其れは終焉と共に破滅を呼び寄せて

「レ、レーヴァテインって……確か北欧神話に出てくる、伝説上にしか存在し得ない剣じゃ……?」


「そこに関しては詳しいんだな。その通りだ、だが俺にも代表がなぜあのような武器を、『いくつも所有している』のかまでは分からない」


 ……いくつも? いくつもと言ったのだろうか、私の聞き間違いか? もしそれが事実ならば、彼一人で全てのスクラッパーズを抹消できるのではないか?


「いくつも……というのはレーヴァテインを複数ということでしょうか。それともレーヴァテイン以外の武器も、持っているということでしょうか?」


「無論、後者だ。代表は状況や気分に応じて複数の闘器……。いや、正しくは『神器』というべきか……それを操っているんだ。代表だけは俺達と頭一つどころか、次元が違いすぎる」


 彼がそう言い終わるか終わらないかの瞬間、先程の熱線の衝撃とは、全く比べ物にならない轟音が響く。


 眩い光が突然、私の背後から差し込んできたため、私は後ろを振り返った。その瞬間、男が私を地面に押し倒す。


 その次の瞬間、地震と錯覚する程の衝撃で大地が震え、突然砂嵐が起こったのかと思うほどの砂塵が舞い上がったのだ。もしも、あのまま立っていたら、とんでもない速度で飛来した砂の粒に、目をやられていたかもしれない。


 その砂塵の壁の向こう側に、紅蓮と漆黒が入り交じった色合いのドームができているではないか。そこから熱風が私達に向かって吹き付けている。


『とてつもない熱暴走を感知。これをたった1人で起こしたとは、私にはとても思えません』


「…………」


 私はブラッグの言うことなど、全く耳に入らなかった。唯々唖然とするしかなかったのだから。現に何の苦もなく、私の目の前でスクラッパーズを倒して見せたのだ。


 しかし、彼は首に手をあてた状態で、何度も気だるげであった。


「……まずは1体。あれ、すいちゃんだ」


 彼の視線は、私から見て左側に向かっていた。私もそっちに目を移すと、灰で体も顔も髪も真っ黒になった、人形のシルエットが立っていた。


 体が全体的に黒っぽい為か、目がやたらとハッキリとみえる。それと……彼女から、妙に焦げた臭いが漂ってくる。


「ちょっと代表さん!? 私がいるって話聞いてましたよね!?」


「いやすいちゃんって逃げ足が速いから、僕がオシリスの気を引いてる間に、どこか遠くに逃げてるのかなって思ってた」


 それが自分の仲間に対する扱いだろうか。傍らで新人である私が言うのも色々とアレだが、そのやり取りは不味いのではないだろうか……。


「代表。今は言い合いをする時間ではありません。優里さんがたった一人で頑張ってます」


「えっ?」


 あ、優里さんのことを忘れてたんだな、とその場にいる誰にでもわかるような声が、代表の口から聞こえてきた。


 優里さんが言っていた通り、戦闘に関してはどこにも申し分のない強さだが、本当に大丈夫なのだろうか、この代表は……。


「忠告ありがとねドレッド君。おかげで殺されずに済みそうだ、ちょっと行ってくる」


 そういえば、このリーダー格の人に、私は名前を聞いていなかった。どうやらドレッドという人らしい。


「む、そういえば名乗ってなかったな。俺はドレッド。本名は『ドレッド・ガイスト』だ。改めてよろしく頼む」


 そう言い終わった直後、ドレッドが自分の真後ろへとランスを投げつける。その投げたランスは銀色の放物線を描き、50mほど前方で2人と戦闘している、オシリスの後頭部に深々と突き刺さったのだ。


 オシリスの突き刺さった瞬間、緑色の液体が噴き出した次の瞬間、銀色の軌道が一瞬だけ歪み、オシリスの頭だけが爆発で吹き飛んだ。


 頭部を失ったスクラッパーズは、暫く地団駄を踏むかの如く暴れまわったが、最終的に糸の切れた操り人形のように、その巨躯を地に横たえる。


 ドレッドは、仲間達が武器を収める姿を遠巻きに確認した後、何かを巻き取るような仕草を見せながら、オシリスの方へと近づきながら、通信機を口元に近づける。


「脅威消失。ミッションコンプリート。ご苦労だったな」


『け~っきょく、ドレッドの良いトコ取りかよ! アタシ達の頑張りは!?』


「……すまん銃架つつか。後輩の護衛と安全確保が、最優先事項だった。後で甘あ物でも買ってやるから、その機嫌をなおせ」


『マジで!? ドレッドサイコー!』


『リーダーは銃架つつかちゃんをモノで釣りすぎ。銃架つつかちゃんも、モノに釣られないように、ちゃんと努力しようよ……』


 そんな賑やかな話し声が聞こえてくる中、私は真っ黒の煤だらけになって、目だけが異様にハッキリと見える彼女の煤払いを手伝っていた。煤を払い落していくと、彼女本来の髪の色や服本来の色が、若干煤に汚れたままなりに戻り始めてきた。


 最後に穂さんは、犬のように頭を左右に激しく振ってから、私の方に向き直って笑顔を見せた。黒さが残る女性特有の白い肌に、煤を被った竜胆色の髪がよく映えていた。


「ありがと。それと情けない姿見せちゃったね。私の方がまだ君よりも先輩なのに……」


「いえ、別にそういう風には思ってないので……。それよりも、なんで3体ものスクラッパーズと鉢合わせを……?」


「あぁ。あのスクラッパーズは私が、ずっと観察していた『スクラッパーズの群れ』なのよ。群れたスクラッパーズはそうそう確認されてないから、スクラッパーズのデータ収集のつもりで潜伏してたんだけど……見事にドジを踏んでこの様ってワケよ」


 あぁ、もうこれ以上は言及することはしないでおこう。その方が彼女の為にもなるだろう。そう考えた私は、適当に相槌を打って納得したような雰囲気を出し、それ以上の追及をやめた。


 その次の瞬間、私達とは離れた場所で、また同じ黒と紅色の大爆発が起こった。


 その大爆発を、視覚で認識したのとほぼ同時だっただろうか。私の目の前に、優理さんを抱えた代表が、いきなり上空から降ってきたのだ。


「うわっ!?」


「ん? あ、ゴメンね。僕もよく着地地点を見てなくって……大丈夫? 怪我とかしてない?」


「ちょっ……新人の怪我を心配するなら、私を下ろした後にしなさいよ!」


 私が驚いて言葉も出ない隣で、穂さんが「あぁ……貴重なデータが取れると思ったのにぃ……」と、これから世界が終わるかのような口調で膝と手をついていた。これからもなにも、既に世界は終わっているのだが。


 若干顔を赤くした優理さんが、代表の腕から降ろされた後、私はある事に気付いた。先程まで持っていたはずのレーヴァテインを持っていないのだ。かといって背負っているようにも見えない。


「あの、さっき持ってた剣は……?」


「え? あぁ、そうか。士君にはちゃんと話してなかったね」


 そう言った代表は、いきなり自分の右手を見ておくよう、私に指示をしてきた。何が起こるか分からないまま、私は右手をジッと凝視する。


 右手の指先が、ほんの少しだけ妙な動きを見せた後、その右手をを横へと突き出した。すると……にわかには信じ難い事が起こったのだ。


 なんと、私から見て右側に突き出したはずの右手首から先が消滅し、消滅したはずの右手首から先が、左側に現れたのである。


「……!?」


「ハハハ。前もって言っておくが、これは手品やマジックの類じゃない。多少なりとも姿形は歪だと思うけれど、これが―――僕の《闘器》なんだよ」

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