第6話 by Arisa.S
似たような経験を何度もすると、脳内はひどく冷静になるらしい。
何度目かわからないあたしの失言に、友里は――中尉は、机を思い切り叩いた。
「いい加減にしたらどうだ」
視界の端で、万意葉が志保を連れ出しているのが見えた。あとで万意葉にはお礼を言わなければ。
「佐々倉有砂。『自分の部下をみすみす殺すような真似はしたくない』? そのような甘い考えで、今までよく軍人をやってこれたものだな。軍人の仕事は何だ?」
「国民を守ることです」
「そうだ。国民を守る過程で、軍人が亡くなるのは致し方がないことだと、士官学校時代からずっと教わっているだろう」
「はい」
「……それだから隊長になれないんだ」
それだけ言い捨てると、友里は面談室から出た。大きな音を立て、扉を閉めたところを見るに、友里は相当ご立腹だ。
そう、なぜあたしより年下の友里が隊長で階級も上なのか、自分でもわかっている。よく「お前が隊長じゃないのか?」と聞かれるけれど、友里を差し置いてあたしが隊長をやるなんてとんでもない話だ。
友里は、あたしと違って仲間の死をいちいち悲しまない。
こう言うと友里が血も涙もない人間だと思われてしまうが、そういうことではない。友里は普段、仲間をとても大切に思っている。鈴の件だって、前例がないことなのにも関わらず、受け入れてあたしに相談してきている。
大庭隊を設立するにあたって、友里と話しているうちに、あたしは思わず目を丸くしたことがある。あたしのほうが年上な分、士官学校卒業が早くて先に軍人になってしまったが、軍隊に関わっている年数は友里のほうが実は長い。というのも友里は、七歳で母親を亡くしてそこからずっと軍隊で暮らしてきたのだ。
人の生死を七歳から見せつけられ――軍隊では人が死ぬのは当たり前だと、そう思うようになってしまったらしい。その考えは、「必要とあらば仲間を見捨てられる」と曲がった解釈をされ、皮肉なことに中尉という階級、隊長の座をもらえるまでに至った。
「『軍隊の駒』……」
友里はあの日、確かにそう言った。「軍隊の駒、自分自身のことをそう認識している」と。そしてこうも言った。「そう思わないと、戦場に出ることなんてできない」と。
二十五歳の女性が、いつ死ぬかもわからない戦場に先陣きって出ていくのだ。それはそれは怖いことだろう。しかし友里は隊長だ。怖い、と言えない立場にある。
だから自分を「駒」と言って、軍隊に使われることを選んだのだ。駒と言えば、誰かが死んだときも「駒だから」と人員補填にも納得できる(少なくとも友里はそう思っているらしい)。幼少期からの生活環境で、彼女の心は壊れているのかもしれない。そんな友里を見たくないがために、あたしは仲間を守る。自分の部下をみすみす殺すような真似はしたくない。
あたしは、友里に隊長という責任を押し付けている、弱い人間だ。
「さて、今から夜戦演習を行う」
「今回は総力戦演習でもあるわ。全員で出撃よ」
演習前、出撃前は、友里とあたしが前に立って説明を行うのがいつもの流れだ。
演習とはいえ、戦闘を行うことに変わりはない。友里も普段のお茶目な雰囲気ではなく、中尉として振る舞う。ちなみに友里は、一回怒ると次に会ったときには落ち着いているタイプだから、気まずさはない。
「前衛は
「「はい!」」
実空は友里と同じく生粋の前衛タイプ。身長が大庭隊で一番高く、一七〇センチの上背でもって、友里と並んで刀を振り回す姿は豪快でかっこいい。
有愛は母親がイタリア人というハーフで、あたしと名前が似ているのでよく間違えられるものの、乗馬ができることから戦闘スタイルはあたしと全く異なる。いち早く駆け抜けて索敵をしたり、愛用のボウガンで
「准尉がいれば前衛に入ってもらうつもりだったが、急遽本部に呼ばれてしまってな。相手にも伝えてある」
「相手は少数精鋭部隊で戦ってくれるそうよ」
「そして索敵、戦果報告は月城万意葉と、五十嵐鈴。頼んだぞ」
「「はい!」」
実空と有愛の二人が、鈴を心配そうに見ている。この三人は現在十九歳で、士官学校時代の同級生だったらしい。その代の女子はこの三人だけだから、仲良くなるのも頷ける。
「夜戦演習ということで、敵が奇襲を仕掛けてくる可能性は十分あるわ。動くときはいつもより気を付けること」
「勝利条件は『敵部隊の壊滅』。……遠慮はいらないぞ」
はい、とその場にいる隊員の声が揃う。そしてあたしたちは、演習に向かうべく部屋から出た。
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