6W     ハート雷魔法の電圧V(ボルト)が気になる俺


「アイツは襲雷人シュライトよ! 私といっしょに追いかけてっ!!」


 ハートの顔つきが険しい顔になり、いきなり俺の手を引き走ることになる。しかし、逃げる泥棒の走る速度のほうが速く、追い付こうとしても離される。男の人影がどんどん遠くになり、小さくなる。俺はこのまま泥棒が逃げ切られるのかと思ったが、ハートがいきなり立ち止まった。


「入国管理ギルドの、エリートである私を本気にしたわね! 自然にまう三種の精霊達よ……いかずちと成リテ……先方の走る者に……」


 ハートは魔法の呪文を唱え出した。俺は突然で驚いたが、初めて魔法の呪文を横で見ていた。いや、ハートの魔法の呪文を唱えるオーラと、その場の空気がガラリと変る様子に立ち尽くすしかなかった。

 魔法の呪文を唱えるハートの真正面から、大きな球状の雷が発生する。俺はこの球状が電気だと直感で分かった。その時に一瞬、でんきやさんのサガか、この雷は何V《ボルト》の数値があるのかと思ったが、そんなことはお構いなしにハートの腰から、短い杖のような物を出す。そして逃げる男の方向にその杖を振りかざした。


「大いなる雷よ! べ!!」


 球状の電気のかたまりが、男の方角に向かってまっすぐ綺麗な線を描きながら、光速にほとばしる。しかしハートの魔法は逃走する男には当たらなかった!


「しまったぁ!! 私としたことがっ!」


 ハートの魔法である電気の塊は、逃走する男の手に持っている、盗んだリンゴにヒットした! 逃走する男はハートの魔法に気づいたのか、さらにペースを上げて必死に逃げる。


 ハートおいっ! なぜ魔法が外れたんだよ……。入国管理ギルドのエリートじゃないのか? 俺は心の中で突っ込んでしまったが、逃走する男の手から落ちたリンゴは魔法の雷で焼けた影響なのか、ほどよい『焼きリンゴ』になっていた。俺とハートは逃走して遠くに小さくなっていく男を見ながら、ハートが話した。


「つい……アイツが手に持っていたリンゴが美味しそうだったから、呪文を唱える最中に……邪念が入って焼きリンゴを想像した……後悔は……している」


 魔法失敗の原因はソレだよハート! 俺はこのままではアイツに逃げ切られると思い、次の作戦を考えることにした。ハートが街案内をしてくれた時に、街の地形と道路の特徴を知った俺はひらめき、逃走する男を捕らえる作戦をハートに話す。


「わかった、その作戦! 乗った!! もぐもぐ……」


 って……言いながらアイツが落とした、焼きリンゴを食べるの?……ハート。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る