本当の敵-01

 父が秘密裏にハンターらと共に追っていた灰色の狼を討伐する作戦。

 それは、呆気なく、リタたち≪レッドフード≫があの森に居たことによって失敗に終わった。

 リタ達が追っていた茶色の人狼は、細いが近くの村の女子供を連続して三人も捕食していた。

 口先がうまく、捕食対象と仲良くなってから油断したところを隠れて食べていたのだ。

 ラインハルトら≪ハンター≫と組んで、ようやく突き止めた。


(私たちの任務もとても重要だった)


 そう思ったけれど、リタは父に叩かれたときに、反論しなかった。

 ……あのとき、引き金さえ引けば、灰色狼をリタは撃つことができたからだ。

 ≪レッドフード≫が邪魔をしたわけでもなく、リタ自身の問題だった。


 だから、≪レッドフード≫の先鋭部隊から外されたとしても、仕方のないことだと思った。


                        × × ×


「今日から、こちらの隊を指導することになった、リタ=ヴィンダウスだ。今までいた部隊でも、作戦の指揮は執っていた。私が来たからにはこの部隊でも第一部隊と同じくらいの勝率に上げたいと考えている。以上」


 鳥のさえずりが聞こえる朝。

 ≪レッドフード≫本部隊がある宿舎とは離れた場所にある建物。

 村の一画なので、鶏が歩いていたり、村人がせわしそうに行きかっている。

 壁のない、敷地内でリタは赴任された先で朝礼をしていた。

 

 リタは、目の前に並ぶ赤ずきん≪レッドフード≫第二部隊の顔ぶれを眺めた。

 欠伸をしている者(そこまで早朝ではないが)

 髪をいじっている者(長すぎる髪だわ)

 すごい鎧を着ている者(重すぎて逃げることができないんじゃないの)

 木陰で休んでいる者(並ぶくらいしろ。そして何故誰も注意しない)


 リタらが今までいた部隊は≪レッドフード≫第一部隊。先鋭部隊だ。

 そして、降格された先がこの第二部隊。

 通称、はみだし者部隊。


 ≪レッドフード≫は志願さえしたら誰でも入隊できる。この第二部隊だって人狼に家族を食われた者、憎む者で構成されているが緊張感がない。


 髪をいじっていた女が手をあげた。化粧はばっちりだ。

「すいませーん、ということは≪ハンター≫と組んで狼退治することもありますかあ?」

「部隊のレベルを上げればそういうこともあるわ」

「イケメンハンターのラインハルトも来ることもある?」

「……そうなるわね」

 女は嬉しそうにガッツポーズをとった。

 モチベーションがそれで上がるなら良しとする。

 自己紹介をすることになったので、横に並べる。


「あたしはフィリーネ=ハーネと言います! 夢はイケメンハンターと結婚することです! ラインハルト狙ってます!」

 長い髪の毛を弾ませて、元気よく挨拶したのは先ほどリタに質問をしてきた女だった。

 赤いフードの下は私服だが、原色の派手な格好をしている。胸元が大きく開いているのも気になった。

「わ、わたしはアンナ=バルバラと申します。よ、よろしくお願い致します……」

 鎧を着た華奢な少女。銀の鎧だろうか。重そうだ。

 すぐ、脱げと言えば失神しそうなので追々言おうと思う。

「あたいはクロエ=ネタリカ。ここでは、一番の年上かな。おばさんだけど、力はあるからね」

 恰幅の良さそうな女は笑った。リタは、一番まともかもしれないと思った。

「アレックス=ゾンネ。この部隊で唯一、人狼討伐経験があります。ただ、そのときいっしょに人も傷つけたことがあり、はみだし部隊に降格となりました。あなたと同じく左遷組ですね」

 皮肉げに笑う暗い顔色の女。

 同じく、と言った言葉がひっかかった。

 きっと彼女の方が人狼を憎んでいる。人狼を前にすれば見境がなくなるくらいには。まるで父のようだ。


 他にもさまざまな個性的な者たちがいた。

 金目当ての者もいたし、衣食住の保証目当ての者もいた。

 総勢、20名。

 はみだし者部隊。なるほど、と自己紹介を追えてリタは思った。

 

 確かに、これははっきりとした降格であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る