残り約四十四キロ

 内側ミソノ。第一陽動ポイント到達。合流ポイントまであと約四十四キロ。



 その場所が第一陽動ポイントだと、ミソノ班が理解できたのは敵兵の指揮を執る陣が組まれていたのを草陰から確認できたからであった。シャドウ曰く、白には特別な能力はないが、豊富な武器と人手、そして戦略があるという。つまり軍隊という単位で見れば、史上最強なのだ。中でも彼らは剣術に長けており、その腕は銃撃部隊を押し退けるほどだという。銃と剣を相対させれば、剣が勝つというのだ。もちろん彼らに銃撃部隊がいないわけではない。俺とミソノは先日夜の校舎で交戦したばかりであり、対処に苦慮した相手でもある。


 目には目を、歯には歯をという理論はあまり好きではないが、ピストルに関してはミソノがダントツだ。彼女はその能力保持者なのだから。よってミソノ班に課せられた任務は敵銃撃部隊を叩くこと。しかし、実際敵の部隊はその割合が半数ずつであったので、ミソノは少し戸惑ってしまう。


「どうします?」


「うーん、どうしようか……。ねえ、私たちの最重要任務は陽動だよね」


「ええ」


「ならいいんじゃない? ザキさんとかの調査では部隊がいるかもって情報だけで、その詳細までは割りだせなかったんだから仕方ないよ。きっと、もう片方の班も同じ状況だろうからこのままやっちゃおう」


「分かりました。準備します」


 ミソノは最後に自分のハンド・キャノン、正式名称M1911をチェックした。銃であれば何でも使用できる中でも、これはとてもシンプルなもの。最近の型ではあるものの、数多く種類のある銃の中では非常にシンプル。最大弾数は八発。リロードし放題だから実質弾数に制限はない。ミソノにとってハンドガンが一番扱いやすいということなのだろう、と本人も自覚している。


 実際、ミソノが自分の能力がこの能力だと判明したとき彼女自身はとても嫌った。花を咲かせるような能力の方がどれだけいいか、人を傷つけるためだけの能力なんて、そんなものはいらないと思っていたのだ。それでも今日まで使い続けている理由は言わずもがなシャドウである。死後は天国で温泉でも浸かりながらゆっくりできると思っていたから、戦わなければいけないなんてのは反対だったミソノは文字通り、引き籠った。シャドウは毎回ドアをぶち壊してミソノに縄を括り付けて引きずって歩き回った。ミソノが銃を手に取るようになったのは、シャドウの身を救うようなことがあったからなのだが……それは長くなるから今は胸の内に秘めておく。時々一部を引っ張り出してカビが生えていないか確認する程度でいいのだ、とミソノはハンド・キャノンの片方をしまいながら思う。


『ミソノ班ポイントに到着』


『よし、じゃあ打ち上げてくれ』


 シャドウからの指令。私はこれを遵守しなければいけない。頼って欲しい時に頼られるというのは非常に嬉しいことなのだから。よって私はいつも以上に張り切ってみることにした。


『了解っ!』


「よっし、じゃあでかいの打ち上げるよ!」


「え? これ使うんですか?」


「早く、早く!」


 大樽爆弾を三つほど打ち上げると、敵陣営は敵を探そうと混乱に陥った。隠しておいた砲台から放たれた黒い塊は敵陣のど真ん中に落ちて四方へ散り散りにさせた。スタードが空間と次元を支配し――そもそも他に支配してやろうというやつがいないので、能力を使った瞬間に支配できるのだが――黒の能力者を敵の死角から刺客として送りこんだ。当然白は不意を突かれたせいでまともに戦えるものが少なく、次々に消えていく。何とか体勢を立て直してもスタードによる異次元支配には対処できず、すぐに背中を取られていた。通信関係はザキが完全に制御しており、仲間に増援を要請すること、本部の方に現在の状況を伝えるものだけを垂れ流させ、あとは妨害した。つまり敵の、白の連携は一切取れていない状況である。指揮官が発した情報はすべて文字化けし、困惑のさなかに起こる唐突な爆発と戦闘。黒はほぼ無傷で状況を進めていた。陽動は成功し、白の兵力は減少していった。


 全てが順調だったのに、それは突然現れた。予想だにしない奇襲に対して奇襲を掛けられたのだ。不意のことに対処できないのは白だけではない。黒だって同じ状況になれば混乱するし慌てふためいてしまう。


 ミソノはツインバレッドを得意げに撃ちまくっていた手を不意におろし、つぶやくしかなかった。気づけば森は火事になっており、白と黒の双方を巻き込んで燃え盛っていた。


「これは……どういうことなの……?」


 ミソノが何かの気配に気づき、振り返った場所には大きな翼を誇示した白とは別の敵がそこにはいた。


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