第3話「離れるリハビリ」

「ねぇ、美琴ちゃん!!私の話、聞こえてる?もしも~し!!」


 私の顔面すれすれで手を横に振りながら話す親友の声に、ハッと我に返る私。


「ご、ごめ~ん。何の話だったっけ?」


「今日部活終わったら、どこに買い物行こうか?って話だよ~」


 この子は三枝紗代(さえぐさ さよ)。けやき商に入学してからの親友で、同じパソコン部で入力スピードの研鑽をしている仲間だ。頭の回転も早く、勘も鋭い。


「最近の美琴ちゃん、ぼ~っとしていることが多いよね」


「それ、この前お姉にも言われたよ…」


「やっぱり、煉先輩が大学に入学して、学校が離れ離れになっちゃったから?」


「…多分、そうだと思う…」


「それだけ、美琴ちゃんが先輩のことを想っているって証拠だよ!」


「紗代…」


 学校の授業や部活の成績に影響は出ていないものの、最近の私の学校生活に『ハリ』がないことは明白だった。


 それは偏に、『先輩』という存在がけやき商から消えてなくなってしまったからに他ならないだろう。


 先輩が大学に入学する前までは、大概部室となっているパソコン室に足を運べば、メールやSNSで連絡をしなくても先輩はそこに居たし、学校帰りも先輩、私、お姉、紗代の4人で帰ることが定番になっていた。


 それがここ最近では、当たり前だけどその定番の中に先輩はおらず、メールやSNSで連絡を取りながら、駅の改札やカフェで先輩の大学帰りに待ち合わせをし、短いデートを楽しむ日々になっていた。


 その短いデートですら、毎日という訳にもいかず、お互いに学校が始まってからは週2、3回がいいところといった状況だった。


「美琴ちゃん、最近、先輩とデートできてるの?」


「うん、昨日、駅前のカフェでお茶してきたよ」


「そうかぁ…それでそんな状態なんじゃ、美琴ちゃんの生活にも影響が出てくるよきっと…」


「…昨日もそうだったんだけど、先輩と待ち合わせした時には、私の心は喜びで一杯なんだけど、『じゃあね』って先輩と別れる瞬間に、それが一気に切ない気持ちに変わるんだよね…」


「…付き合って半年だっていうのに…美琴ちゃんは先輩にゾッコンのままなんだね…」


「ねぇ紗代…私、変かな?」


「いや、変って訳じゃないけど…少し先輩と近くにいる生活に慣れ過ぎちゃったのかもね…」


「少し、先輩がいない生活に対するリハビリをしておかないと、本当にもたなくなるよきっと…」


「…」


 恐らく紗代の言っていることは正しいに違いない。


 先輩が近くにいない生活にも慣れなければならないことも、恐らくは正しいだろう。


 これから先も、先輩と恋人関係であり続けるためには…


「…そうだね…紗代と会話している間に先輩のことを考えて意識が飛んじゃうなんて、私、どうかしてるよ…」


「まぁ、少しずつ慣れていくしかないよ」


「ありがとう、紗代…」


「それで、今日はどこに買い物いくの??」


「そうだなぁ~それじゃあ…」


 紗代とどこに買い物に行くかという話をしている間も、一度聞いた歌のフレーズがリピートするかの如く、私の脳内では先輩のことがグルグルと回転している始末だった。


「(…こんな調子じゃダメだ………って、そう言えば先輩は、私と一緒にいる時間が少なくなって、一体どう考えているんだろうか…)」


「ねぇ紗代…先輩は、どう考えているのかな?私との時間が少なくなっていること…」


「…そりゃ、美琴ちゃんと同じように寂しく感じていると思うよ…」


「そうかなぁ…」


「そうに決まってるじゃない!!心配なら、確認してみたら?」


「…どうやって?」


「直接会ったときに聞いてみるか、あるいはSNSで聞いてみるか…」


 紗代の言う通りだ。先輩の気持ちを確認したければ、先輩に聞くしかない。


「…分かった。先輩と次のデートをする時に、確認してみる!!SNSって、しょせんは活字だし、本当の気持ちをSNSの文字如きで判断することなんて出来ないし…」


「そんなこと言って、ちょっと先輩の返信が遅れるだけで『まだかな?』『もしかして、私のこと、嫌いになっちゃったのかな?』なんて心配するのは、どこの誰だっけ?」


「!それは、その…」


「まぁ、とりあえず次のデートの時に聞けばいいと思うよ。それで、次のデートの日は?」


「…それが、まだ決めてないんだ~いつも先輩のバイトに合わせてデートする日を決めてるんだけど、昨日別れ際に次のデートの日を決めようと思ったら…」


「(…ちょっと、バイトの予定がまだ決まってなくて…明日決まると思うから、次の予定は明日でいいか?)」


「って言われてて…」


「そうなんだ。それじゃあ、この後授業が終わって部活が始まる前までに電話して確認してみたら?確か煉先輩、今日は午後の講義、休みだったよね?」


「紗代…よく覚えているね…」


「いつも美琴ちゃんと話しているから、煉先輩の大学の様子を何となく覚えちゃっただけだよ」


「…そんなに私、先輩のこと話してる?」


「うん!」


“キーンコーンカーンコーン”


「美琴ちゃん!戸山先生の簿記の授業が始まるよ!準備急がないと!!」


「!!そうだね!!!」


 こうして私は、6時間目の授業終了後に先輩に電話をかけ、デートの約束をしようと思ったのですが…


 第4話 に続く

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