《第77話》色付くものは葉っぱだけじゃない
陽射しも赤が交ざり、どことなくセピア色になってきた今日この頃。
薄手のコートやマフラーなど、少しずつ寒さをカバーするアイテムが増えて見える。
今年の秋のトレンドは寒色系ということで、ネイビーが目立つところではあるが、夏から引き続き赤やピンクなどもチラホラと見え、黒やグレー、カーキ色に染まりやすい秋の服がカラフルになるのは目にも楽しい気分だ。
「店の中の服って、秋使用とかないの?」
そう聞いてきたのは奈々美である。今日は優とパンプキンパイを食べに来てくれたのだ。
「カーディガンが増えるぐらい? でも結局は暖房入ればシャツにエプロンだし」
「ちょっと変化あってもいいと思うけど」
優はなにやらノリノリで検索を始めている。
「莉子さん、こういうの着たら?」
携帯の画面に出てきたのはメイド服だ。
「……どの顔して着ればいいんですかね」
追加の紅茶を出しながら無表情で言い返すが、2人は何やら思案中のようだ。
「ハロウィン、何着ようか……」
なるほど。そのせいでそんなコスプレまがいの衣装を検索しているのですね。
莉子は自分用のコーヒーをすすりながら納得するが、
「莉子さんはどんな衣装着るの?」
固まった。
そうだ、自分も着なければならないのだ!
頭を抱えた姿を見て、莉子の安易な企画であることを悟り、急遽そのまま女子会ならぬ、ハロウィン企画会議が開かれることになった。
営業を早めに切りあげ、自室へと2人を招くと、そこに用意されたのはパソコンである。
3人でぴったりくっつき画面に向かい、日本語で密林のサイトにつなげ、『ハロウィン 衣装』と打ち込んでみる。
次々に出てくる衣装に目を見張りながら、どれもなかなかピンとはこないものだ。
そう、なぜなら、ハロウィンというテーマはあっても、さらに掘り下げたメインのコンセプトを設けなければ、ただの仮装大会にしかならないのだ。
「……とは言ってもねぇ…」莉子がつぶやくとおり、どうしたものやら。
「2人はなんかコンセプト的なものはないの?
ここでみると、女海賊とか、魔法使いとか、色々あるけど」
「私達もなかなか決まらなくって。
でも赤ずきんとか、不思議の国のアリスとか、可愛いかなぁとか」
優も自分の携帯画面を眺めながら、首を傾げて答えてくれるが、やはり決め手になるような衣装は見当たらないようである。
そんな折、莉子の手が止まった。
「これ、なんか好きかも」
そう言ってでてきたのは、スチームパンクである。
「……なんてジャンル?」奈々美が聞くのも無理はない。
「スチームパンクってジャンルだ!」
食いついたのは優だった。
「こう中世の衣装と革と歯車とか、そんなのだよね?」
「そうみたい。コルセットとか、めっちゃカッコいいね」莉子が返すと、
「今年、なんか流行ってるね、コルセット」奈々美がさらに検索をかけて見ている。
「したら、スチームパンクにしよう!」優が立ち上がり、言い切った。
「「は?」」
「だって流行ってるんならそこらへんにも色々売ってるんでしょ?
これ見る限り、買い揃えてもそれほどかからないし、
アリスとか定番やるよりは、こっちの方が面白そうじゃん」
熱く語られる内容に納得はするが、今回初めてのイベントでもあるので、あまりドン引きするような衣装は避けた方がいいのではとも思うが……
「自分が面白くないものしてもしょうがないよね!」
莉子は言い切ると、画像を検索しては欲しいものリストに衣装を追加していく。
「莉子さん、動き早い…」
奈々美のとなりでは優が目をキラキラとさせながら画像を見てはにやにやしている。
「優も早いね…」奈々美はどうすべきかと思っていたが、優がいきなり奈々美の前に携帯を差し出した。
「奈々美、こういうの好きでしょ?」
そこに出されていたのは、フリルがいっぱいのショート丈のドレスだ。だがコルセットで大人な雰囲気が醸し出されている。
「これに白の網タイツ的なのとか履いたら、めちゃかわいくない?」
「……たしかに」
日頃できないの格好を、この日だけはしてもいいじゃない。
3人はそう決めると、おもむろに検索を進めては、お互いに似合いそうな衣装を提案し合い、どうコーディネートするかを煮詰めながら、さらにお店のコーディネートも組み立てていく。
やはり、女子が3人揃うと、強いものだ。
莉子はさらにブラウニーケーキとコーヒーを進呈し、さらに深く話をすることにした。
夜長の秋はいいものだ!
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