【旧】16だもん♪結婚したっていいでしょう
いすみ 静江
A いつか結婚するのは貴方
「もう、絵画館前のロケに間に合わないわ……!」
モデル兼、
「ああ、愛しのサンドイッチよ! 購買部は向こうの校舎なのよね。ちょっと不便だよお」
「あの……!」
後ろから声が
「はい、何かしら?」
振り返ると、ジーパンに写楽のTシャツ姿で、おっとりとした、一六三ある白蓮より一〇センチは上背のある男が立っていた。
そして頭をぽりぽりと掻きながら、恥ずかしげに下を向いていた。
どうやら、やっと声を掛けたと言う感じであった。
「今日、俺……。い、いや僕は、
怪しまれてはいけないと弁明していた風に白蓮は感じた。
「それで、何ですか?」
ちょっと冷たくしてみた。
白蓮は元々男性が嫌いで、子供は好きだから欲しいけれど、夫は要らないわと言う矛盾した考えを持っていた。
「の、喉が渇いてしまって、自動販売機はどこですか?」
背筋はピンとし、選手宣誓でもしそうな勢いであった。
「ここは、置いてないんですよ。花嫁修業らしいわ。お茶は当番制で、自分達で煎れているんですよ」
さっきよりは優しく説明してあげた。
「授業の合間に喉が渇いたらどうするんですか?」
「あはは。面白い方ねえ」
白蓮はマジで笑ってしまった。
「我慢するんですよ。ま、飲料は購買部で売っていますけどね。自動販売機は、ないんです」
さっぱりと答えた。
「な、なーんだ。あはは」
つられたのか、笑い出した。
「私ね、幼稚園から女子校だったし、怖かった父親も今は居ないけど、兎に角、ずっと男の人って笑わないのかと思ってた」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして白蓮は呟いた。
「あーははは、何? 同じ人間ですよ。そんな訳ないでしょう。優しそうなお嬢さん」
褒められたのか、
校庭で
智樹が一つ掌に乗せて愛でた。
「私は、新美白蓮。この白木蓮と同じ、白蓮。その命名をしてくれた親に仕送りをする為にモデルの仕事しているんだ。まあ、送っても余るから、残りはお小遣いね。うふふ」
「……苦労しているんだね。この白蓮の樹の前で君を撮りたいな。お母さんに送ってあげなよ」
急に真面目になった。
「苦労してないもん。いいよ」
ツンと言った。
智樹は白蓮の花びらを見つめた。
「これ、栞にして贈るよ」
智樹は、恥ずかしそうである。
「え? 何で私に?」
どきっとした白蓮。
「俺! 一目惚れしました!」
智樹は、ジュースの自動販売機なんてどうでも良かったのであった。
* *
「誰もいなくてもただいまー!」
それから、絵画館前広場での撮影が終わって、白蓮は一人住まいのポーラスター三〇三に帰って、涙ぐんでいた。
「やだ、どきどきしている……」
クッションを濡らしながら、『夢咲智樹』と言う人物について考えていた。
「これって、恋なの?」
自問自答をしていた。
「恋って甘酸っぱいものなのね……」
クッションを叩いてみた。
「亡くなったとはいえ、父からDVを受けていた私が、オトコなんかを好きになるなんて……。だって、あの笑顔みちゃったら、忘れられないじゃない?」
背伸びをして、時計を見る。
「もう、寝るか……」
不器用な白蓮であった。
* *
――数日後。
智樹は本当に白蓮の栞を持って来た。
「あ、ありがとう……」
コトバを選んだが、それ以上のものが見つからなかった。
「じゃあ、お礼に、珈琲でも如何? 好きなのが見つかると良いんだけど。ちなみに俺はモカが好きなんだ」
昨日とはうって変わって明るく気さくな感じだった。
高校に程近い喫茶「めるすぃー」を訪ねた。
アールデコを思わせながら白を基調にした不思議だがムードのある素敵なお店だった。
「俺はモカね、君は?」
常連と言った感じであった。
「白蓮って呼んで良いよ」
君だなんてちょっと可笑しいと思って吹いてしまった。
「じゃ、じゃあ、『白蓮』は何を飲んでみる?」
智樹は照れながらメニューを差し出す。
「同じのにします」
白蓮はにっこりと笑った。
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