第3話 「ひまわりさん」の激励
ある暖かい日、ぼくは公園で、ひまわりさんがいっぱい咲いている場所の前のベンチに腰掛けて、うなだれておりました。
辺りには、だれもおりません。
今日は平日ですし、みんな忙しいのです。
「あら、あなたは、どうしてそんなにうつむいて、背中を丸くしているのですか?」
後ろから声がかかりました。
ひまわりさんだったのです。
「ああ、気になったらすみません、引っ越します。」
ぼくは立ち上がりかけました。
「まあまあ、せっかく聞いたんだから、お返事位なさいませ。」
「はあ・・・」
ぼくは座り直し、こう言いました。
「家にいると、嫁さんから、下着の着方が悪い、靴下のはき方が悪い、カッターシャツの着方が悪い、車に乗れば、何で右に行くのと叱られ、左に行こうとしたら、右が良いなら右に行けば、と叱られ、残業して夜中の11時に帰れば、早すぎると叱られ、職場に行けば、今日は来てるといわれ、行かなければ来なかったと言われ、体調が悪くて昼休みに倒れて唸っていたら、職場の人から、「静かにしてください」と叱られ、昼休みにいるところがなくなり、とか。うつ状態だったり、腎臓がおかしくなったり、やたら気が散ったり、夢のようなことばかり思ったり、死にたかったり、いろいろとありまして、まあ結局やめました。でも、なんの才能もなく、人信もなく、あてもないので、こうして座っています。」
「まあまあ、あなたご自分から、自分は病気です、とか、体調良くないとか宣伝したり、遅刻したりとか、その常識はずれのご自分の夢を、熱く語ったりとか、そんなこと、しました?」
「そりゃまあ、そうでしたから。朝は体が動かないし、無理してゆけば、橋に自動車ぶつけるわ、うまく話せないし、うまく話せないと、お客様から当然、他の人と変われと叱られますし、だから余計怖くなりますし、でも、しばらく休職した後も、本人はけっこう必死なんですが、なんとかしようといっぱいメモ書きして貼ってみたり。でも周りからは、もっと足りない、もっと仕事しろといわれ、なんとなく給料泥棒すれすれまで言われ、でも、実際、本当にそれがたぶん真実で、もっともな事なので、もっと頑張らなきゃと思いながら、おトイレの中で、気持ちが混乱して頭を抱えて、動きが取れずに震えていたりとか、おまけにあせって携帯電話を便器に落っことして、笑われたり、おしっこもらしたり、もう、あまりにも世間様に申し訳ないですからねえ・・・・やはりもう、外には出ない方が良いと思いましてねえ。」
「あらまあ、でもね、「病は気から」、といいますでしょう。ほら、わたくしなんか、いつも明るい方を向いて、何を言われようと、背筋をピンと延ばして、最後まで生きますの。まあ、真似しなさい、なんて酷な事は言いませんが、少なくとも歩く時だけでも、まっすぐ前を向いて、明るく微笑みながら歩けませんこと?」
「そりゃあ、にやにやしながらでは、かえって疑われますよ。」
「にやにやではなくて、微笑みです。ほ・ほ・え・み。この違いが分からないかなあ。」
「わからないです。」
「じゃあ、あすから、ここに通いなさい。レッスンしてあげますから。」
「はあ・・・・」
で、ぼくはしばらく、ひまわりさんのレッスンに、通いました。
おかげさまで、なんとかこうして文章が書けるようになるまで回復したのですが、あのひまわりさんは、もういません。人間は、長生きするのです。
でも、これは、夢の夢なのです。
毎晩つらい夢が多い中で、こうした夢のある夢を見たいなあ。
それが、ぼくの願望です。
起こりっこない事を、夢想するだけの毎日なのです。
けれど、どこか楽しいな。
『ひまわりさんの 教えを胸に きょうも昼寝です』
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