第17話 スターサファイア
午後最初の授業はマリネラ教授の魔法学だ。
アリの巣で見つけた4つのスターサファイアと薄いワイングラスがマリネラ教授の前にあった。
「それで、結論から先に言うと、このスターサファイアは魔法の力を2倍から10倍にも高めてくれる。理論的にはこのワイングラスで証明出来るので、簡単な実験をしてみるよ。
この薄いガラスのワイングラスのふちに少しだけ水を付けて手で回すと」
マリネラ教授は呪文を唱え、少しだけワイングラスに水が溜まった。
それを手に少しだけ付けて、ワイングラスの縁をなぞると、綺麗な音が聞こえてきた。
クラスのみんなは驚きを隠せなかった。
見慣れたワイングラスからこの様な綺麗な音が聞こえてくるとは。
でもこれって、音出すの結構難しいんだよね。
「この様に媒体を通すと、指の細かな振動がワイングラスと共鳴して大きな音になる。
このスターサファイアも同じ様な原理で、魔法をこのスターサファイアに放つと純粋な魔力を共鳴作用によってより強力になる。
では、スースラム。前に出てきて」
突然、マリネラ教授から名前を呼ばれたので、スースラムは動けなかった。
横にいたスリーが手で押して、むりやりスースラムを動かした。
「スースラム、このスターサファイアにホタルの妖精を呼び出す魔法を放って。
そうすると、いつも以上に大きなホタルの妖精を呼び出す事ができる。
さ、やって見て」
スースラムは勇気を絞って、スターサファイアに呪文を放った。
「ホホホタルコイヒカリヲ」
突然、巨大なホタルの妖精が現れた。
あまりにも眩しくて、ずっと見ていられないほどの光を出している。
スースラムが以前出したホタルの10倍以上の大きさのホタルに、クラス中がどよめきだした。
どひゃーー。なんつう大きさだよこれは。スースラムの頭ぐらいある。
「す、すごい」
「こんなに違うんだね」
「驚いたよ」
クラス中が大騒ぎになっていった。
1番驚いたのは、もちろん精霊のホタルを召喚したスースラムだった。
目をパチクリと何回も繰り返しているだけで、棒立ちのままだった。
マリネラ教授がスースラムに言った。
「ありがとう、スースラム」
そう言うとマリネラ教授は。スースラムを軽く押して席に座る様に促した。
競争心の強い、スームリがマリネラ教授に質問をした。
ライバルのスリーが持っていて、自分には無いのが悔しかったのだろう。
「僕の家にもスターサファイアがあるのですが、同じ様な事が起こるのですか?」
「確かスームリのお父様の剣に、とても大きなスターサファイアが付いていたね。
答えはイエス。
だけど相性の問題も多少は関係して、スースラムはこのスターサファイアとの相性がいいみたいだけれども、スームリのお父様が持っている剣が、スームリに合うとは限らないのが魔法の七不思議の一つなんだよね」
スームリの顔から笑顔が消えて、代わりに残念そうな顔に変わっていった。
へへへ、ザマーミロってんだ。敵役はおとなしくするべし。
いててて、誰だまた俺の頭を叩くのは。
なになに、スームリをいじめるなって!
何で?
え、スームリのファンクラブを結成したって。マジ???
「剣を変えるエルフ達がいるけれども、自分に合った宝石が見つかった時に剣に付けるんだよ。そうすると、以前よりも強力な魔法が使える。
だから、みんなも自分に合った宝石を見つけて、剣に組み込めば魔力が上がると言う事だね」
クラスのみんなが納得をし、各自に合った宝石を見つけたいと誰もが思い始めていた。
「他に質問は?
無いんだったら今日の魔法は防御魔法の基礎を学ぶよ」
マリネラ教授が黒板に防御の魔法を書いた。
"ボウギョヨロイカ"
「では初めて」
これは初歩の防御だったので、誰もが成功していた。
キラキラと光る幕が各自の周りを覆っている。
「みんな成功したようだね。
これで普通の攻撃魔法や、矢の攻撃を防ぐ事が出来る。
しかし、強力な魔法が来るとこの膜も役に立たなくなって、突き抜けられてしまう。
矢も同じで、魔法を掛けた矢だと突き抜けられる。
何か質問は?」
ニンフルの次に頭がいいと噂のサーシャが質問をした。
「先ほどの宝石を使ってボウギョヨロイカの魔法は、やはり強化されるのでしょうか?」
「いい質問だね。
今度はナオミ前に来て」
ナオミはすぐに反応して前に歩いて行った。
かんばれ、ナオミ〜〜。
俺は、ナオミのファンクラブを作ったぜよ。
「ナオミ、スターサファイアを持って、それに向かってボウギョヨロイカの魔法を放ってごらん」
「はい、分かりました」
ナオミはスターサファイアを持って、呪文を唱えた。
今度はかなり強い光を放った膜がナオミの周りに現れた。
見た目だけでも強力になっているのが分かる。
「自分に合った宝石を使えば、この様に魔法のランクを上げることができるんだよ」
珍しくスリーが手を上げている。
「スリー何か質問でも?」
「はい。防御魔法と攻撃魔法はどちらが強いんですか?」
「スリー、いい質問だね」
クラス中が少し笑った。
マリネラ教授が授業中にスリーを褒めたのは、これが最初だったからだ。
「結果を先に言うと、より強力な魔法の方が有利になる。しかし、それは状況に応じて使い分けないと、一日中強い魔法を使うと気力が奪われて最後には魔力自体が弱まってそこを狙われる。
戦闘では駆け引きが大事で、練習と経験を多く積んだものが有利になって、戦況を左右するから気をつける様に」
ナオミが今度は手を上げている。
「ナオミ、質問だね」
「はい、ベクトルの原理で魔力が強化できるのでしょうか?
つまり、宝石を複数使ってより強力に出来るかが質問です」
「ベクトル?
その単語が分からないのだけれどね」
「えーと。
黒板に書いてもいいでしょうか?」
「ああ、お願いするよ」
ナオミは前に出て、黒板に簡単なベクトルを書いた。
「例えば、ここに重い石があった場合、1人ではこの線の力しかないとします。
別の人も反対の方向から石を持ち上げますが、それがこの線で表します。
石の重さが10あるとすると、1人の力は7と6で、別々では持ち上がりません。
しかし、2人が同時に石を持つと、平行四辺形の先にある方向に力が出せるようになり、およそ、12の力が出せて石が持ち上がります。
質問は、このようなベクトルと宝石を利用して、魔力が増えるのでしょうか」
「ナオミの質問は、複数の宝石を利用して、魔力が高まるかだね。
それこそ、今私が研究している分野なんだよ。
魔力が高まるけれど、まだまだ研究段階で、どの位高まるか分からなかった。
でも、この概念は利用できるね。ありがとうナオミ」
「はい、お役に立てて嬉しいです」
クラスのみんなが呆気にとられていた。
ナオミの書いたこのような図形を初めて見て、さらにマリネラ教授が今後の研究に役に立つと言っているのだ。
みんながナオミの見る目がさらに変わっていった、二番目の出来事だった。
やったねナオミ。さすがは俺が認めただけはあるよ。
え、お前は関係ないから消えろだって。
ハイハイ、消えますよ。
これで第17話は終わりですから。
じゃまたね。歯、磨けよ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます