平家伝説殺人事件・天才剣士・城戸明日真事件幀
オズ研究所 《《#横須賀ストーリー紅白
第1話:揚げ羽の家紋
何度もみた夢だ。
うす暗い地下の洞窟の細い橋のようになった道を無数の忍者・土蜘蛛衆たちに追われていた。
両脇は千尋の谷のように切り立っていた。
足を滑らせれば、奈落の底へ落ちていきそうだ。現実世界のような危機感が足をすくませた。黒装束の土蜘蛛衆が、行く手を阻もうとしていた。
ゆっくり歩く度に足元が崩れていった。土蜘蛛衆の忍者らと美女、お蝶が剣を交え闘っていた。剣が交差する度に火花が散った。
「清雅様、早く渡って下さい」
お蝶は自分に構わずオレに先を急がせた。
だが、急いで渡りきった所で、行き止まりだ。切り立った壁が
「くっそ~、ここまで来て、行き止まりか」
オレは壁に手を着いた。
お蝶も防戦一方だ。多勢に無勢。オレたちには勝ち目がない。
完全に土蜘蛛衆に追い詰められた。
おしまいか・・・オレは壁に手をかざした。良く見ると壁に蝶の刻印が刻まれていた。オレは、その刻印に導かれるように、手を乗せた。
その瞬間、ドックンと心の臓が高鳴った。
「う、うう・・・」力を込めた。何か、全身から妖気が漂い、オレの胸にある蝶の刻印が光りを放った。オレは強烈な衝撃に絶叫した。
「うっわ~ーーーー❗」洞窟内にゴゴゴゴッという轟音が響き、地鳴りが起こった。土蜘蛛衆も、手を止め事態を見守った。
敵味方、すべての視線がオレに注がれていた。オレの身体から目映い光が放たれた。
「うう・・動くぞ。」壁に隙間のように一条の光の線が洞窟を照らした。
地震が起き、壁が徐々に左右に動き始めた。土蜘蛛衆も闘うのをやめ、今はその壁に視線を注いでいた。
「おお・・・壁が動くのか」
敵の大将も驚愕の声をあげた。
オレの目に目映いばかりの光りが映った。視界は真っ白だ。
オレは、その光りの渦に飲み込まれていった。
「これこそが、平家一族の隠し財宝か~ーーーー❗」
オレは驚喜の雄叫びを上げた。
( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°∠※。.:*:・'°☆
その時、オレは夢から醒めた。
薄い御座のような煎餅布団の上だ。
「財宝だ。ついに見つけたぞーーー❗」
手を伸ばし起きたが、辺りは別世界だった。オレは辺りを見回した。そこは、住み慣れたうす汚い長屋の一軒家だった。
ふ~っと大きく息をついた。またあの夢を見た。だが、いつもとは違った。
いつもは、どうしても開く事のなかった壁が、開いたのだ。
そして、拝む事の出来なかった財宝が目の前にあった。
手を見ると、壁に刻まれた刻印の痕がクッキリと残っていた。
「この刻印は・・・」蝶のような痕であった。
長屋の仏壇には亡き母から譲り受けた羽子板が飾られてあった。
飾り絵には、揚げ羽蝶をかたどった三匹の蝶が刻み込まれてあった。
全国各地には今でも隠し財宝の伝説が残っていた。
有名な所では、徳川埋蔵金だ。
他にも、武田信玄、豊臣秀吉の埋蔵金など名だたる武将には埋蔵金伝説が数多く残されていた。
そして、もうひとつ、平家の隠し財宝にまつわる伝承だ。
俺たちは、この平家伝説に関わる争いに巻き込まれる事となった。
時は江戸時代、安永八年。十代将軍 徳川家治(いえはる)が政権を執っていたが、実権は老中、田沼意次が握っていた。俗に<田沼時代>と呼ばれていた。とかく賄賂政治だと揶揄されるが、財政難の幕府を建て直すため、
改革を推し進めていた。
居酒屋<お藤>。平賀源内が馴染みにしていた。
オレは源内先生に相談を持ちかけた。源内は50にもなって独り身、同性愛者だったという噂もある。
「ん~、っで、清。折り入って、ワシに話があるそうだが・・・」
「はぁ・・・実は、こんな事言っても信じてもらえね~でしょうが・・・」
オレは夢の話をした。小さい頃から、幾度となく見てきた夢だ。
「同じ夢にうなされる・・・」源内は酒を飲みながら聴き返した。
「ええ、それが決まって、どっかの地下の洞窟でしてね」
話していると、少し離れた所に謎の編み笠を被った男達四人が座った。
「酒を四本、貰おう。」編み笠を取った。精悍な顔立ちだ。女将は、はいと言って用意した。オレはその四人がやけに気になった。
その四人も何やらオレたちの方を伺(うかが)っているようだ。
源内は、初め信じてなさそうだったが、隠し財宝の件を話すと、
「はぁ~ン、っで、その夢から醒めたってワケか・・・」かなり乗り気だ。
何しろ、改革、改革で娯楽はご法度。派手な事は出来ない。
浮世絵も大人しいモノばかりだ。
「その夢を小さい頃から何度も見てンのか・・・」
「ええ・・」少しは、聞く耳を持ったようだ。
「ね、隠し財宝なんて、本気にしてるの。」と横からお篠が聴いた。
「それは・・・」本気で言ってたら、頭を疑われる。
「だって、どこの洞窟か、見当もつかないンだろ~。」
「そりゃぁ・・・そうだが・・・」実際、雲を掴むような話だ。
「じゃ、ダメじゃない。せっかくの隠し財宝も手がかりが、まるでないなら・・・」
確かにお篠の言う通りだ。
「何か手懸かりになりそうなモンはね~のかい。」と源内。
編み笠の男たちは聞き耳を立てて、静かに酒を飲んでいた。
「手がかりね~・・・ああ、そう言やぁ、おっ母から譲り受けた羽子板があったな。」
「羽子板か・・・」その瞬間、編み笠の男たちの目がランと光った。
「ありゃぁ、おっ母が大事にしてたモンで・・・、亡くなる前にも羽子板の事を」
「う~む、話だけじゃ・・・羽子板か。ちょっと見せてくれんか。」
「ええ、ま、構いませんが、大したモンじゃありませんよ。」
編み笠の男たちは無言で目配せをした。
オレは神田にある源内邸へ羽子板を持って急いだ。だが、知らない内にオレには影が追跡していた。土蜘蛛衆だ。
頭目の将宗は源内邸を望み、
「良いか。絶対にヤツを見失うな」と命じた。
手下の加助らは、無言で頷き、瞬(またた)く間に姿を消した。
邸内では、源内が羽子板を手にし小さく唸った。
「これか・・・」飾り絵を見つめた。オレはそうですと応じた。
「蝶じゃないの。これって・・・」篠が飾り絵を指して言った。
「そうだ。揚げ羽蝶だそうだ。」
「揚げ羽蝶か・・・こりぁ、家紋かもしれんな。」源内。
「家紋……って、徳川の葵の紋所みたいな」
「ああ……、揚げ羽蝶の家紋と言えば、平家の家紋が有名だ」
「平家ですか・・・」
何を言い出すかと思ったら・・・
「ああ・・」羽子板を横から見たり、引っくり返したりした。お篠は、
「まさか・・清さんが、平家の末裔とか。」
「ないない。そんな事・・・」オレは大袈裟に手を振った。
「ん~・・」源内はまた唸り、「平家は壇之浦で負け、散り散りになって、各地に落ち人として集落を作っていると聞く。」
「平家落ち人(うど)伝説か・・・・」オレも話には聴いた事があった。
だが、まさか、自分が平家の末裔だなんて信じられなかった。
天井裏では、土蜘蛛衆・将宗がオレたちの話を盗み聞きしていた。
将宗は小さく、「ヤツが、清国の落とし胤(だね)か・・・」と呟いた。
第二話:城戸明日真
夕刻、江戸の町を紅く染めていた。オレは帰宅途中、人通りのない道で、背後から女性の悲鳴が聴こえた。
「キャ~」オレは、咄嗟に振り返ると、謎の集団に襲われている美女が駆け寄ってきた。
「助けて~ーー!!」直ぐ様、オレは救出に向かい、その美女を庇うように集団の前に立ち塞がった。そこへ謎の影の集団が押し寄せて来た。
オレは、一瞬、逃げようかと思ったが、
「何なんだ。お前らは・・・」とハッタリをかませた。美女は怪我を負っているようだ。
「そのオナゴを寄越せ。」敵の頭目らしき男がアゴで指した。
「く、さっきの居酒屋にいたヤツらか・・・」
「オナゴを置いて、何処かに失(う)せろ。」
どう考えたって勝ち目はね~。相手は、人殺しも厭わない強者たちだ。
それに、庇った女も何の関わりのない。逃げたって罰は当たるまい。いつもだったら、コソコソ逃げていた。だが、美女の手前、オレは意気がった。
「お前らこそ、女ひとりに、恥を知れ。」だが、そんな啖呵で臆するヤツらではなかった。バカな真似をしたモンだ。余計、火に油を注いだようなモノだ。美女は傷つきながらも、気丈に振る舞った。
「狙いは、あたしだろ~❗この人には関わりない。」闘う姿勢だ。
「フン、やれ!」敵の頭目は手下に指示を送った。
一斉に、美女に襲いかかった。オレの事など目にも掛けない。
美女の剣の腕は見事だったが、何しろ相手は数に優った。劣勢は否(いな)めない。
「フン、」頭目は、Xにした両腕をシャッと前方へ、「死ね。」
つぶてが見えない速度で飛んでいった。
「ヤバい!!」オレには救う手立てはなかった。このまま、美女は餌食になる。そう思った瞬間、どこからか急に出てきた黒い影が一瞬にして、つぶてを弾いた。
手下も驚愕の目で、その影を見た。何者か。黒い影は、美女の脇に立った。
「フ、女相手に、大層な事だな」
影は、侍だろうか。役者にしてもいいほどの端正な顔立ちだ。これだけの敵に囲まれて臆するどころか、余裕すら感じられる。
「これだけの土蜘蛛衆が揃って、時期はずれの祭りでも開くつもりか」
「な・・・」一瞬にして、影を囲んだ。
「邪魔をするな。」頭目が殺気を放った。
「そ~怖い顔すンなよ。夜、一人で寝れなくなる。」
「何だお前は・・・何者だ。」
それは、オレも聞きたい。
「オレか・・・そうだな。甘えン坊将軍さ。」ふざけた事を・・・。どう切り抜けようと言うンだ。土蜘蛛衆と呼ばれた忍者たちは、完全に、オレたちを包囲した。もう逃げられない。手立てはあるのか。
「お主・・・、戯(ざ)れ事を言うな。」
ジリジリと包囲が狭まっていく。一気に掛かられたらヒト溜まりもない。
だが、男は余裕の顔つきで、
「お前らには、もったいないが・・・」背負った長剣を抜いた。
その瞬間、恐ろしいほどの妖気が発せられた。一瞬にして形勢は逆転したようだ。
「まさか・・・その剣は・・・・」たじろぎながら、
「天下の名刀・鬼斬り丸だ。ど~した汚ね~面は見飽きた。片っ端から地獄へ送ってやるから、掛かって来いよ」
「ぬぅ・・・」土蜘蛛衆は呻いた。鬼斬り丸の圧倒的、妖気に圧されたのだろう。
大江山で源頼光が鬼の頭領、酒呑童子の首を斬(は)ねたと言われる伝説の名刀だ。
名だたる名君の手を渡り、田沼意次の屋敷にあるとされた幻の妖刀だ。
先だって何者かに盗まれたという名刀が、どうしてヤツの手に・・・
だが、考えていても仕方ない。土蜘蛛衆は得物を手に襲いかかってきた。
しかし、ヤツらの剣が血飛沫をあげる事はなかった。
それは、舞いでも踊っているような華麗な殺陣(たて)だ。鳥肌がたつような演舞を見せられたみたいだ。
土蜘蛛衆は次々と斬られていった。
もはや勝負は決した。土蜘蛛衆は、散り散りになって逃げていった。
敵の頭目もあまりの事に、命じる暇(いとま)さえ与えられなかった。
「ひ……、退け~」すでに大半は斬られ、残りも逃げていた。
まさに修羅のごとき剣使い。背筋が寒くなった。
∠※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆
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