に当たりをつけているようだ。しかし、添木は能力でそれを見切り空中で身を翻し華麗にその攻撃をかわし、射程距離内に入った瞬間、ブレードを激しく振動させ、対象の片目をぶった斬る。地面に着地した後、その流れのままに真ん中の足を2本の切り落とし、ダメ押しの一発としてその場に爆弾を落とす。


推進装置ブースターを出力全開にし、アンカーを合成変異個体の死角となった壁に射出し、急いでその場から離れようとする添木。その意図を完全に読んでいた祐介が同じく死角側から燃性の殺虫グレネード弾を撃ち込む。実動部隊の皆も、ロケットランチャーを対象に向けている。


「チェック・メイトだっ!!!」


真っ暗な実験室内に大爆発を光源とした閃光が拡がる。しかし、その光をバックライトに、その轟音をバックサウンドに、が爆風にのってロケットランチャーの射出ポイントへと再び大跳躍する。その無駄のない動きに実動部隊の命がまた1つ刈り取られる。どうやら、奴の半分になった視界に回避運動をとりつつ対象を取り囲もうとする実動部隊が入ってしまったようだ。


「あの爆発すら避けきっただと...そして、また...」


「添木ッチ。」


対象の死角で再び武器を構えなおす添木のもとへ、祐介と莉菜が駆けつける。


「莉菜の損傷は?」


「私は大丈夫。スーツの損傷もそこまで大したことはないわ。」


「そうか。ならいい。僕たち3人で奴の動きを封じるしかない。スーツ無しで奴の身体に傷をつけることは困難だ。もう既に2人死んだ...このままでは埒が明かない。」


「かと言って、名案も無いんでしょ?」


「ゴリ押しだがこのスーツに搭載されているブレードで奴の後ろ足を切りとるしかないだろうな。奴の真ん中の足を切断したが別段影響が無かった。体のバランスをとっているのも、移動を可能にしているのも、全てあのリオックベースの後ろ足だ。」


「俺も添木ッチの意見に賛成だが、その作戦に少し追加したいことがある。」


「それは?」


「ここを生物が存続できない状況へ誘うんだ。つまり、ここの酸素濃度を限りなく0にして、二酸化炭素濃度を上げる。奴の足を切断するのは俺達パワードスーツ組だけでいく。俺たちのスーツにある酸素ボンベを消費しきってしまう前に、俺達が奴の足を切断するんだ。そして、実動部隊のみんなには、もう一度入り口の扉を開けてこの部屋から脱出してもらう。作戦が完遂されれば合成変異個体はここで動けないまま、呼吸困難で南無阿弥陀仏だ。」


「確かに、直接的に殺すだけが奴の処分方法では無いな。それでいこう。実動部隊の4人はもう一度部屋の扉を開けて退避。莉菜は援護射撃。僕と祐介で足を切断する。運搬随行機デリバリー フォロウは莉菜の指示で動かせ。」


添木は残り少なくなってきたパワードスーツのエナジーに気を配りつつ、祐介と共に合成変異個体の死角から接近を試みる。対照的に、一体の運搬随行機デリバリー フォロウが、莉菜の指示で奴の視界に入るように動き始めた。


――この部屋を炎で満たす。燃やし続けることは困難だけど爆発を繰り返せばこの部屋の酸素は消費されいずれ無くなる。それを成し遂げるための囮、運搬随行機デリバリー フォロウは私の指示通り上手く動いてる。


「それに私が続く。」


再び、燃性の殺虫グレネード弾を装填したミニランチャーを2丁両手に構える。目くらましと火薬としての役割を備えたそれはボシュッと対象へと撃ち出される。その音に反応をみせる合成変異個体だが、既に莉菜はその毒霧の陰へと身を潜めていた。


その隙に添木と祐介が、目標の足に漆黒の刃を振り下ろそうとするも、同じく漆黒の鉄壁のかべに阻まれる。ブレイドの優れた切れ味で羽の一部を切り裂くも、効果的なダメージを与えることが出来ない。


「なぜだ!?完璧な死角からの攻撃だったはずなのに...」


「添木ッチ...こいつは頭も相当キレるらしいぜ。さっきまでの俺達の攻撃パターン全て、殺虫グレネード弾を初撃にしたもんばっかだった。そして奴は自分の脆い部分が足だと把握してる。だからこいつは今の殺虫グレネード弾の煙が噴射された瞬間に俺たちの攻撃を見切って、羽を展開して足を守ったんだ。さっさと殺らねぇとマジに詰むぜ...」


「俺達3人の連携で対象の予測を超過するしか方法はない。実動部隊全員がこの部屋の扉を解放するまで、こいつの注意を引きつつ、足に攻撃を仕掛ける。そして、酸素を消費するだけでいいんだ。もちこたえるぞ。」


炸裂する殺虫グレネード、大気を切り裂くカマの斬撃、それをギリギリでかわしながら接近する2人、それを大跳躍や漆黒の羽で対処する合成変異個。爆発音に混じって堅固な体表に弾かれゆく銃弾の音が響く。同じことの繰り返しの中に、相手を仕留めるための隙を見出そうと、激しい命のやり取りが繰り広げられていく。そんな中で、少しづつ追い詰められていくのは人間だった。


「祐介っ!上ッ!!」


莉菜の声が祐介に凄まじい速度で迫りくる物体の存在を告げた。


――鎌か...両の刃で俺を挟むつもりか。


祐介はチラリと間近に迫ったそれを一瞥し、左手で漆黒の刃を構えた。そして、次の瞬間、向かって左側から迫る鎌に超音波切断刀ウルトラソニック・ブレイドが触れ、圧倒的な切れ味の前にボトリと切り落とされる鎌の一部分。しかし、反対側から迫り来る鎌に対応が追い付かない。それは祐介自身よく理解していた。


――避けるしかない。


バッと身をかがめる祐介だが、合成変異個体もそれに合わせて、鎌の軌道を修正する。絶体絶命ッ―とは彼は感じていなかった。ガシンッガシンッと祐介の背後から近づく四足歩行の物体が屈んだ祐介とカマキリの鎌の間に跳び込む。ガシャーンッと攻撃をもろに受ける運搬随行機デリバリー フォロー。それを盾にした祐介のダメージは、吹っ飛ばされた運搬随行機デリバリー フォローの足がスーツに少し当たる程度だった。


「ナイスタイミングだぜ、莉菜ッチ!」


運搬随行機デリバリー フォローの完璧な動きに惜しみない称賛を贈る祐介。そして、すかさず添木が一部が欠損した右鎌を有する右前足を、振り子運動の過程で根元から切り落とした。


「動きが...少しずつだが、のろくなってる。順調に酸素濃度が薄くなってる証拠だ。」


そう言う添木のもとに待ち望んだ報告が届いた。


「こちら実動部隊ホォツイだ。扉を開け、全員の退避が完了した。扉の前にロケットランチャーを4本地面に設置してある。最後にこれを撃って全員で脱出しましょう。自分はランチャーの位置で待機しています。急いで!」


「目的の足はまだ切れていないが、この酸素濃度ではこいつも長く持たないだろうな。それにもうすぐ僕と祐介のエナジーも尽きる。莉菜、祐介、今は無理をするより退却だ。」


「「了解」」


2機の運搬随行機デリバリー フォローを囮にして、3人が入り口の扉へと駆け出す。


「損傷度合いは羽に軽傷、片目破壊、前足1本、中足2本...まあ、上出来だろ。」


「ああ。やつと出会ったのが光合成樹林内じゃなくてよかった。」


「そうね。ここじゃないとこんな爆発物を使った戦闘出来ないものね。」


3人がこの戦闘について講評をする。もう目の前に扉が見える。この扉をくぐり、扉を閉めれば奴は勝手に死んでくれる。そう3人が思った。


ガッシャァァァァァーンッ!!!


そんな3人の背後でガラスが砕かれる音がした。


「なんだ!?」


「ただの悪あがきだろう。変異個体をしまってあった強化ガラスを割っただけだ。」


振り向かずとも添木の能力なら状況を把握できた。


「ガラスを割った!?!?マジで言ってんのか?」


焦る祐介に、添木は「そうだと言ってるだろ」と返す。その言葉を聞いた途端、祐介がありったけのパワーで添木をぶっ飛ばす。そして、自身もアンカーを扉とは離れた位置に撃ち込み、莉菜を抱きかかえその場を離れた。


「今すぐ入り口から離れろォォォォォッ!!!」


祐介はありったけの力で叫ぶが間に合わない。漆黒の死神が部屋の端から端へとかつてない大跳躍をみせたのだ。非対称となった鎌にはロケットランチャーを固定した場所で待機していたホォツイがガッシリと捕まっていた。もちろん、この速度での攻撃。握られただけで即死である。固定したはずのロケットランチャーも地面に散乱していた。


「どうして...この酸素濃度で動ける...」


添木は祐介に吹っ飛ばされたお陰で漆黒の重質量物体に潰されることなく、壁に激突していた。その疑問に答えたのは祐介だった。


「添木ッチ、見てみろよ酸素濃度。上がってやがる。こいつガラス割って、ガラスの向こう側の酸素をこっちの部屋に漏出させやがったんだ。」


「そんなバカな...」


人類の必死の抵抗を嘲笑うかのように、尽く上をいく合成変異個体。最早、勝つ手段は無いのだろうか。ホォツイの犠牲により、実働部隊の数は3人。もう半分にまで減ってしまった。


「添木ッチ、作戦立案していいか?」


「ああ...なんだ?」


「俺たち二人で殿しんがりを務めよう。そして、莉菜ッチと実働部隊の皆に一度上まで退避してもらおう。」


「どうして、私は退却側なの?それに隙を見てみんなで扉から脱出すれば、大きさ的に奴は追ってこれないでしょ。」


祐介の判断に難色を示す莉菜に祐介が答える。


「退却側にも1人はスーツ持ちが必要だからな。それに、確かに、奴の今の大きさなら追ってこられる心配はない。だけど、あいつは生き残りの合成変異個体だ。奴なら俺達を追うために新たな変異をして追ってくる危険性がある。あれをこの部屋から出してはいけない。それが俺たちの任務だ。」


正論には反論出来ない莉菜。


「祐介の言う通りだ。それで行く。」


添木が再び銃を対象に向け容赦なく乱射乱撃を加えていく。祐介もそれに続こうとするが、その前に莉菜に話しかける。


「莉菜ッチ、浮かない顔すんなよ。また、上で会おうぜ。」


「生きて帰らないと殺すから...」


「どっちにしろ俺死ぬじゃないの... 行けよ、莉菜ッチ。」


「うん。」


2人は逆方向に駆け出した。添木が退却組4人全員が扉の中に入ったのを確認する。今は扉を閉める作業が非常に危険なため扉は空いたまま4人はその場を後にした。上とここを隔てる扉はまだある、それに2人がしっかりカマキリを処分すれば何も問題ないからだ。


「俺たち二人になっちまったな。」


「不本意ながらな。」


その男たちには退けぬ理由が確かにあった。



















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